002 鎧の中の声
ガルドが黒い鎧を手に入れてから、戦い方が変わった。
岩鬼の棍棒を正面から受け、片手で押し返す。大剣を振れば、盾ごと敵を断ち割った。
「すげえだろ」
焚き火の向こうで、ガルドは笑った。
「呪われてないのか、それ」
「さあな。ただ、夜になると声がする」
「声?」
「何言ってるかは分からん。精霊か何かだろ」
俺は外せと言った。
ガルドは笑って聞かなかった。
◇
半年後。
ガルドは飛竜との戦いで死んだ。
俺を庇って。
最期に、あいつは鎧を指した。
「ハルト。これ、お前にやる」
「いらねえよ」
「強くなれるぞ」
それが最後の言葉だった。
◇
三日後。
俺は鎧を着た。
驚くほど軽かった。
身体が勝手に動く。
剣が速い。
力が溢れる。
ガルドが手放さなかった理由が分かった。
そして、その夜。
聞こえた。
ぼそぼそ。
男の声。
次の日は女。
その次は老人。
二人、三人と重なる夜もあった。
意味は分からない。
俺も最初は思った。
精霊か何かなのだろう、と。
◇
十日ほど経った夜。
「……ハルト」
目が覚めた。
聞き間違えるはずがなかった。
「ガルド?」
少し間があった。
『おう』
死んだはずの仲間の声だった。
最初は嬉しかった。
戦いでは敵の動きを教えてくれた。
『右だ』
『そいつは足を狙え』
以前と変わらない。
俺も普通に話した。
だが、数日するとガルドは妙なことを言い始めた。
『なあ、ハルト』
「何だ」
『ここ、暗いんだ』
「どこが?」
『分からねえ』
別の夜。
『苦しい』
「お前、死んでるだろ」
『……そうなんだよな』
笑わなかった。
『なのに、苦しいんだ』
◇
その夜から、他の声も少しずつ言葉になった。
『寒い』
『出たい』
『暗い』
『まだか』
男。
女。
老人。
子供。
何十人いるのか分からない。
俺はガルドに聞いた。
「お前が生きてた頃に聞いてた声って……こいつらか?」
長い沈黙。
『たぶんな』
「じゃあ、こいつらも昔この鎧を?」
『分からねえ』
「お前は、そこから出られるのか?」
また沈黙。
『……出られない』
「いつから?」
『死んでから、ずっとだ』
背中が冷たくなった。
俺は無言で留め具に手をかけた。
一つ。
外れた。
二つ目。
外れた。
最後の一つ。
動かない。
「……なんでだ」
引く。
外れない。
剣先を差し込む。
びくともしない。
指から血が流れた。
「外れろ……!」
その時。
くす。
女が笑った。
続いて老人。
男。
子供。
鎧の中から、いくつもの笑い声が重なった。
「何がおかしい!」
返事はない。
ただ笑っている。
「ガルド」
笑い声の中で、あいつだけが黙っていた。
「おい、ガルド!」
ようやく声がした。
『……悪いな、ハルト』
「何がだ」
少し間があった。
『ずっと一人じゃ、寂しかったんだ』
笑い声が大きくなった。
男も。
女も。
老人も。
子供も。
最後にはガルドまで笑っていた。
そして、鎧の内側から声が重なった。
『これでお前も』
『死んだら』
『仲間だ』




