↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/13

011 ドラゴンにもらった鱗

少年だった頃、


森で小さな竜を助けた。


翼を傷つけ、


岩陰で震えていた。


近づくと牙をむいたが、


逃げる力も残っていなかった。


「噛むなよ」


布を裂き、


傷に巻いた。


三日後。


竜は飛べるようになった。


別れ際、


胸元の鱗を一枚、自分で剥がした。


金色の鱗だった。


『困った時に燃やせ』


まだ幼い声だった。


「燃やしたらどうなる?」


『行く』


「お前が?」


『必ず』


そう言って、


竜は空へ飛んでいった。


◇


それから何度も、


鱗を燃やそうと思った。


父が病に倒れた時。


畑が枯れた年。


盗賊に襲われた夜。


でも、


そのたびにやめた。


父は薬師に助けられた。


畑は翌年また実った。


盗賊からは村の皆で逃げ切った。


「まだ大丈夫だ」


そう言って、


鱗を箱へ戻した。


◇


青年になった。


結婚した。


娘が生まれた。


娘が高熱を出した夜、


俺は箱を開いた。


金色の鱗を握る。


火にかざそうとして、


やめた。


妻が言った。


「使わないの?」


「……まだだ」


「どうして?」


自分でも分からなかった。


ただ、


本当に最後の時まで取っておきたかった。


娘は三日後、


神官の治癒で助かった。


◇


歳を取った。


妻を見送った。


娘は町へ嫁いだ。


孫もできた。


家は静かになった。


ある冬。


雪が深く積もった。


薪がなくなった。


足も弱り、


町まで下りられない。


俺は一人、


暖炉の前に座っていた。


箱を開く。


鱗は、


少年の日と同じように輝いていた。


「……そろそろいいか」


小さく笑った。


火の中へ落とした。


◇


金色の炎が上がった。


その夜。


山が震えた。


外へ出ると、


月を隠すほど巨大な竜が降りてきた。


黄金の鱗。


大きな翼。


角には幾つもの傷。


俺は笑った。


「ずいぶん大きくなったな」


竜が首を下げる。


『お前は、小さくなった』


声も、


もう幼くなかった。


「年を取ったんだよ」


『遅い』


「何が」


『呼ぶのが』


竜は少し怒っていた。


『何十年待ったと思っている』


「悪かった」


『何度も近くを飛んだ』


「そうなのか?」


『燃えた気配がないか、ずっと見ていた』


俺は笑った。


「心配性だな」


『誰のせいだ』


◇


竜は家の中を覗いた。


『困っているのか』


「薪がない」


沈黙。


『……それだけか』


「ああ」


『それだけで呼んだのか』


「駄目だったか?」


竜は長く黙った。


やがて、


大きな鼻から息を吐いた。


暖炉に火がついた。


家中が暖かくなる。


『もっと早く呼べ』


「用もないのに?」


『用などなくていい』


俺は竜を見た。


『お前は、私を助けた』


金色の目が細くなる。


『だから私は、お前に呼ばれたかった』


◇


その冬。


竜は山を離れなかった。


薪を運び、


雪をどけ、


時々大きすぎる獲物を置いていった。


「こんなに食えるか」


『弱くなったな』


「昔から食えん」


春になる頃。


娘と孫が訪ねてきた。


家の横で眠る竜を見て、


二人とも腰を抜かした。


俺は笑った。


「昔の友達だ」


竜が片目を開けた。


『友達?』


「違うのか?」


少し間があった。


『……違わない』


◇


それから、


竜は毎年冬になるとやってきた。


もう鱗を燃やす必要はなかった。


困った時でも。


困っていない時でも。


山の向こうに金色の翼が見える。


俺はそのたび、


外へ出て手を振った。


少年の頃と同じように。


今度は、


向こうから会いに来てくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。