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貧乏令嬢、軍神伯爵に嫁ぐ~「君を愛するつもりはない」と言われましたが、わたくしは超好きですわ!~  作者: 八星 こはく


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第9話(ブラッドリー視点)軍神伯爵、悩む

「おかえりなさいませ、ブラッドリー様。本日、大ニュースがありますわ!」


 屋敷へ帰ると、先日嫁にきたグローリアに出迎えられた。

 ピンク色の髪と水色の瞳、いかにも令嬢らしい見た目をした少女だが、かなり変な奴だ。


 命じてもないのに使用人の仕事を嬉々として手伝うし、令嬢のくせに得意なのは力仕事だと胸を張る。

『軍神伯爵』と恐れられ、おまけに初対面で『お前を愛するつもりはない』と断言したブラッドリーに対し、一目惚れをしたのだと言って話しかけてくる。


(……こんな奴が嫁にくるとは、思っていなかった)


 どうせ、金目当ての令嬢がくると思っていた。

 だから必要最低限の関わりだけにして、伯爵家に迷惑をかけない限りは好きにさせるつもりだった。


 ――なのに。


「なんと! 先日埋めたトマトが、芽を出しましたの! ほら、きてください! トマトがわたくし達を待っていますわよ!」


 腕を引っ張られ、強引に中庭へ連れ出される。

 振り払おうと思えば簡単に振り払えるのに、ブラッドリーは抵抗しなかった。

 いや、できなかったのかもしれない。


(あまりにもグローリアが、強引にくるから)


 ブラッドリーが不機嫌そうにしていても、冷たい返しをしても、お構いなしにグローリアは笑顔で話しかけてくる。

 そしてそこにあるのは、100%の純度を持った好意なわけで。


 さすがのブラッドリーも、無視することはできなくなってしまったのだ。





「ほら、見てください!」

「……どこだ?」

「地面に注目してくださいまし。よーく見たら、見えるんです!」


 そう言うと、グローリアは地面にしゃがみ込んで、顔を地面に近づけた。令嬢らしからぬ姿勢である。


(貧乏だったからとよく言うが……グローリアは、それを恥じている様子はない)


 彼女にとって、実家での暮らしは貧しいながらも楽しいものだったのだろう。


「……この暗さじゃ、よく見えないだろう」


 グローリアの隣にしゃがみ、小さな炎を手のひらから出して地面を照らす。

 彼女の言う通り、地面からトマトの芽が少し出ていた。


「どうですか、ブラッドリー様。嬉しい気持ちになりません!? わたくし達が毎日水をあげた成果ですわよ!」


 ねえ、と無邪気にグローリアが笑いかけてくる。

 これほどまっすぐな感情を向けられたのはいつぶりだろう。


 親を亡くし、一人で家を支えてくれる兄の助けになればと、剣と魔法の訓練に励んだ。

 騎士として評価され、順調に出世を重ねた。

 しかしその結果、兄の居場所を奪ってしまった。


 ――今の俺は、兄上の犠牲の上で成り立っている。


 だから、幸せになってはいけない。そう言い聞かせ、ブラッドリーは仕事に励んできた。

 そしてその結果、『軍神伯爵』と恐れられるようになったのだ。


「……ブラッドリー様?」


 なにも言わないブラッドリーを不思議に思ったのか、グローリアが顔を覗き込んでくる。

 その顔を見て、罪悪感がこみ上げてくるのを感じた。


(グローリアは、なにも悪くないのに)


 それどころか妻としてよくやってくれている。なのに、彼女に冷たくしているのはブラッドリーだ。


 でも、彼女に気を許してしまったら。

 彼女との生活を楽しんで、幸せになってしまったら。


(俺は兄上に、どんな顔で会えばいい?)


 考えても無駄かもしれない。今ですら、兄はブラッドリーと会おうとしないのだから。


「……ああ。嬉しいものだな、目に見えて成果が出るのは」


 ブラッドリーが頷くだけで、グローリアは眩しい笑みを浮かべた。


「実がなったら、絶対に二人で収穫しましょうね、ブラッドリー様っ!」





「ブラッドリー様。王宮からパーティーの招待状が届いております」


 夕食を終え書斎にこもっていると、テレンスが手紙を持って中へ入ってきた。


「……断るわけにはいかないな」

「はい。それに、グローリア様のお披露目としても、よきタイミングかと」


 テレンスから招待状を受け取る。頭を下げて、テレンスはすぐに書斎を出ていった。


 貴族として、城で開催されるパーティーに出席するのは義務のようなものだ。

 兄に家督を譲られた以上、ブラッドリーはグラッドストン伯爵家当主としての務めを果たす必要がある。


 パーティーに誘えば、きっとグローリアは喜ぶだろう。

 ブラッドリーとパーティーに出席できることが嬉しいと素直にはしゃぎ、めかしこもうとするに違いない。


 そんな彼女の様子をつい想像してしまい、笑いそうになった自分に戸惑う。


「……兄上。俺は、どうしたら……」


 ぎゅ、と唇を噛む。

 誰にも言えないけれど、本当は、家督を継ぐつもりなどなかった。

 ブラッドリーは、当主である兄を支えたくて頑張っていたのだから。

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