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貧乏令嬢、軍神伯爵に嫁ぐ~「君を愛するつもりはない」と言われましたが、わたくしは超好きですわ!~  作者: 八星 こはく


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第7話 貧乏令嬢、過去を知る

「では、わたくしは帰りますわね。午後の訓練も、頑張ってくださいまし」


 昼食を終えたグローリアは、ブラッドリーに挨拶をして帰ることにした。

 彼との時間をもう少し長くとっていたいけれど、仕事の邪魔をするわけにはいかない。


(それに、やらなきゃいけないことだってあるもの!)


 必要なのは状況の把握と、ブラッドリーを幸せにするための計画の立案。

 のんびりしている暇はない。


「ブラッドリー様のお帰りを、心からお待ちしておりますわっ!」





「おかえりなさいませ、グローリア様」


 屋敷へ戻ると、テレンスが迎えてくれた。アニーは台所で夕食の準備をしているらしい。

 二人の仕事も手伝いたいが、今日はまずテレンスに聞きたいことがある。


「テレンス。ブラッドリー様の過去について、分かっていることを教えてくれないかしら?」

「……それは」


 テレンスが口を閉ざす。予想はしていたことだが、あまり明るい話ではないのだろう。


「お願いします。わたくしは、もっとブラッドリー様のことを知りたいのです」


 本人から直接事情を聞くべきかもしれないが、話したくないこともあるだろう。

 とはいえこれからのことを考えると、ある程度は知っておきたい。


「……分かりました。私に分かる範囲のことですが、グローリア様にお伝えしましょう」





 居間に移動し、テレンスが用意してくれた紅茶を飲みながら話を聞く。


「ブラッドリー様の両親は、ブラッドリー様が5歳の時に亡くなってしまいました。不幸な事故であり、突然のことでした」

「……そんな」

「その後、グラッドストン伯爵家を支えたのはブラッドリー様の兄であるパーシヴァル様です。彼も当時10歳と幼い少年でしたが、聡明で、賢い方でした」


 聞き逃さないように、頷きながら話を聞く。

 グローリアは5歳だった頃をあまり覚えていないが、きっと毎日のように父や母に遊んでもらっていた。10歳の時だってそうだったはずだ。


(グラッドストン伯爵兄弟は、とても辛い人生を送ってきたのね)


 もちろん、生活に困るようなことはなかったのだろう。しかし、それと心の問題は全くの別物だ。


「当主となったパーシヴァル様は、幼いブラッドリー様を支え、伯爵家を運営していました。財政が乱れることもなく、立派に仕事をなさっていたのです」

「……すごいわ」

「はい。そしてブラッドリー様は、パーシヴァル様を親のように慕っておりました。パーシヴァル様も、ブラッドリー様のことを可愛がっていました」


 仲のいい兄弟だったのだろう。

 しかし今、二人は離れて暮らしている。

 弟が結婚したというのに、パーシヴァルが屋敷を訪れるという話はない。


「ですが……ブラッドリー様が10歳になると、パーシヴァル様にはない魔法の才能が発覚しました。それだけではなく、ブラッドリー様は、剣術でも見事な才能を発揮していったのです」

「……パーシヴァル様は、ブラッドリー様を妬むようになったの?」

「いいえ。ですがブラッドリー様が功績を上げるにつれ、ブラッドリー様を当主にすべきだという外圧が強くなっていきました」


 幼い両親に代わって弟を支えながら、伯爵家当主として頑張っていたパーシヴァル。

 にもかかわらず周囲は、才能のある騎士だったブラッドリーを当主に据えようとしていた。


(……辛いに決まっているわ、そんなの)


「次第にその声は激しくなり、パーシヴァル様は『無能なお飾り当主』とまで馬鹿にされるようになったのです。派手な才能はなくとも、堅実な方でした」

「そんな……」

「それに忙しくて、同世代の方のように、剣術等を学ぶ機会もなかったのです。ですがブラッドリー様には、十分な教育の機会を与えていました」


 思い出すと辛くなるのか、テレンスはゆっくりと息を吐いて目頭を押さえた。


「そしてブラッドリー様の20歳の誕生日。パーシヴァル様はブラッドリー様に家督を譲り、隠居することを決めました。今から、3年前の話です」

「……それから、ブラッドリー様とパーシヴァル様は会っていないの?」

「はい、一度も。ブラッドリー様の出した手紙にも、返事はありません」


 いったいパーシヴァルは、ブラッドリーのことをどう思っているのだろう。

 憎んでいるのだろうか。恨んでいるのだろうか。

 それとも、関わりたくないと思っているのだろうか。


「だからブラッドリー様は、幸せになるべきじゃない、なんて言っていたのね……」


 今の自分の地位が、兄の犠牲の上に成り立っていると思っているから。

 跡継ぎを作ろうとしないのも、もしかしたら兄への配慮なのかもしれない。


「教えてくれてありがとうございますわ、テレンス」


 兄弟の問題に対して、グローリアは完全な部外者だ。グローリアの力では、二人を仲直りさせることはできないかもしれない。


(でも、日常に癒しと楽しみを与えることはできるはずだわ)


 おそらくブラッドリーは今、全ての娯楽を遠ざけて暮らしている。

 仕事に熱中し、幸せになるべきではないと自らに言い聞かせながら。


(少しずつでも、ブラッドリー様に毎日を楽しいと感じてほしい)


 そのためにできることを、全力でやってあげたい。


「テレンス」

「はい」

「大至急、くわを用意してくださる?」

「……はい?」

「庭に、菜園を作りますわよ!」


 グローリアの言葉を聞いて、テレンスはぽかんとした表情を浮かべたのだった。

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