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貧乏令嬢、軍神伯爵に嫁ぐ~「君を愛するつもりはない」と言われましたが、わたくしは超好きですわ!~  作者: 八星 こはく


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第3話 貧乏令嬢、叫ぶ

「ブラッドリー様、夕食の準備が整いましたわ!」


 夕飯の時刻になると、グローリアはブラッドリーの書斎へ向かった。

 テレンスの話によると、彼は家にいるほとんどの時間をこの書斎で過ごすのだという。


「……なぜお前が知らせにくるんだ」

「だって、わたくしが準備しましたもの」

「……お前が?」


 ペンを机に置いて、ブラッドリーがわずかに目を見開いた。


「ええ。暇でしたから、テレンスとアニーの仕事を手伝いましたわ」


 当たり前のようにグローリアが告げると、ブラッドリーが一瞬だけ驚いたような表情を浮かべた。

 とはいえ、すぐに無表情に近い不機嫌顔に戻り、溜息を吐いて立ち上がる。

 そのままグローリアを無視し、一人で書斎を出ていってしまった。


(……極度の女嫌い、とかなのかしら?)


 ここへきてグローリアがしたことといえば、挨拶と使用人の手伝いである。

 要するに、嫌われることはしていない。

 つまり、グローリアの行動には何の問題もないのである。


「悪い事はしてないんだから、気にする必要ないわよね。これからよ、これから!」


 明るく呟いて、グローリアも書斎を後にした。





「ブラッドリー様。今日の食事は、全てグローリア様が作ってくださったんですよ」

「……全て?」

「はい」


 テレンスと喋るブラッドリーの様子を観察する。

 愛想は悪いが、テレンスとは普通にコミュニケーションをとっている気がする。付き合いが長いからだろうか、それともテレンスが男性だからだろうか。


 再び無言になり、ブラッドリーが食事を進める。スープを一口飲んだ瞬間、ぼそっとブラッドリーが呟いた。


「……味が濃いな」

「えっ!?」


 慌ててグローリアもスープを飲む。

 確かに、思っていたよりも味が濃かった。


(もしかして、いつもより良い素材を使っているから、調味料の量が少なくても味が出るってこと……!?)


 立ち上がり、グローリアは勢いよく頭を下げた。


「申し訳ありません! すぐに作り直してまいりますわっ!」

「その必要はない」


 目も合わせずに言うと、ブラッドリーはそのまま残りのスープを飲み干した。


「え?」

「なんだ?」

「て、てっきり、食べられないのかと……」

「戦場では携帯用の不味い飯しか食えないことも多い。この程度、特に問題はない」

「まあ……!」


 比較対象のレベルがあまりにも低いのだが、グローリアがそんなことを考えることはなかった。

 なぜなら、ブラッドリーに一目惚れをしているせいで、彼の良いところばかりが目につくからだ。


(なんて逞しい方なんでしょう……!)


 身分の高い人間であれば、繊細な味覚を持つ者も多い。

 そんな中でブラッドリーは、好みではない味のスープを問題なく食べてくれた。

 それに、常日頃から携帯食にも慣れているのだという。


「ブラッドリー様って、やっぱり素敵な方ですわねっ!」

「……は?」

「そうですわ! ついでに、ブラッドリー様の好みの女性について教えてくださらないかしら? 先程アニーに聞いたけれど、分からないと言われてしまいましたの!」


 アニーによると、ブラッドリーが家に女性を連れ込んだことは一度もないそうだ。

 そのため、彼女にはブラッドリーの好みが分からないらしい。


(だったら、直接本人に聞いちゃえば早いわよね!)


「……お前を愛するつもりはない。そう言ったはずだぞ」

「ええ。ですがわたくしは、愛されるつもりですの」


 にこっ、と笑みを向ける。するとブラッドリーはわざとらしく頭をおさえた。


「……金が足りないのか」

「はい?」

「だから、俺の気を引こうとしているのか?」


 怒っているというより、戸惑っているような声音だった。

 父の話によると、ブラッドリーは多くの令嬢達から結婚を断られ、最終的にグローリアへ求婚したのだという。


 もしかしたら彼は、金目当ての女としてグローリアを警戒しているのだろうか。


(みんなから恐れられていて、お金にしか興味を持たれていないと思っているのかしら)


 だとすれば、彼が『女性を愛するつもりはない』と宣言するのも、無理はないのかもしれない。


「ブラッドリー様」

「なんだ」

「確かにわたくしは、超が100個ついてもおかしくないほどの貧乏人ですわ」

「……そこまでは言っていないが」

「ですが、ブラッドリー様に一目惚れをしたのは事実ですの。そこには、何の打算もありませんわ」


 席を立ち、ブラッドリーに近づく。そして、ぎゅ、と彼の両手を唐突に握った。


「わたくしを信じられないと言うのなら、信じてもらえるように努力しますわ。ですからよろしければ、その方法をご教授いただけませんこと?」


 真っ直ぐにブラッドリーを見つめる。

 すると、ブラッドリーが慌てて顔を背けた。彼の頬が、わずかに赤く染まっている。


(え? もしかして、照れてる……?)


「ブラッドリー様?」

「……なんでもない」

「では、信じてもらえる方法を教えてくださいまし」


 回り込んでブラッドリーの顔を確認する。やはり、彼の顔は赤く染まっていた。


「……見るな」


 今度は、ブラッドリーが片手で顔を覆った。


(え? ちょっと待って? 可愛すぎない……?)


「……俺が怖くないのか」

「え? こんなに可愛いのに?」

「可愛い、なんて言うな!」


 ドン! とテーブルを叩き、ブラッドリーが立ち上がる。しかしその顔は真っ赤で、どう見ても可愛い。


「……それは無理そうですわ……」


 真っ赤な顔のままブラッドリーは着席し、脅威のスピードで食事を終えてしまう。

 そして、再び立ち上がった。


「俺は風呂へ入る!」


 どすどすと足音を立てて、ブラッドリーが居間を去っていく。

 遠ざかる背中を見送った後、グローリアは我慢できずに叫んだ。


「わたくしの旦那様が、可愛すぎますわーっ!!」

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