第22話 貧乏令嬢、約束をする
夕飯ができたことをパーシヴァルの部屋へ伝えにいくと、部屋の中から小さいけれど楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
耳を澄ませてみると、ぎこちないながらも、二人がちゃんと会話をしていることが伝わってくる。
つい嬉しくなって笑うと、同じ顔をしたリオンと目が合った。
――すると。
「……なんで見つめ合ってるんだ」
いつの間にか部屋から出てきていたブラッドリーが、鋭い形相でグローリアを睨みつけていた。
「えっ、ブラッドリー様!?」
「ずいぶんと楽しそうに見つめ合っていたが」
不貞腐れたように、グローリアの手を引きつつリオンを睨みつける。その様子に、どうしようもなくときめいてしまう。
(ブラッドリー様が、やっ、やきもちを……!?)
「リオン。人の女性に手を出してはいけないよ」
グローリアがときめき過ぎてかたまっていると、部屋の中からパーシヴァルも出てきた。
休んでいたからか、先程よりも顔色がよくなっている。
「分かってますし、出してませんって。冤罪ですよ、冤罪。俺がモテるからって」
笑いながら、リオンは自然にパーシヴァルを支えるために移動した。
そんなリオンを見て、ブラッドリーが少し安心したように微笑む。
(……やっぱり、悪くない空気よね)
一緒に暮らすことはできなくても、かつてのように密接な家族関係には戻れなくても。
グラッドストン兄弟は今でも、ちゃんと相手のことを大切に思い合っているのだ。
◆
「今日はご馳走だね」
パーシヴァルは食卓に並ぶ料理を見てそう笑った。けれど彼が真っ先に口へ運んだのは、リオンが作った胃に優しそうな卵粥である。
「……グローリア殿は、いつも料理を?」
「いつもではありませんが、時間がある時は手伝うようにしていますわ」
「へえ」
パーシヴァルは少し驚いたように目を見開いた。
やはり、伯爵家の夫人になったグローリアが家事をしていることに違和感を覚えたのだろう。
「ブラッドリー様のために、自分にできることを精一杯探していますの!」
グローリアが明るく付け足すと、パーシヴァルは目を細めて笑ってくれた。
「本当に、弟は幸せ者だね」
彼に弟、と呼ばれたことが嬉しかったのだろう。隣に座るブラッドリーが、テーブルの下でぎゅっと拳を握った。
「……はい」
噛み締めるように頷いたブラッドリーがすごく幸せそうな顔をしていて、グローリアは泣きそうになってしまった。
◆
「それでは兄上、失礼します」
夕食を食べてしばしの間歓談した後、グローリア達は家へ帰ることになった。
この屋敷にはリオンの他に使用人がおらず、二人が泊まるのは困難だったからだ。
(それにきっと、ここはパーシヴァル様にとって、もう二人のお家なのよね)
他の使用人を解雇してしまったのも、静かに暮らしたかったからだろう。
強引に距離を詰めるべきではないことは、グローリアにだって分かる。
「ああ。二人とも、健康に気をつけて」
「……兄上もですよ。それと、その、旅に出られても……お元気で」
ブラッドリーが寂しそうな顔をしていたから、グローリアは慌てて口を開いた。
「あのっ! 旅先から、たまには手紙を送っていただけませんかっ! どこにいるか分かっていると、わたくし達としては安心ですの!」
グローリアが言わなくても、気を利かせたリオンが知らせてくれたような気はする。
でも、こうして言葉にすることが大切だと思ったのだ。
「……兄上。俺からも、どうかよろしくお願いします」
ブラッドリーが深々と頭を下げる。ブラッドリーが顔を上げると、パーシヴァルが優しく笑った。
「手紙と一緒に、土地の名産品を送るよ」
「兄上……!」
「君達も、なにかあったら教えて。甥っ子か姪っ子の誕生は、さすがに祝いにいくよ」
「まあ……っ!」
つい顔を赤くしてしまった二人を見て、リオンが呆れたように溜息を吐いたのだった。




