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貧乏令嬢、軍神伯爵に嫁ぐ~「君を愛するつもりはない」と言われましたが、わたくしは超好きですわ!~  作者: 八星 こはく


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第21話 貧乏令嬢、腕を振るう

「げほっ、げほっ……」


 再びパーシヴァルが咳き込む。慣れた様子で、リオンが彼の背中を撫でた。


「パーシヴァル様、そろそろおやすみください。夕食の準備ができたら、俺が呼びにいきますから」

「……そう?」

「そうなんです。ほら」


 リオンがパーシヴァルに肩を貸す。パーシヴァルは何の躊躇いもなく、彼に甘えるように全体重を預けた。


「すまないね、二人とも。他に聞きたいことがあったら、リオンに聞いてくれ」

「……そうやってまた俺に押し付けてさあ」

「リオン、いつもの君が出ているよ」

「……はいはい、申し訳ございません、パーシヴァル様」


 従者とは思えないリオンの態度に、パーシヴァルは楽しそうに笑っている。

 その様子を見たら、二人に深い信頼関係があることが伝わってきた。


(旅に出るっていうのは、きっと……)


 ちら、とブラッドリーの顔色を窺う。なんとも言えない表情で、ブラッドリーはじっと床を睨みつけていた。





「というわけで、夕飯までの間パーシヴァル様はお休みになられるので、お二人は自由にくつろいでいてください」


 パーシヴァルを寝室へ連れていったリオンは、戻ってくるなりそう言った。


「……待て。お前は兄上のなんなんだ?」

「召使い兼友人ですよ」

「……いつ知り合ったんだ?」


 ブラッドリーはリオンのことが気になって仕方ないらしい。こうなることはリオンも分かっていたようで、流暢に説明してくれる。


「パーシヴァル様が家督をグラッドストン伯爵に譲る前からですよ。たまたま見た俺の手品に感動したって、パーシヴァル様が声をかけてくれたんです」


 リオンの説明によると、二人が出会ったのは本当に偶然だったそうだ。

 伯爵家当主としての重圧や自らの体調に苦しんでいたパーシヴァルにとって、リオンの手品は――リオンという存在は、日々の癒しになっていったらしい。


「で、行くなと頼まれて、俺は一時的に旅をするのをやめたんです。一ヶ所にとどまるなんて、柄じゃないんですけどね」

「……でも、今度は兄上と旅に出るんだろう」

「ええ。パーシヴァル様の体調と相談しながらではありますが、パーシヴァル様はずっと、自由に旅がしたいと言っていたんですよ」


 兄の望みを、ブラッドリーは全く知らなかったのだろう。

 そうか……と呟いて、寂しそうな顔をした。


「それが兄上の希望なら、俺は尊重する。金でもなんでも、必要なことがあれば俺に連絡してくれ」


 ブラッドリーは深く頭を下げた。


「伯爵様に頭を下げられても困りますよ」

「……お前が……いや、貴方が、兄上には必要なんだろう。だから、頼む。兄上のことを、どうか……」


 泣きそうな顔になったブラッドリーを見て、リオンは深い溜息を吐いた。


「グラッドストン伯爵。俺は今から夕飯の支度をするので、パーシヴァル様の部屋で様子を見ておいてくれますか?」

「……俺がか?」

「ええ。寝ている時、額においた冷たい布を一時間ごとに取り換えると、パーシヴァル様は寝つきがよくなるんですよ」


 一時間おきに取り換えるだけなら、料理中のリオンが対応することは可能だ。

 そもそも、元々はそのつもりだったのだろう。


「……ありがとう」


 リオンは、ブラッドリーに兄と二人きりになるチャンスをくれたのだ。


(ブラッドリー様はパーシヴァル様を大切に思っていて、パーシヴァル様も、きっとそこは同じで。わたくしもリオンさんも、それを分かっていて……)


 二人のわだかまりが完全に消えることはないのかもしれない。

 けれど、未来は、そう暗くないような気がする。


「あの!」

「どうしたんです、グラッドストン伯爵夫人?」

「わたくしにもできることをやらせてください。わたくし、夕飯の支度を手伝いますわ。料理は結構、得意ですの!」

「それは助かります。四人分の食事を用意するのは、いつもより大変ですから」


 リオンは笑って、視線をブラッドリーへ向けた。


「グラッドストン伯爵。奥方をお借りしても?」

「……触ったら、殺す」


 ずいぶんと物騒なことを口にした後、ブラッドリーは照れを隠すように慌てて部屋を出ていったのだった。





「わたくし、腕によりをかけて御馳走を作りますわ!」


 台所に案内されたグローリアは、エプロンをつけ、デイドレスの腕をまくった。

 本当は着替えたいところだが、さすがにそういうわけにもいかない。


「じゃあ夫人は、パーシヴァル様以外の分の料理をお願いします」

「え?」

「パーシヴァル様は食の好みも細かく、体調によって食べる物も違いますから」


 そう言うと、リオンは手際よく食事の用意を始めた。

 手品のように鮮やかな手つきだ。


(……胡散臭い、なんて最初は思ってたけれど、そうじゃない気がしてきたわ)


 少なくともパーシヴァルにとっては、彼は心の支えなのだ。


「リオンさん」

「なんです?」

「わたくし、いずれはブラッドリー様とパーシヴァル様にもっと仲良くなってほしいと思っていますの。ですから、リオンさんもこれから、協力していただけますか?」


 ブラッドリーは不器用で、パーシヴァルもきっと、たぶんそうで。

 だったら、その周りにいる自分達がどうにかしてやりたいと思うのだ。


 目が合うと、リオンは優しく笑った。


「喜んで、お嬢さん」

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