↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏令嬢、軍神伯爵に嫁ぐ~「君を愛するつもりはない」と言われましたが、わたくしは超好きですわ!~  作者: 八星 こはく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/24

第16話 貧乏令嬢、働く

「さあさあ皆様、お立ち寄りくださいませ! ここにおられるのは稀代の天才手品師です! 皆様が驚く手品を披露いたしますよ!」


 噴水前へ行くと、グローリアはとびきり声を張り上げた。

 手品師の男は、鞄から取り出した黒いマントを羽織り、黒いハットをかぶって、手品師らしい格好になっている。


 まず寄ってきたのは、彼の華やかな容姿に惹かれた若い女性達。

 次に、グローリアの呼びかけにつられ、若い男性や子供達が近寄ってくる。


(こういう仕事、実は結構得意なのよね!)


 力仕事も得意だが、人を相手にする仕事も得意なのだ。

 さすがに手品師の助手を務めたことはないが、花屋で働いたり、レストランで働いたりと、客商売の経験はかなりある。


「手品? なにをするの?」

「早くみたーい!」

「……彼、すごく格好いいわよね」


 集まってきた人達が、期待に満ちた眼差しを男へ向ける。

 ざわめきが大きくなると、さらに人が集まってきた。いい調子だ。


「それではお願いします!」


 グローリアが笑顔で叫ぶと、男は胸元から長いステッキを取り出した。これほど大きなステッキが入り込む余地など、彼の服にはなさそうなのに。


「えっ、どこから出たの?」

「すごっ!」


 人々が騒ぎ出す。すると男はハットを外し、笑顔で喋り出した。


「皆様! これからご覧に入れますのは、世界中をめぐって身につけた古今東西の手品にございます! 驚いた方、楽しんでくれた方、そして俺に惚れた方は、このハットにおめぐみを!」


 最後に男はウインクまでしてみせた。キザな言動だが、全く嫌味がない。

 まだ本格的に手品は始まっていないのに、観客の何人かがハットの中に硬貨を投げ入れてくれた。


「さあさあ、いきますよ!」


 男がマントを脱ぎ、空中でマントを揺らす。するとその中から、鳩が五羽も飛び出てきた。


(すごい。本当に、どういう仕組みなのかしら……!?)


「お次はこの玉を浮かせてみせましょう」


 男は鞄から大きな白い玉を二つ取り出した。何の変哲もない、ただの玉のように見える。

 しかし男が上空に向かって玉を投げると、玉は空中で固定される。


「そして……こうすると」


 男は右手を高くあげ、大きく指を鳴らした。その瞬間、空中に玉が二つ増える。


「えっ!?」

「どういうこと!?」


 混乱する客を見て、男は再び指を鳴らす。すると、今度は玉が三つ増えた。


(すごい……!)


 思わずグローリアも見惚れてしまう。


「どうですか、皆様。お楽しみいただけているでしょうか?」


 歓声と共に、硬貨がハットの中に飛び込んでくる。そのほとんどが銅貨だが、中には光り輝く銀貨もあった。


「では今から、少し危険な手品をお見せしましょう」


 玉が地面に落ちる。グローリアは慌てて玉を回収し、彼の鞄の中へ戻しておいた。


「ご覧ください」


 男が両手を同時に鳴らすと、いきなり巨大なライオンが現れた。

 ライオンが大きく吠える。


(えっ!? ど、どういうことなの、本当に……!)


 悲鳴に近い歓声が上がる中、男が再び指を鳴らす。すると、火の輪が空中に出現した。


「今からこのライオンが芸を披露します。この火の輪をくぐってみせますので、上手くできたら拍手してあげてくださいね」


 ライオンがぴょん、と跳ねて火の輪をくぐる。それを何度か繰り返した後、男が指を鳴らしたのと同時にライオンは消えた。


「以上で、手品は終わりです。お楽しみいただけたでしょうか」


 割れるほどの拍手と歓声が、周囲を包み込んだ。





「場所を変えてやれば、もう一儲けできますわよ!」

「……お嬢さん、本当に商魂たくましいな」


 噴水前での披露が終わった後、場所を何度か変えて手品を披露した。

 気づけば日が沈み、夕焼けが周囲を照らしている。

 とはいえ、あと一度くらいならできるだろう。


(仕事を終えた人がそろそろ帰ってくる時間だもの。今までで一番の儲けになるかもしれないわ)


「貴方も、お金が必要なのよね? だったら稼げる時に稼いでおくべきよ、絶対!」

「確かに金は必要だ。お嬢さんの言う通り、もう一度やるか」

「ええ! わたくしも、最高に盛り上げてみせますわっ!」





「ではでは! 盛大な拍手と、お気持ちをお願いいたします!」


 手品が終わり、グローリアの声かけと共にハットの中へ大量の硬貨が投げ込まれる。

 見物客が完全にいなくなる頃には、ハットから硬貨がこぼれ落ちそうになっていた。


(これなら、わたくしの給料も追加でもらえるはずよね!)


 久しぶりに、自分自身で稼いだ金だ。記念になにか買って帰ろうか、とグローリアが考えた時、背後から低い声で名前を呼ばれた。


「なにをしているんだ」

「……へっ?」


 ブラッドリーだった。彼の眼差しはグローリアではなく、隣に立つ手品師へ真っ直ぐ向けられている。


「えっ? あ、えーっと、その、仕事を……」

「必要ないだろう」


 仕事をしているうちにすっかり気分が変わり忘れかけていたが、ブラッドリーと険悪な雰囲気になっていたことを思い出す。


(まだ怒っているのかしら……)


 どうしたものか、とグローリアが悩んでいると、手品師の男が口を開いた。


「じゃあお嬢さん、また今度」

「えっ? あのっ、追加のお給料は――」

「もう渡しておいた。じゃあ」


 男の姿が忽然と消える。同時に、グローリアの手の中に銀貨が五枚入っていた。


(これも、手品なの……?)


 グローリアが呆然としていると、ブラッドリーに手首を掴まれる。


「……ブラッドリー様?」

「また今度、とはどういうことだ?」

「え?」

「先程の手品では、ずいぶんと親しそうに喋っていたな」

「……見ていらしたのですか?」


 回を重ねるにつれ、助手をやることに慣れ、彼との距離感も縮まっていた気がする。

 だから先程の回では、確かに親しげに見えたのかもしれない。


「答えろ、グローリア。あいつは誰で、どんな関係なんだ」


 グローリアを見つめるブラッドリーの瞳は、間違いなく怒りを孕んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。