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貧乏令嬢、軍神伯爵に嫁ぐ~「君を愛するつもりはない」と言われましたが、わたくしは超好きですわ!~  作者: 八星 こはく


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第15話 貧乏令嬢、胡散臭い男と出会う

 翌朝、グローリアはいつもより早く起きて、広間でブラッドリーを待っていた。


(ブラッドリー様、教えてくれるかしら……)


 聞いたところで、なにもできないかもしれない。けれど寄り添いたいのだという気持ちは、ちゃんと伝わるだろうか。


 緊張して待っていると、ブラッドリーが広間にやってきた。グローリアを見て、不思議そうに首を傾げる。


「今日はやけに朝が早いな。腹が減ったのか」

「違いますわ! ブラッドリー様に、お聞きしたいことがありますの」

「聞きたいこと?」


 椅子に腰を下ろすと、ブラッドリーがじっとグローリアを見つめた。

 せっかく普通に話せるようになったのに、グローリアの質問で今の関係が変わってしまうかもしれない。


(それでも、聞くって決めたんだもの)


 深呼吸をして、グローリアは口を開いた。


「ブラッドリー様の、お兄様についてですわ」


 一瞬でブラッドリーが無表情になる。グローリアをぎろりと睨みつけると、不機嫌そうに吐き捨てた。


「お前には関係ない」

「関係ないことは、聞いてはいけませんか? わたくしは、ブラッドリー様のことを知りたいのです」

「……それは」


 ブラッドリーの指先が微かに震えている。彼も迷っているのかもしれないと思うと、自然と身体が前のめりになった。


「お願いします。わたくしは、ブラッドリー様のことをもっと知って、共に幸せになりたいのです」


 震えるブラッドリーの手をぎゅっと両手で包む。

 上目遣いでブラッドリーを見つめつつ、彼が口を開いてくれるのを待った。


 ――しかし。


「お前は知らなくていいことだ」

「……ブラッドリー様」

「今日はもう出る。この話はもうしないでくれ」


 立ち上がると、ブラッドリーは朝食を待たずに出ていってしまった。





「うーん。どうすればよかったのかしら……」


 溜息を吐いて、グローリアはグラスに入った果実水を一気に飲み干した。

 ブラッドリーの態度に悩んでいたら、気分転換をしてきてはどうか、とテレンスがおでかけを進めてくれたのだ。


 このあたりは治安もいいし、グローリアはある程度の護身術も身につけている。

 というわけで、軽装に身を包み、街へ繰り出し、とりあえずカフェで休憩しているのであった。


 拒まれた以上、もうグローリアから兄の話題を出すべきではないのだろうか。

 しかし、ブラッドリーにとっては大きな問題で、兄との問題を解決しない限り、彼は自分が幸せになることを肯定できない気がする。


「どうしよう……」


 と、グローリアが呟いたところで、不意に隣の席に誰かが腰を下ろした。

 何気なく横を確認すると、紫色の髪をした男と目が合う。


 どこからどう見ても美形だ。どこか中性的な色気もある。だがそれ以上に、なんとなく胡散臭さを感じた。


「暗い顔をしてどうしたんだい、お嬢さん?」

「……あの、わたくし既婚者ですので」


 すぐに会話を拒もうとしたグローリアを見て、男が声を上げて笑う。


「ナンパじゃない。ただ、悲しそうな顔をしていたから気になっただけさ」

「……そう言われましても」

「悩みがあるなら話を聞く。代わりに、俺の手品に付き合ってくれないか?」

「手品?」


 ナンパじゃない、と言いつつナンパであれば、無視をして店を出ようと思っていた。

 しかし、『手品』という言葉に引っかかってしまった。


「ああ。俺は旅をしながら、歌を歌ったり、手品を見せて暮らしている。だが、今日は助手が寝込んでいるんだ。一人でも手品はできるが、助手がいた方がいい」

「わたくしに、一時的な助手になれと?」

「ああ」

「それ、給料は出ますの?」


 グローリアの質問に、なぜか男が笑った。仕事を受けるのなら、金銭の話をするのは当然だろうに。


「俺が悩みを聞いてやるのが給料……と言いたいところだが、これでどうだ? 手伝うのは一時間だけでいい」


 男は懐から銀貨を二枚取り出した。


「助手の仕事は、俺の指示通りに物を動かしたり、観客を集めるだけだ」

「……分かりましたわ」


 伯爵夫人になった今、アルバイトをするほど金に困っているわけではない。

 だが、貧乏性ゆえに楽な仕事なら受けたくなってしまう。なにより、一人で悶々と考え込むのが嫌になってきたのだ。


 人前での手品の手伝いであれば、危険な状況に追い込まれることもないだろう。


「契約成立だな。じゃあまずは、お嬢さんの悩みを聞こうか」

「……そうですわね」


 もちろん、ブラッドリーの個人的な事情をぺらぺらと喋るつもりはない。

 だが、見たところ彼はブラッドリーと年齢も近いようだし、内容をぼかして意見を聞いてみる価値はある。


「実はわたくしの夫が、兄弟仲が悪いようですの」

「ほう」

「そのことに夫が悩んでいるので、わたくしは仲直りしてほしいんですわ。でも、事情を話してくれないせいで、どうしたらいいのか分かりませんの」

「なるほど」


 男は頷くと、手に持っていたワインを口に運び、笑顔で答えた。


「簡単さ。夫じゃなくて、その兄に話をしてみればいい」

「……兄に?」

「夫が貴方と仲直りしたくて悩んでいます、とでも手紙を送ってみたらどうだ?」

「手紙、ですの?」

「返事があれば夫と話すきっかけを作れる。なければ相手には仲直りをするつもりがないんだから、お嬢さんもこの件は忘れればいい」


 男が口にした内容を頭の中で整理する。


(悪くない意見な気がするわね……)


 パーシヴァルに弟と仲直りをする気があるのなら、グローリアの手紙になんらかの反応をくれるだろう。

 返事がなければ、これ以上ブラッドリーを問い詰めることをやめ、兄を忘れさせる方向で動けばいい。


 ブラッドリーがパーシヴァルの話をしてくれない以上、この手段をとるのが最適な気がしてきた。


「ありがとうございますわ、参考にいたします」

「そりゃあよかった。じゃあ、俺の仕事に手伝ってもらおうか。そこの噴水前で、手品を披露する予定だ」


 男は窓の外の噴水を指出した。人通りはかなり多い。客も集まるだろうし、グローリアとしても安全である。


「分かりましたわ。もしわたくしの助手ぶりがよかったら、給料は上乗せしてくださいね」

「もちろん」


 立ち上がると、なんだかわくわくしてきた。実家で暮らしていた頃は気づかなかったが、グローリアは仕事を思っていたよりも楽しんでいたのかもしれない。

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