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貧乏令嬢、軍神伯爵に嫁ぐ~「君を愛するつもりはない」と言われましたが、わたくしは超好きですわ!~  作者: 八星 こはく


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第14話 貧乏令嬢、踊る

 音楽に合わせ、身体を動かす。練習した通りに、優雅に、柔らかく。

 細かいステップを間違えたとしても問題はない。

 大事なのは、間違えたという顔をしないこと。周囲に悟られないこと。


(大丈夫、できているわ……!)


 練習の甲斐あって、グローリアは無事に一曲踊ることができた。気づくと、周囲からじっと見つめられている。


「……ブラッドリー様。わたくし達、見られていません?」

「ああ。みんな、俺が結婚できたことが不思議なんだろう」

「そんなはずありませんわ。きっと、皆様ブラッドリー様に見惚れていらっしゃるのでしょう。わたくしの旦那様ですけれど」


 にっこりと笑って、今度はグローリアから手を差し出す。


「もう一曲、踊ってくれますか?」

「……大丈夫なのか?」

「せっかく練習したんですもの。一曲で終わらせるなんてもったいないですわ」


 一時期は寝る間を惜しんでまで練習したのだ。もっと踊らなくては、損をしたような気分になる。


「分かった。もう一曲踊ろう、グローリア」

「ええ!」





「グローリア。さすがにもう、踊るのはやめにしないか?」


 食事のための休憩を一度だけ挟み、かれこれ踊ること20曲目。

 ブラッドリーは、疲れきった顔でそう言った。


 広間では常に楽団が演奏を続けており、踊りたい時に踊れるようになっている。

 しかし、グローリア達ほど踊り続けている客はいない。


「かしこまりましたわ。では、最後にもう一曲だけいかがでしょう?」


 毎日の練習も終わってしまったし、なにより、パーティー会場で着飾って踊るのは特別だ。

 やっているうちに楽しくなってきたグローリアとしては、本当はまだまだ踊っていたい。


(とはいえ、社交の場では、他の方との会話だって大事ですものね)


「……分かった。グローリアは本当に体力があるな」

「体力なんて、ブラッドリー様はもっとあるでしょう?」

「俺のは戦闘専門の体力だ。踊るのは向いていない」


 なんて言いながらも、ブラッドリーは最後に一曲、ちゃんと付き合ってくれたのだった。





 パーティーが終わると、グローリアはブラッドリーと馬車に乗り込んだ。


「今日のパーティー、とっても楽しかったですわ!」

「それはよかった」

「もし今度パーティーがあったら、次はもっと上手く踊れると思いますの」


 失敗はしなかったが、完璧でもなかった。だからこそ、今日の反省を活かして次のパーティーに臨みたい。


「……グローリアは、なんでも楽しそうにするな」

「え?」

「ダンスは苦手だったんだろう? なのに、今日はずいぶんと楽しそうだった」

「練習をしているうちに楽しくなりましたの。それに、なんでも楽しくやった方がいいじゃありませんか」


 家事も仕事も雑用も、嫌だと思いながらやるより、楽しいと思いながらやった方がいいに決まっている。

 もちろん全てのことを楽しいと思えるわけではないけれど、楽しいと思えるよう努力する、というのはグローリアの習性の一つかもしれない。


「……ああ、そうだな」


 頷いて、ブラッドリーが微笑む。彼の笑顔にも、最近はかなり見慣れてきた。


(わたくし達の距離は、ちゃんと縮まっているわよね)


 少し身体を近づけ、ブラッドリーの手に自分の手を重ねてみる。

 ブラッドリーは拒まなかった。


(でも、もっと近づきたい)


 そのために必要なのは、やはり、ブラッドリーを知ることだろう。


(ブラッドリー様の大事なこと。……きっと、お兄様のことを)


 幸せになるべきではない、という思い込みが兄との関係によるものなら、避けて通れない問題だ。

 なにより、ブラッドリーのことを好きになればなるほど、兄との確執について知りたくなってしまう。


(好きな人の重荷を、一緒に背負ってあげたいもの)


 ブラッドリー様、と口を開きかけてやめたのは、横から寝息が聞こえてきたからだ。

 疲れていたのか、馬車の壁にもたれかかって、ブラッドリーが眠ってしまった。


 今日、パーティーでは多くの人の注目を浴びた。日頃とは違うことをして疲れたのかもしれない。


「……おやすみなさい、ブラッドリー様」


 せっかく眠っている彼を起こすべきじゃない。代わりに、グローリアは決めた。


 ――明日の朝、ブラッドリーに改めて話を聞こう、と。

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