第12話 貧乏令嬢、着飾る
「グローリア様、お綺麗ですよ」
アニーに身支度を手伝ってもらい、グローリアはパーティーの用意を終わらせた。
新しく仕立てた純白のドレスは、ダンスの際に邪魔にならないよう、身体のラインに沿った形にしている。
とはいえ下品にならないよう、フリルやレースをたっぷりとつけてもらい、動きやすさはそのままに、華やかなデザインにしてもらった。
「ありがとう、アニー」
「きっと会場中の皆様がグローリア様に見惚れますよ」
「ふふ、そうだといいのだけれど!」
はしゃぎながらアニーと装飾品を選んでいると、ブラッドリーが部屋に入ってきた。
こちらも既に身支度を整え、いつもとは違うパーティー用の正装に身を包んでいる。
「わっ、ブラッドリー様、格好良すぎますわ……」
赤いブラウスに、黒いジャケット。ブラッドリーの気高い美貌を際立たせるシンプルなデザインながら、ぱっと目を引く鮮やかな色遣い。
いつもは騎士としての印象が強いが、今日は完全な貴公子である。
「……そろそろ出る時間だ。まだ身支度は終わらないのか」
「もう終わりますわ。あとは首飾りを選ぶだけですの」
今後もこのような機会はあるだろうと考え、今回装飾品をまとめて宝石商からいくつか購入したのだ。
貧乏が身体にしみついているせいで、『まとめ買いをすると割引をしますよ』という宝石商の言葉にまんまと引っかかってしまったからでもある。
「そうですわ! ブラッドリー様が選んでくださいまし。どれがいいと思います?」
強引に腕を引き、ブラッドリーにドレッサーの上に置いてあるアクセサリーケースの中身を見せる。
ブラッドリーは数秒だけ悩んだ後、真っ赤なルビーのついた首飾りを指差した。
「確かに、純白のドレスに赤色は映えますわね!」
アニーがすぐに首飾りをつけてくれた。どうですか、と顔を覗き込んだグローリアを見つめ、ブラッドリーが照れたような顔で頷く。
「……似合っている」
「本当ですの!?」
「嘘をついてどうする」
淡々と喋っているつもりだろうが、赤くなった頬は隠せていない。
(ブラッドリー様も、最初に比べるとずいぶん柔らかくなってくれたわ)
そう考えたグローリアがにやついていると、ブラッドリーは視線をグローリアの足元へ向けた。
「その靴」
「どうかしました?」
「ヒールが高すぎるんじゃないか。足を痛めるぞ」
「心配、ありがとうございます。でも、本番だけですから、大丈夫ですわ」
それに、とブラッドリーとの距離を一歩詰める。
「ブラッドリー様と踊るんですもの。身長差を埋めるために、ヒールは必須ですわ」
「……きつくなったら言え。俺が背負う」
「だっ、大丈夫ですわよ、それはそうと背負われたいですけれどっ!」
伯爵夫人としての品格とブラッドリーに背負われたいという欲がぶつかり合い、グローリアは両方を口にした。
そんなグローリアを見て、ブラッドリーが楽しそうに笑った。
◆
馬車に揺られ、王宮へと向かう。屋敷から王宮までの距離は近く、すぐに到着するそうだ。
「パーティーには騎士団の全員が招かれているわけじゃないが、ハワードはくる。夫人もくるから、グローリアも話し相手がいていいだろう」
「まあ! 久しぶりにアイリーン殿に会えますのね!」
グローリアは社交界に友達がいない。人見知りをする性格ではないが、見知った顔がいてくれると助かる。
「ブラッドリー様」
「なんだ?」
「一応確認なのですけれど、パーティーの食事って、いくら食べても無料なんですわよね?」
パーティーに参加したことがないから、パーティーがどう運営されているかが分からない。
参加費を払っているのだろうか。それとも、招待する側が全てを賄っているのだろうか。
「全部、陛下のご厚意だ。だから安心して食べるといい」
「そうしますわ!」
「……もしかして、日頃の食事量は足りていないのか?」
「いいえ、大丈夫ですわ。まあ、もう少し多くても問題ないですけれど……」
わずかに目を逸らしながら答えたグローリアに、ブラッドリーは呆れたような表情で返事をした
「好きなだけ食べればいい。食費は気にするな」
「ありがとうございます。でもその、食費もありますけれど、普段は、その……」
「なんだ?」
「ブラッドリー様は、いっぱい食べる女性は嫌いではありませんか?」
立食形式のパーティーであれば、いくら食べてもブラッドリーにはよく分からないだろう。
しかしいつもの夕食では、大盛りにしても、おかわりをしても、すぐにバレてしまう。
そのためグローリアは、淑女らしい食事量を保っていたのだ。
「食べられる時に食べておくのは大事なことだ」
「では、いっぱい食べても、わたくしのことを嫌いになったりしませんか?」
「……しない」
少しだけ目を逸らしながら、ブラッドリーが赤くなった顔で教えてくれる。
(本当にブラッドリー様って……)
知れば知るほど、彼のことを好きになっていく気がする。
それと同時に、彼の過去を知りたくなってしまう。
馬車が停まる。伯爵夫人として気合を入れ、グローリアは馬車から下りた。




