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貧乏令嬢、軍神伯爵に嫁ぐ~「君を愛するつもりはない」と言われましたが、わたくしは超好きですわ!~  作者: 八星 こはく


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第11話 貧乏令嬢、戸惑う

「休め……? わたくしが、ですか?」


 きょとん、とした顔で聞き返したグローリアを見て、ブラッドリーは溜息を吐いた。


「テレンスからも聞いた。ここ最近、俺がいない間もずっとダンスの練習をしていると」

「ええ。恥ずかしながらわたくし、ダンスは得意ではありませんから。今度のパーティーに向けて練習していたんですわ」


 必要だから練習した。それだけのことだ。


「時間はありませんし、わたくし体力はありますから。何度も繰り返し練習するのが一番ですの」

「……怪我をしているだろう」

「これくらいの怪我、たいしたことありませんもの」


 確かに少し痛む気はするが、それだけだ。

 実家暮らしの時は、今よりも毎日激しく動き回っていた。おそらく足を怪我したのは靴のせいだろう。

 本番に近い状況で練習するために、グローリアはあえてヒールの高い靴を履いてダンスをしていたから。


「本気で言っているのか?」

「もちろんですわ。それに、わたくしが少し怪我をしたとしても、伯爵夫人としてしっかり踊れるところを見せる方が大切ですもの」


 足の痛みが続くようなら、パーティーが終わった後ゆっくり休めばいい。

 グローリアは心の底からそう思っているのだが、どうやらブラッドリーの考えは違うようだった。


「いいから休め。別に、ダンスなど下手で構わん」


 でも、と言いかけたグローリアを無視し、ブラッドリーはいきなりグローリアを姫抱きにした。

 いきなりのことに慌てて声を上げると、至近距離でブラッドリーが睨みつけてくる。


「お前は無茶をし過ぎだ」

「無茶なんてしていませんが……」

「無茶を無茶と思っていないのなら、余計に悪い」


 溜息を吐くと、ブラッドリーはベッティーナへ視線を向けた。


「今日はもう帰っていい」





 姫抱きにされたまま、グローリアは自室のベッドまで運ばれた。ゆっくりとベッドに下ろされる。


「なにか必要な物があれば俺が持ってくる。足が治るまで、ベッドから出るな」

「……あ、あの、ブラッドリー様? その、ご心配はありがたいのですけれど、わたくし、ちょっとした怪我で動けなくなるようなか弱い令嬢ではありませんわよ?」


 もしかしたら、ブラッドリーが知っている貴族の令嬢は、グローリアのように足を痛めてまでダンスの練習をしないのかもしれない。

 だが、現実的にパーティーの日取りを考えれば過度な練習が必要になってくるし、グローリアにとって苦でもない。


 貧乏育ちのおかげで、グローリアには根性があるのだ。


「ですので、わたくしのことは、それほど丁重に扱わずとも平気ですわ」


 にっこりと笑って、グローリアはブラッドリーを安心させるように両手の拳を握ってみせた。

 しかし、ブラッドリーは溜息を吐いて、グローリアを見つめる。


「……お前が普通の令嬢とは違うことはもう分かった。グローリアのような令嬢は見たことがない」

「まあ」

「だが、それとこれとは話が別だ。グローリアは、もし俺が同じように怪我をしていたら、『怪我なんて慣れているだろうし、安静にする必要はない』と思うか?」

「あ……」


 もし同じようにブラッドリーの足が腫れていたら、グローリアは安静にするよう主張するだろうし、たまには訓練を休むべきだと言うだろう。

 彼が健康な肉体を持ち、戦場で怪我には慣れているからといって、心配しない理由にはならない。


(むしろ、より心配になってしまいそうだわ。痛みに鈍感な方だから、わたくしが見ていてあげなければ、と……)


「分かったな」

「……分かりましたわ」

「なら、おとなしくしていろ。足が治ったら、またダンスの練習をすればいい。ただし、無理のない範囲でだ」

「……はい」


 しゅん、と落ち込んでしまったグローリアの頭を、ブラッドリーが雑に撫でてくれた。


「ブラッドリー様……?」

「……俺のために頑張ってくれたことは、礼を言う」


 グローリアの目を見つめ、ブラッドリーが軽く笑った。

 ぎこちなく、不器用な笑みではあるけれど、心からの笑顔だ。


「もし誰かにダンスを笑われたら、俺に言え」

「……はい」


 胸の奥が熱くなる。初めての感情に戸惑って、グローリアはとっさに俯いてしまった。


(……誰かに心配されるなんて、今まであったかしら)


 もちろん、両親も弟も、グローリアのことを気遣ってくれてはいた。

 しかしグローリアは家族の誰より体力も気力もあり、心配されるようなポジションではなかったのだ。


「じゃあ、今日はもう休め。おやすみ、グローリア」


 ブラッドリーの手がグローリアの頭から離れる。大きな手は温かくて、擦り寄ってしまいたいような安心感があった。


「……あの、ブラッドリー様」

「なんだ。まだなにかあるのか?」


 屋敷にきて、ブラッドリーに一目惚れしたのは単純に顔がタイプだったからだ。

 けれど今、グローリアは自分の感情がもう一段階変わったのを感じた。


「わたくし、改めてブラッドリー様に恋に落ちてしまいましたわ」

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