2話目 天下の大盗賊 景清
景清。
『クロニクル・オブ・ネクサス(通称:CoN)』での設定は、全世界を脅かす大盗賊団【笑撃団】の頭領。
そのモットーは、「傷つけず、最後は笑顔で」。
ゲームのストーリーモードにおいて、景清をプレイアブルキャラとして選ぶと、他の全キャラクターと強制的に敵対関係になる。理由は単純、設定もビジュアルも何もかもが怪しすぎるからだ。
当の景清本人も、深い理由や暗い過去がある訳ではなく、ただ「面白そうで難しそうだから」という安直な理由でその信条を掲げている。
そんな馬鹿げた大盗賊に、俺はなってしまったらしい。
「……ふざけた設定しやがって」
床を乱暴に殴る。
「痛っ!!?」
拳をまじまじと見る。鍛え上げられた素晴らしい拳だ。
――いや、それよりも。
「もしかして……痛覚もそのまま……?」
先程まで練習していたコンボが脳裏をよぎる。腕の関節を外して殴るまではいい……いや、良くないが。問題はその後の、コンボの締めだ。
「切腹……」
いくら「使わなければいい」とはいえ、ここは元のゲームの世界だ。景清となってしまった時点で、他の全プレイアブルキャラが最初から敵対していると考えるのが自然だろう。
もし、公式最強の『勇者』みたいな、まともに戦ったら勝てそうにない化け物と対峙してしまったら?
「……覚悟……キメるか……」
腰の刀を鞘から抜き、まじまじと見つめる。刃に反射している翁の面が、こちらを試すように不気味に笑っていた。
刀を握る手に力が籠る。
「……逆張り世界1位、舐めんなよ!!!!」
刀を両手で掲げ――一気に己の腹へと突き刺す。
血がボタボタと零れ落ち、焼けるような激痛が腹部を襲う。だが、不思議と死ぬ気はしない。
「……なんだよ……やっぱりクソ痛えじゃねぇか……」
腹に刀を刺したまま、立ち上がったり、しゃがんだりしてみる。
仕様通りと言うべきか、それ以上傷が深くなったり、血が溢れ出たりすることはなかった。
腹から恐る恐る刀を抜くが、抜く時の痛みもなく、血がドバドバ溢れるということもない。やはり、突き刺した時点で「技の判定」は完了しているのだろう。
ひと通り考察を終えたあと、ふと、トレーニングルームの外から騒音がすることに気がつく。
「たしか……ゲーム通りなら、集会所の地下がトレーニングルームって設定だったよな……」
穴の空いた腹を擦りながら、考えを巡らせる。
「まぁ……すぐ襲われて殺されるなんてことは無いだろ……多分。死にゲーじゃないしな」
そう呟きつつ、景清は――地上へと続く扉を開けた。




