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彼の推しの中の人が私だなんて言えるわけがない!  作者: 濃厚圧縮珈琲


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7話

(うわ……凄い通知溜まってる)


 朝から返事を返していないから、追いメッセージが来てしまったのだろうか。

 通知欄をタップし、届いていたメッセージを開く。



 高坂陽向

『おはよ! 今日の見た!? マジでブレイブヤバすぎて朝から号泣してる……』

『今週やばかったんだけど!!』

『ブレイブのあの表情!! もうテレビ直撮りだけど撮っちゃったよ!』

[画像]

『……忙しかった?』

『ごめんゆっくりでいいよ!!』

『でも画像だけ後でちゃんと見て!!』

『スタンプ』



 画像を見れば、確かに画像の荒い画面直撮りの写真に、編集で手書きの矢印と丸印がぎっしりついていた。


「うわぁ。さすが高坂君……」


 最早ちょっぴり引きつつも、淡々とメッセージを送り返しておく。 


『ごめんなさい、仕事でした』

『それと、画像見ました。私もこの表情すごく好きです』


 送信するとほぼ同時に既読がついて、すぐに返事が返ってきた。


『良かった生きてた!!』

『でしょ!? ここ作画爆発しててマジ尊い……!! 朝から神を見た!』


(……待ってたんだね)

 

 苦笑しながら返信を打っていると、また別の通知が来た。

 送信者はステラ☆フォースの公式アカウントから。一度に二件届いていた。

 一件目。


【重大発表】

みんなお待たせ―!! 秋の大型ライブイベント開催決定だよ!!

神奈川の〇〇ホールで、みんなと会えるのを待ってるね♪

10月〇日 

おひさまとピカピカ公演 12時開場 13時開演

おつきさまとキラキラ公演 17時開場 18時開演

▶︎詳細はこちら



 二件目。

【お知らせ】

夏休み期間限定!

都内某所にてステラ☆フォース

キャラクター展示イベント開催!

▶︎詳細はこちら



(そうだった。今日情報解禁だったっけ)


 ……そう。私はこのライブイベントでもブレイブをやらせてもらえる事になったのだ。

 数多くのアクターさんの中からオーディションで選ばれ、大舞台でブレイブとして立つ事ができる。

 今はまだ両親と凛にしか話してないけど、通知が来た日は本当に……嬉しかった。



 少し物思いに更けていると、高坂君からのメッセージが爆発していた。



『星野さん!!!!』

『やばい、きたこれ!!!!!!!』

『ライブイベントだよ!!!!!!』

『絶対昼夜公演全通する!!!! てか待って、チケット!? ウォアアアアアッ!!!』

『あと展示イベント!!!!!!』

『都内だし一緒に行かない!?!? 夏休み!!!』

『ブレイブのパネルとか絶対やばいやつ!! しかもミニショーとハイタッチ会もあるんでしょ!?!? 行くしかない……行くしかないよ!!!!!』




「うわ……」


 つい声が漏れてしまった。勢いが……圧が強すぎる。

 とりあえず黙っていたら通知が大変なことになりそうなので、さっと返事を返しておく。


『展示イベント、楽しそうですね』

『ライブもチケット当たると良いですね、この日は予定があっていけないので、私の分まで楽しんできてください』



『でしょ!? 展示一緒に行こうよ!!』

『ブレイブのコーナー絶対あるから!! 夏休みいつ空いてる!?」


 カレンダーを確認しようとしたその時、スマホ画面の時計が目に入った。

 もうそろそろ時間だ。


『ごめんなさい、そろそろ休憩終わりで……。後で確認しますね』


『了解!! 待ってるね!!』


 スタンプを最後に送り、スマホを鞄の中に戻した。


(さてと……。午後も頑張らなきゃ)


 身体をほぐすように大きく伸びをして、軽く頬を両手で叩く。

 気合い入った。さぁやろう。



*   *   *



「それじゃあみんなっ! ばいば~い!!!」


 子供達の「ばいばーい!」の声を受けながらテントに戻り、マイクを返却する。

 午後の部も、滞りなく終わった。


 午前の部よりも大勢が集まった午後の部は、とにかく子供達が元気いっぱいで、マイクを使っている私の声が負けそうになるくらいの声援が飛び交っていた。


 怪人との殺陣では、びっくりするくらいの応援の声が響き、怪人も僅かに困惑しているようなアドリブを見せていた。

 臨機応変にヒーロー達もアドリブを入れ、子供達へ感謝の手を振る余裕すら見せていた。

 

 ……本当に、まだまだ勉強する事は沢山あるんだと痛感させられるショーだった。





 その後の撤収作業は、ショッピングモールのスタッフと劇団員全員で手分けして行う。

 パイプ椅子を重ねて、床に敷いていたマットを丸め、看板を解体してテントを畳む。

 黙々と作業していると、隣に石井さんが並んだ。


「星野さんお疲れさん、今日はこの後どうするの?」


「お疲れ様です。……稽古場に顔出しに行こうかと」


「え、この後も?」

 

 石井さんが少し目を見開いた。


「大丈夫? 疲れてない?」


「大丈夫です! 今日はMCでしたし。……それに、石井さん達の殺陣見ていたら、身体動かさないと落ち着かなくて」


 正直に答えると、石井さんはしばらく黙ってから、ふっと笑った。


「……なんか、あれだね」


「何がですか?」


「いや、本物だなぁって。あと若いなって」


 その一言が、じんわりと胸に落ちた。


「ふふ、何ですかそれ……。でもありがとうございます!」


「頑張ってねぇ。星野さんは、絶対伸びるよ!」


 それだけ言って、石井さんは重いスピーカーを抱えてバックヤードへと戻っていった。

 その背を見送りながら、私は石井さんからの何気ない言葉を一人噛み締めていた。

 



*   *   *



 

 ショッピングモールのある最寄り駅から、稽古場へ向かう電車に乗る。

 日曜の午後の車内は程よく空いていて、窓際の席に座れた。


 着替えの入った鞄を膝の上に置いて、ひとつ深呼吸をする。

 身体は確かに疲れている。でも、不思議と気分は軽かった。


(本物……か)


 石井さんの言葉が、まだ胸のどこかに残っていた。


 本物。ホンモノ。

 所詮私達アクターは偽物。役を演じる者であって、オリジナルではない。

 

 舞台俳優も、映像作品の女優も、あくまで有名人がやっているだけで、それぞれの我を出してはいけない。

 無論その役者らしさを出していい作品もある。でもそれは……その役ではなく、その俳優を見たい層へのサービスに過ぎない。


 

 役の姿をして、舞台に立つ時だけは、私達は本物なんだ。


 そこに、大女優もアイドルも、星野理子もいない。本物の人物Aがそこにいるんだ。


 だからこそ、ベテランの人から言われる「本物だ」という言葉の重さを、私はよく知っている。

 ……お世辞でも、社交辞令じゃないことも、あの声と瞳が物語っていた。


 だからこそ——もっと頑張らなきゃいけない。


 そう思ったら、稽古場が待ち遠しくなっていた。


(早く……着かないかな)



 電車は早くも遅くもなく、時間通りに稽古場の最寄り駅に近付いていく。


 さて、もうひと頑張りだ。



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