12話
ショーが始まると、ステラ達はファンサを交えつつそれぞれ掛け合いをして話を進めていく。
流れる音声とぴったり動きを合わせ、本当にブレイブ達が喋っているように見える。
クイズを交えて会場が温まってきた時、BGMが不穏なものに変わり、クライゾーが会場に現れ子供達の悲鳴が上がる。
すぐにブレイブ達との、戦闘が始まる。
そこから私は、ほとんど瞬きをしなかった。一瞬たりとも見逃さない。その気概でステラ達を見つめていた。
(……踏み込みが深い)
殺陣での重心の移動。クライゾーとのタイミングの合わせ方。
(あの回転蹴り、軸がぶれてない。綺麗)
激しい動きの中でも、時々ブレイブが子供達の方を向いて、みんなを気遣う仕草を見せる。
(視線の配り方……いいね)
「星野さん、すごい真剣に見てる!」
高坂君が少し笑いながら小声で言った。
「……あ、ごめん。つい」
「わかる! こういうの見始めると目が離せなくなるよね!!」
(そういう理由じゃないんだけどな)
苦笑いしながら、またステージに目を戻す。
クライゾーとの戦いが佳境に入る。
ブレイブが吹き飛ばされ、ドリームとホープが駆け寄り、立ち上がるブレイブ。
子供達が「ブレイブ!!」と声を張り上げ応援の声に熱が籠る。
ブレイブが、前を向いた。
『どんな時でも、誰かの笑顔のために!』
(……)
それは、ブレイブの言い続けてきた言葉であって、私の座右の銘でもある言葉。
スーツの中で汗だらけになりながら、何度も何度も胸の奥で繰り返してきた言葉。
『いくよ! ステラ・トリニティ・バースト!!』
必殺技が炸裂し、クライゾーがステージ裏のカーテンへと退散していく。
子供達の歓声が最高潮に達した。
そしてもう一つ。隣の高坂君は、両手を握りしめて感涙に震えていた。
「……よかった……!! よかったよぉぉ……!!」
(何度も見てるのに……)
それが、何だかおかしくて。それでも理解出来てしまう自分がいて。
……少しだけ、眩しかった。
* * *
無事にショーが終わり、続けてハイタッチ会が始まった。
「さ、星野さんも並ぼう!!」
「……私も参加していいのかな?」
「もちろん!! 絶対後悔しないから!!」
列に並びながら、私は少し緊張していた。
ファンサを受け取る側に立つのは、かなり久し振りだ。
子供達が次々とブレイブの元へ駆けていく。
列が進む。
あっという間に私の番が来た。
客席から見上げる存在から差し伸べられる、白い手。
「……お疲れ様、ブレイブ!」
ぽふん、と。しっかりとハイタッチを交わして、ブレイブと触れ合う。
(……こんな感じ、なんだ)
温かかった。
そして確かな重さがあった。
マスクの奥に、誰かがいる。
汗だくで、息を整えながら全力でブレイブでいようとしている、誰かが。
(……私も、こうやって誰かに届けられていたのかな)
そう思っていたら、自然と目の前が少しぼやけていた。
「……っ」
そのままドリーム、ホープとハイタッチを終えて列からそっと離れながら、こっそり目元を押さえた。
「ふおぉ……最高だった……!! ん? 星野さん、泣いてる?!」
ハイタッチを終えた高坂君がウキウキでやってくるも、目を擦っている私を見て目を見開いた。
「……泣いてないです」
「目、赤いけど」
「……気のせいです」
高坂君は少しの間こちらを見てから、ぽつりと言った。
「……わかるよ」
「え?」
「俺も最初、ハイタッチで泣いたから」
それだけ言って、彼は前を向いた。
(……そういうわけじゃないんだけどなぁ)
でも、なんだか笑えてきた。
「……ありがとう、高坂君」
言ってから、少し恥ずかしくなった。
高坂君が、きょとんとした顔でこちらを見ている。
「いや……今日、来て良かったなと思って」
「ほんとに?! やった!! ならまた一緒に来ようよ!!」
ぱっと顔が明るくなる彼に、思わず笑った。
「……うん。また来ます」
ここにきて、ブレイブと向き合う事で何かが掴めるかもしれない。そんな気がしてならなかった。
* * *
冷房の効いた施設内から一歩外に踏み出すと、来た時とそう変わらぬ強い熱気がじわりと身体を包み込んできた。
地下通路から地上へ出ると、まだまだ高い位置にいる太陽の日差しが容赦なく肌を刺すように照り付け、早々に日傘を再展開する事になった。
「今日のブレイブ、どうだった? 星野さん的に」
歩きながら偽装シャツを羽織りつつ、高坂君が聞いてきた。
「……どうって?」
「ほら、すごい真剣に見てたじゃん? だから感想聞きたくて!」
(……どう答えよう)
少し悩み、考えが固まってから、正直に言った。
「……上手でした。動きからも学べる事も沢山あって」
「学べる事!! さすが星野さん、視点がガチだ!! どこが特に好きだった?」
「回転のところとか。軸がすごく綺麗で」
「分かるぅー!! あそこ俺も毎回注目してる!!」
彼が嬉しそうに身を乗り出して、身振り手振り交えに興奮を伝えてきた。
その横顔を見ながら、私はふと思った。
(この人は、ブレイブのどんな細かいところも、ちゃんと見ているんだな)
好きだから、違いが見える。
それは、私がアクターとして稽古する理由と、どこか似ていた。
池袋駅の改札前まで戻ってくると、人混みから守るように前を歩いて道を切り開いてくれていた高坂君が、くるりと振り向いた。
「星野さん、今日は暑い中付き合ってくれてありがとう! 楽しかったよ~!!」
「こちらこそ、今日はチケットまでありがとうございました」
「全然! ちゃんとブレイブの事分かってくれてる星野さんと来れて良かったよ、マジで!!」
屈託のない笑みに、私はつい視線を逸らしてしまう。
「星野さんって帰りの電車どっち方面? 新宿方面?」
「新宿方面です。高坂君も?」
「本当はそうなんだけど、今日は東京方面に用事があって……じゃあここで解散かな」
「ですね」
ICカード乗車券で改札を通り抜け、人の流れを邪魔しないように壁際に寄りながら、もう一度私達は向き合った。
「じゃあ、また!」
「はい、また」
満面の笑みを浮かべ、何度もこちらを振り返りながら手を振り、階段を登っていく彼を見送ってから、私も自分の乗る電車のホームへと階段を登って行った。
* * *
帰りの電車に揺られながら、私はぼんやりと今日の事を振り返っていた。
知らない人が演じたブレイブ。
ハイタッチで感じた柔らかさと力強さ。
白手越しに感じる温かさ。
(もっとうまくなろう)
ただ、それだけを思った。
あの温かさを、もっとたくさんの人に届ける為に。
みんなからの大好きをしっかりと受け止めて、私も大好きだよって返せるように。
ポケットの中で、スマホが震えた。
……見るまでもない、きっと高坂君からだ。
ゆっくりとスマホを取り出して画面を確認すると、予想通り高坂君からのメッセージが届いていた。
『今日の写真送るよ!! また絶対来ようね!!』
メッセージの次に、ブレイブのパネルの前でポーズを取る私の写真が届いていた。
ちょっぴり恥ずかしそうにしながらも、しっかりと腕も手も、指先まで伸びている。角度まで正確に再現していて、我ながらよくやっていると少しだけ誇らしくなった。
『ありがとうございます。私も撮った写真送りますね』
メッセージを送った後、フォルダにある大量の高坂君の写真を送信して、スマホをポケットに仕舞いながら窓の外を見た。
まだまだ明るい青空に浮かぶ入道雲。この時間に家に帰るのも久しいなと思いながら、座席の背もたれに体重を預けた。




