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彼の推しの中の人が私だなんて言えるわけがない!  作者: 濃厚圧縮珈琲


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12/14

11話

「はい、これ星野さんの分のチケットね!」


「あ、ありがとうございます」


 列に並んでいる時に、高坂君からチケットを渡される。

 フリー入場チケット。公式HP曰く、土日や主題歌を歌うシンガーさんがショーに来る時以外は基本このチケットで入れるらしい。

 ただし、ミニショー一回参加につき一枚必要で、この間彼は一日に三回参加したと言っていたから……。


(ひょっとしてかなり出費してるのでは……?)


 チケットに印字されている金額は早割で2000円。

 まだまだチケットは持ってると言っていたから少なくても一万以上……。


(推し活の出費……ッ! 恐ろしい子……ッ)



 私の動揺もどこ吹く風か、高坂君は徐にシャツのボタンに手をかけ、あっという間に外して前をはだけると、いつか見たブレイブのフルグラフィックTシャツが姿を現した。


「あ……それ……!」


「ふっふっふ。如何にもッ!! ここでは偽装シャツはもう必要ないんだ!!」


 手早くシャツを脱いで痛バの中に仕舞うと、入れ替えにブレイブのマフラータオルとぬいぐるみ。リストバンドにうちわと次々にグッズが取り出され、重装備になっていく。



「よしっ……完璧ッ……!」


「お、おぅ……」


 ほんの一分にも満たぬ時間で、隣に立っていた爽やか陽キャイケメンが、ガチ勢オタクに早変わりする様を見せられ、脳が混乱していた。


 目の輝きは陽キャモードよりも増し、ハチマキのようにタオルを頭に巻く様は、職人のそれを感じさせる。

 

 あの日の高坂君が、ここにいた。


 

 会場に入り、まず目に飛び込んできたのは変身バンクのキメポーズを取ったブレイブのパネルとその説明書き。

 アニメの名場面を切り取った写真パネルが壁一面に並び、ブレイブが大きく描かれたメインビジュアルがドンと構えている。


「……凄い」


「でしょ!! ここで写真撮れるんだよ! 星野さんもブレイブと一緒に撮る?」


「じゃあ……お願いしようかな。高坂君も撮るよね?」


「もちろん!! 誰かに撮ってもらえるの、すっごいありがたい!!」

 


 子供達に混ざってブレイブの等身大パネルとの撮影待ち列に並び、順番が来ると高坂君が痛バッグを肩に掛け直しながら、嬉しそうにスマホを構えた。



 私もパネルの横に並んで、軽くポーズを取る。

 もちろん、ブレイブのキメポーズだ。


「お! そのポーズいいねぇ~!!! はい、チーズ!」


 パシャパシャと何度かシャッター音が聞こえ、良い笑顔で高坂君は満足気にスマホを下ろした。


「OK! あとで送るね!」


「うん! ありがとう! 高坂君も、どうぞ?」 


「よぉーし! 待ってました!!」


 立ち位置を交代し、スマホを構える。


 高坂君はびっしりと並ぶ缶バッチが見えるように痛バを足元に置き、ブレイブのぬいぐるみを片手に、ブレイブが劇中で良くする指差しポーズを決める。


「はい、チーズ」


 途中スマホを縦横に変えながら何枚かシャッターボタンを押していく。

 器用な物で、数秒の間に次々とポーズを変え、合計4ポーズもの写真が撮れていた。


 そして……被写体が良いのもあるのか、妙に絵になっているのがシュールで、思わず笑いそうになってしまう。


「どうかな?! 良い感じに撮れた??」


「はい、ばっちりです。後で私も送りますね」



 続けて展示エリアを歩きながら、高坂君の解説が続く。


「ここがアニメ第一話の再現コーナー! ゆきちゃんがブレイブに初変身するシーンの衣装レプリカもあって——!」


「ここ、ドリームに変身するゆめちゃんの実家がやってるパン屋さんの再現コーナー! ほら!! ここのかまどの中にマスコットのリンリンの形のパンが――!


「ここがね! のぞむちゃんが良くいく本屋さんの――!」


 

 公式の案内人かと思うくらい細かい所までの説明が続く。

 私もある程度の知識はあるけれど、展示の細かいところまでの作り込みに高坂君の指摘で気付いて新しい発見があるなど、退屈する事はなかった。


 ゆっくりと歩きながら、私はそっと各展示を眺めた。

 アニメのブレイブの動き。表情。立ち方。

 ステージのブレイブとは、少し違う。


(アニメはアニメ、ステージはステージだもんね)


 でも同じ「ブレイブ」だ。

 どちらも本物だと言える何かを持っている。


(私がステージで作るブレイブは……どっちに近いんだろう)


 

 私が少し物思いに耽る中でも、高坂君のツアーは続いていた。


「でね!! あっちにグッズコーナーがあるんだ! 限定品も出てて、良ければ星野さんも見てみてよ!!」


「うんー」


 思わず生返事をしてしまう程、変身バンクの流れるコーナーの映像を食い入るように眺めていた。

 何度見たか分からないこの動作。自分では完全にコピーしたと思っていたけど、動画で見返すとどうしても遅れてしまいそうな所がある。


 集中しろ、このくるっと回る時……顔の角度が少し上を向く。

 分かっているけど……マスクをつけているとこの僅かな差が――


「星野さーん! ほら、見て見て!! ブレイブのアクスタ、まだ全バリあるよ!!」


 高坂君の声でふと我に返る。慌てて少し笑みを浮かべながら彼の指すグッズコーナーへ駆け寄っていく。


「……本当だ、いっぱいありますね」


 ずらりと並んだアクリルスタンドの中に、ブレイブ――もう一人の自分の顔があった。

 それはどこか……不思議な気分だった。




*   *   *




 展示を一通り回ったところで、高坂君が目に見えてそわそわし始めた。何だろうと首を傾げた時、アナウンスが聞こえてきた。


『まもなく、ステラ☆フォースのミニショーが始まります!まもなく入場開始しますので、観覧希望の方は待機列へとお並び下さい~!』


「来た!! 行こう!!」


(なるほど、これを待っていたのね)


 彼にリードを付けていたら引きずられるだろう勢いで、ステージのあるもう一つの展示室へと移動する。

 待機列には既に大勢の親子連れが並んでおり、出来る限り子供達を優先しようと列を譲り続けていたら、列が〆切られるギリギリの最後尾で会場に入場した。

 

 証明に照らされた逆T字型のステージは、花道がステージ裏のカーテンに繋がっている。そこからステラ達が登場するのだろう。

 

 ステージを囲むように三方向に座るスペースが設けられており、ステージの近くのエリアは子供と保護者限定。大人達はその後方エリアで座るか立ち見するように分けられている。


「邪魔しないように、ね」

「うんうん」


 私達はステージから正面に、大人用の座り見スペースの更に後ろの方に立って、ステージを眺める。

 流れているBGMも相まって、ステラ達の登場を今か今かと待ち受ける子供達と、大人のファン達の熱気で汗が滲んできてしまいそうになる。


「……凄い熱気ですね」


「だよね!! この大人も子供も一体になって楽しめるって、最高じゃん?」

 

 ——高坂君のその言葉に、一瞬言葉が詰まった。

 

 それは……私が、ステージに立つ時にずっと思っていた事だったから。

 スーツの中で汗だらけになりながら、それでも声を張って、小さな仕草一つでも丁寧にするのは、ただ……その為に。


「……うん。最高だと思う」


(心の底から、そう思うよ)


 その気持ちが表情に出ていたのか、自然と口角が上がっていたのに気付き、スンッと笑みを落とすと流れているBGMが大きくなった。

 ——そろそろ始まる合図だ。



 ステージ裏に繋がるカーテンが揺れ、MCのお姉さんがマイクを手に花道を走ってステージ中央へとやってきた。

 お決まりの挨拶と、ショーを見る際のお約束をした後、いよいよステラ達の出番がやってきた。


「それじゃあみんなで読んでみようー! せーのっ!!」


「「「ステラフォースーッ!!!」」」



『みんな、行くよっ! ステラ☆フォースの出番だよっ!!』

『『うんっ!!』』

 

 変身バンクのBGMが大音量で流れ始め、皆が変身を終える少し前のタイミングでステージ裏のカーテンが上がり、ステラ・フォースの三人が駆け出してきた。

 

 ブレイブ。ドリーム。ホープ。

 照明に照らされたその姿に、客席が一斉に沸いた。


『どんな時でも、誰かの笑顔のために! 守り抜く勇気の星! ステラ・ブレイブ!』

『あなたの夢が、私の力! 彩る夢の星! ステラ・ドリーム!』

『信じる力は闇夜を照らす! 導く希望の星! ステラ・ホープ!』


『『『星の輝きをあなたへ! ステラ☆フォース!!』』』


 

「ステラ☆フォースのみんなに拍手ーっ!!」


「「「わぁぁぁぁーっ!!!!」」」 


 決めポーズをとる三人へ、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こり、キラキラした視線が注がれていく。

 その歓声の中には、私の隣に立つ高坂君の声も混ざっていた。


「ブレイブぅうううううっ!!!! かっこいいよおおおおおーーっ!!!!」

 

「あ……あはは……」


 彼の圧に負けそうになりながらも、しっかりと拍手をしてステラ達を迎える。

 

 さぁ、勉強の時間だ。

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