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『腐』は腐女子の『腐』!  作者: ヒロ猫
おいでよ腐士の森!
39/56

エル腐!

ここから第二部ですにゃん。

一話が長くなりますにゃん。


 模擬試合が終わり、月が明けて三月になった。


 もともとそんなに寒くない冬だったけど、三月になったらもう春本番って感じだ。そんな三月になってからの授業では、王国が成立するよりももっと昔の歴史が始まることになった。神殿学校では王国史しか習ってなかったから、私にとっても初めての授業である。


「そもそも世界は滅びに瀕していた」

 その栄えある授業の最初に、そう重々しく語り始めたのがスチュアート先生だ。担任だけじゃなく、歴史も兼任している。なんかこう……臭う。オタクの血臭がする。いや、もしかしたら中二病の臭いかもしれん。


「当時の高度な文明を破壊した存在こそ、魔王と呼ばれる存在だった……!」

 オタク臭が飛び散りすぎててしんどいです先生!


「だがその時!」

 スチュアート先生が声を張り上げ、そのあまりの臭さに目を逸らしていると、周囲の反応が思ってたんと違うのに気づいた。なんていうか、ノリノリである。……なんか……小学生高学年男子、こういうの好きそうだもんな……。


「勇者が現れたのだ。勇者は各種族から一人ずつ選ばれた」

「先生!」


 私が、ん? と思うよりも早く、デニスが手を挙げた。私がパーシヴァル少年に、模擬試合で勝ってからちょっとだけ大人しくなった男爵家の少年だ。このクラスの中ではやはり優秀な部類に入るらしく、授業中も質問が多い。堂々と質問できる身分でもあるっていうのも大きいと思うが。


「どうしたね、デニス君」


 スチュアート先生はこの頃、いちいち生徒の一人一人に男爵子息やら騎士爵子息やらをつけるのが面倒になったらしく、生徒はみんな等しく君付けで呼んでいる。思いの外抵抗がないのは、スチュアート先生ってこういう先生だからだろうなっていうのが、たかだか十二歳の子ども達にまで伝わってしまっている、彼らしい個性のおかげだと思う。


「各種族というのは、もしかしておとぎ話に出てくる、エルフなどの種族のことでしょうかっ?」

 デニスの声が弾んでいる。少年が憧れるエルフ……どっちだろう。つるぺたすっとんの方か、ハーレム要員の方か。


「よく分かったな。そう、その通りだ。不老長寿、英知、魔法薬、それから美貌……人間が求める全ての理想と言われるエルフだが、かつては実在していたし、我々のすぐ隣で生活していたのだ!」


 ん~……どっちかっていうと、つるぺたすっとん寄りっぽいな?

 そしてざわめく教室。そわそわと顔を赤らめる少年。おい、なにを想像したんだ、ダグラス?


「先生、それではどうしてーー」

「君の疑問は想像できる。もう少し話を続ければその疑問も解消できるだろう。……さて、勇者に選ばれたのは三人だ。人間からは、魔法の勇者が。エルフからは、癒やしの勇者が。そしてドワーフからは、剣の勇者が選ばれた。その三人が力を合わせ、数多くの苦難を乗り越え、ついに魔王を倒すことに成功したのだ!」


 おお! と、先生の言葉に合わせてどよめきが起こる。素直で可愛い。


 私の方は、そんな歴史があったのに神殿学校では習わなかったこと、そして今現在、エルフもドワーフも、見かけることはおろか、聞いたことさえないことを合わせて考えると、なんだかいやーな気配を感じている。


「……だが」

 ほーらやっぱり!


「魔王は息絶える間際に、邪神に願ったのだ。それに応えた邪神が、呪いを放った。固く結ばれた勇者達の絆。それを標的とした、強力な呪いだった。その呪いのせいで、我々は多くのものを奪われたのだ。大きなものが、各種族共通の言葉だった。意思疎通ができず、互いの信頼関係をも邪神に奪われた。それらを悲しんだのが、女神たちだった。女神は我らを憐れみ、住まう場所を分けたのだ」


 しーん、と静まりかえる教室。


「先生」

 手を挙げる。

「なにかな、リオン君」


「住まう場所を分けた、というのはどういうことですか? 今、僕らの周辺に彼らの気配はありません。でも、僕らが住む世界とは別の場所で、彼らは生きているっていうことですか?」


「そうだな、色々な説がある。学者の中には、存在をずらされたのでは、と唱える者もいるな。同じ大地に暮らしているが、その存在がずらされているから、互いを認識することがない、というのが現在の主流な仮説だ。だがダンジョンの位置する分布を考えると、迷いの森のその先や、死の山のその先にそれぞれの居住地があると考察する者もいる。いずれにせよ、確かにこうだという結論には至っていないのが現状だな」


 あ、駄目だ。せっかく盛り上がってた教室が、すんってなってる。


「というのも、ごく僅かに彼らと交わる場所があるのだ」

 お、一気に教室の熱気が盛り返した!

「ど、どこですかそれって!」


 ダグラスよ……君の空想方向が僕は心配だよ。まだ見ぬ理想の存在に夢を馳せすぎると、婚期を逃すぞ? リアル体験済みだぞ?


「それがまさしくダンジョンなのだよ!」


 はい!?

 え、ダンジョンってあの? ママが最深部でエリクサー見つけてきたって、何本かじゃらっと持ってた、あの?


「世の中にはエルフのダンジョンと、ドワーフのダンジョンがある」


 まさかの二種類!


「エルフのダンジョンからは魔法薬が見つかる。というか、魔法薬が見つかるのがエルフのダンジョンと呼ばれる。逆に、武器や防具が見つかるのがドワーフのダンジョンと呼ばれているな。そのいずれも、初級、中級、上級に分かれ、上級になるほどに階層が増える。……まぁ、その辺はダンジョン学で学ぶことになるだろう」

「先生!」

 ぴんっと伸びた、ダグラスの手。


「なにかね、ダグラス君」

「エルフにはっ! エルフには会うことはできますかっ!?」


 教室中の視線がスチュアート先生に集中する。私もちょっぴり見つめてしまった。だってエルフだぞ。一度くらい見てみたいじゃないか!


「……残念ながら」

 すん、って静まる教室。まぁそうだろうな。


「エルフと出会った人間はいない。だがエルフのダンジョンからは、時折絵画も宝箱から見つかるのだよ。これは私のコレクションなのだが」

 スチュアート先生が、掌二枚分サイズの絵を掲げて見せた。


「うわぁぁ!」


 叫んだのはダグラスだが、声を出さないまでも、みんな熱心に絵を見ている。一枚目は微笑むエルフの横顔。金髪。可愛い。首までしか映ってないので、つるぺたすっとんかどうかは不明。


「ほら、こちらも」

 もう一枚、今度はもう少し正面よりの角度で、なにかを話しかけるようなエルフの絵。


「あとは……珍しいのでこういうのもあるな。まぁ外れもあるってことだ」


 そう言ってスチュアート先生が、これまでの絵とは違う雑さで掲げてくれた絵が。エルフの全身像。二人。泣き顔のエルフを慰めるような、それよりも年上のエルフ。なんで先生や周りの少年達が萌えないかというと、綺麗な顔立ちではあるのだが、今までのエルフと違い、男性に見えるからだろう。髪が短く、胸もない。顔の線も今までのよりもシャープで、肩幅もエルフなりに広い。


 かっと目を見開いた。これは……これはもしや!


「エル()……!」


「エルフはエルフでも、男性だろうな。時々こういう絵も出てくる」

 めっちゃ当たりじゃんよ! 先生節穴かよ!


 私には分かる。描いてきたからこそ分かる。あの、慰めている年上エルフの手つき。泣く少年の頬を包むあの掌のねちっこい描き方。私には分かる! これはエル腐ぱいせんの描いた作品なのだと!


「せ、先生……じゃ、じゃあ、もしかしてドワー()も……?」

「ドワーフのものもあるぞ。だが私は運が悪くてな。外れしか持っておらんのだ」


 そう言った先生がごそごそと取り出してきたものは。


 私の目は騙せない。これは……これこそが、まさしくドワー腐!


 エル腐ぱいせんの絵と違い、こっちはけっこうあからさまだ。ドワーフ少年たちが額こっつんこで微笑みあっている絵である。少年と分かるのは、やはり髪型だろうか。短い。もはや直視が難しいレベルでいかがわしい。こんな教室で大っぴらに見せられると、共感性羞恥が危険なレベル。こんな力作を晒されるドワー腐ぱいせんのお気持ちを推察すると、涙がちょちょぎれるレベルである。いわば幼なじみものBL漫画の表紙である。


「ドワーフってもっと髭もじゃなんだと思ってました」


「ふむ、まだ少年だからだろうな。小柄で筋骨逞しいのがドワーフの特徴と聞くが、この絵はまだ幼い子どものものだからだろう。まぁ、絵にするだけあって整っているのかもしれんが、できれば少女のものがよかったな」


 うるせぇ黙れロリコンが!


 あっ、ブーメランで黙れショタコンって声が聞こえてきた。やめて! 私ライフはもうゼロよ! イエスショタコンノータッチ!


 ……しかし……ダンジョンのこと、詳しくは知らなかったけど、夢しかないな!? もしかしてエロ度別にライトエル腐ダンジョン、ミドルエル腐ダンジョン、ディープエル腐ダンジョンとかあるんじゃなかろうか。


 前世、拙いながらも描きまくってきた腕が震える。もしかしてあたし、違う世界に理解者できちゃう流れなんじゃなかろうか。ほら、吹き出しは空白になるじゃん。魔王のせいで言葉通じないから。でも、吹き出し空欄の創作物作ったら、魂レベルで語り合えるんじゃね? エル腐ぱいせん、ドワー腐ぱいせんと魂の語り合いが、ダンジョンっていう特殊空間を通じて可能になるんじゃなかろうか!


「先生!」

「なんだね、リオン君」

「ダンジョンには何歳から入ることができますかっ?」


「おお、やる気だな。だがまだ早い。ちょっと練習試合で上級生に勝ったからって、今の君がダンジョンに入るなんて死にに行くようなものだ。初級ダンジョンでも三年生にならなければ入場は認められないし、中級ダンジョンに入るには、初級ダンジョンを踏破した実績が必要になる。上級ダンジョンなどは、中級ダンジョンの踏破歴が三つは必要になるのだからな」


「三年生……」


 十四歳になるまでお預けなんて……そんな……全年齢向け健全ライトエル腐もしくはドワー腐ダンジョンなんだから、十二歳からだっていいじゃん……十二歳とかでもよくない? なんで十四歳からなの? 十四歳まではノマカプで満足してろってこと? 腐士の精神年齢舐めんな? 精神年齢だけなら四十歳にはなっとるぞ。四十禁どんとこい。


 あ、でもライトエル腐ダンジョン踏破できたら、次はたぶん十六禁くらいのミドルエル腐ダンジョンになると思うんだよね。難易度によるんだろうけど、私ほど腐士レベルが高かったら、おそらくは十六歳になる前に踏破できちゃうと思うんだよ。そうなったら十八禁なディープエル腐ダンジョンまで秒読みカウントダウン始まっちゃうじゃん? だとしたら、R14って規定も、大人側の涙ぐましい妥協の産物かもしれん。


 精神年齢四十歳のわたくしことリオン君は、涙ぐましい大人の事情を察してしまい、しおしおと椅子に座った。


「……残念だったね、リオン君」

 隣のユージーンがこそっと囁いてくれる。


「ジーン……」

 なんて優しい子。


「十四歳になったら、僕も一緒に行くからね」

 きらきらっと光る、綺麗なユージーンの笑顔。

「うん……」


 嬉しい、けど……ディープエル腐ダンジョン、もしくはディープドワー腐ダンジョンはリオン君一人で行った方が、お互いの精神衛生のためにもいいと思うんだ……。


「ダンジョンの詳細については、ダンジョン学の講義がこれから始まるから、そこで学ぶように」

 スチュアート先生がもったいぶって話している。いつもより生徒達の集中が続いているので、機嫌がよさそうだ。


「だが初級ダンジョンでも、死人が出るほど危険だ。その代わり、得るものは大きいし、名誉もある。そうだな、初級ダンジョン踏破で子爵並の栄誉と言えるな。上級ダンジョンの踏破者など、それこそ炎熱の魔女といった二つ名持ちしか国内にはいないほどだ。どれほどの栄誉か、それによってどれほどの富が得られることか、想像に容易いだろう。諸君も、特に家を継がないような男子諸君、それに平民諸君には、挑戦しがいのある場所だと思うが、その分しっかり学ぶように。代償は己の命になるんだからな」


 ぐわっと上がった熱がちょっぴり下がり、でも全然下がりきっていない。やっぱり男子って、下克上好きよな。私はそんなものよりぱいせん方との交流なんだが。


 ……今から作品描きためとこうかな。そんで、ダンジョンの宝箱を開けた後にしまっとくんだ。きっとぱいせん方が拾ってくれるはず……。





 午前中の講義を終わり、食事のために隣の食堂に向かう。


 このタイミングから女子生徒たちと交流が始まるので、場が一気に華やかになる。今まであんまり考えたことなかったけど、女の子っていい匂いするよね。自分が女性ホルモンを分解してるせいか、そういうのに敏感になったような……前世からもそうだったような……ははは、どっちかな。


 とにかくいつもの、入り口近くの目立たない席で、ケイトとルーシーに合流する。


「ついにやったわ!」

 今日のケイトは機嫌がいい。ルーシーも満足そうな顔をしている。

「どうしたの、二人とも?」


 二人が来るのを待ってーーいるような男子生徒はここにはいない。なんせ成長期である。目の前のご馳走を、マテができるような年頃ではない。なので胸を張りつつ腰を下ろすケイトに、口の中を空にしてから問いかける。


「ついに私たちも派閥に参加できたのよっ!」

 ふふん、という顔をしながらも、食前のお祈りを手早くしてからメインのお肉を口に入れるケイト。好きなものから食べるタイプ。

 野菜を口に運ぶルーシーは、嫌いなものから食べるタイプ。

「そうか、よかった。ようやく安心して授業が受けられるね」


 そう言うと、ケイトとルーシーがフォークを置いた。二人して私を見てくる。ちなみに席は向かいだ。お前、女子と喋るの得意だろ、というジャックとジョンの意志による。二人は私たちの会話を参考に、この後の属性別授業に臨むらしい。ケイトとジャックが同じ火属性で、ルーシーとジョンが同じ地属性なのだが、個人的にはルーシーとカールの方が気が合っているように思う。っていうか、二人を混ぜると危険。なぜか腹黒方向に暴走を始める。単体ならおっとりしたのんびり屋さんなのに。


「ありがとう、リオン君。あなたが練習試合で勝ってくれたから、平民だってそんなに馬鹿にされなくなったのよ」

「しかもリオン君、腐属性でしょ? でも腐属性っていうイメージからリオン君、遠いもの。可愛いから」

「それは……ありがとう?」

 個人的には可愛いより格好いいと言ってほしい。


「とにかく、いいイメージになったのよ。あなたのおかげで、ついでに私たちも。だからナタリア様の派閥が入れてくれることになって」

「それは僕のおかげじゃなくって、二人が頑張ったからでしょ? やったじゃん」

 にやっと、あえてかっこよさを目指して笑って見せると、二人とも困ったように笑った。


「そういうとこ、リオン君って本当にたち悪い」

 にこやかーにルーシーさんが毒を吐いている。

「えっ」

「褒めてるのよ、ルーシーは」

「そ、そうなの……?」

「そうよ。下手したら泣きそうになるから、あんまり迂闊なこと言わないで」


 ぴしゃっとケイトに言われて、

「あの、いやだった?」

「いやじゃないわ。でも、今はいや」

「そ、そっか……ごめんね?」

「いいわ。許してあげる」


 つんと澄ました顔のケイトが、ルーシーと顔を見合わせて笑った。今度は楽しそうに。

 ……女子って難しいな……。己が女子であった頃を、胸に手を当てて思い出してみて……腐士だった頃の自分しか思い出せなかった。すまん。女子捨ててたわ。


「ほんっと、お前すげーわ」

「尊敬」

 ぼそっとジャックが左から、ジョンが右から静かーに囁いた。

「うん?」


 今のは皮肉……ではなさそうだ。斜め向こうのカールに目をやって問いかけようとして、その幸せそうに咀嚼を繰り返している姿を見て諦めた。駄目だ、今の会話はカールには届いてないわ。

 反対斜め向こうのユージーンは、私の視線ににこっと笑い返してくれた。浮かんでいた疑問が頭から蒸発する。


 推しが 今日も 尊い 。


 ユージーンが今日も笑顔なら、なんでもいっか。

 なんか女子の面倒そうな問題も片付いたっぽいし、よかったよかった!




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