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桜の夢路 〜守れなかった願いが導く異界譚〜  作者: 陰東 紅祢
第二章

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信じ難い真実

 その頃、ひな達を探していたヤタは、一番馴染み深い串焼き屋の前で、店主と直ぐ側で店を構えるジュース屋の店主を相手に情報を聞いていた。


「数日前は見ましたよ。マオさんについて歩いてた女の子ですよね? 何か、凄く元気がなくて思い詰めてるみたいでした」

「ああ、それは俺も気付いた。あの時はいつものお嬢さんじゃなかったな。笑顔も全然無くてさ」


 ジュース店の女性店主がそう話すのに対し、串焼き屋の店主も深く頷きながら同意する。


「何て言うか、無理やり置いていかれてる感じと言うか、孤立させられてるようにも見えたんですけど……」


 女性ならではの視点と言うのだろうか。ジュース屋の女店主は心配そうに呟く。


 ヤタはその話を聞き、マオがひなに対しあえてそんな態度を取っていたのかと不思議に思っていた。ひなの事を案じ、親身になって気にしているように見えたのだが……。


「他に、二人の事で何か知ってるか?」


 そう訪ねると、串焼き屋の店主が思い出したように口を開く。


「そういやあの日、火灯虫が奈落の上に集まってたな。珍しいのか、お嬢さんが奈落の傍まで歩いてく姿をうちの倅が見たって言ってた」

「……奈落?」

「ああ。お嬢さんが手摺の傍で見てる時、マオさんの様子がいつもと少し違って見えたとか何とか……」


 その話を聞き、ヤタはぴくりと反応を示す。

 マオとひなが奈落の傍で話をしていたと最初に聞いたのは麟からだった。その時は「奈落に近付かれると怖いから」とマオは止めに入っていたと言う。そして二回目の今回はマオの様子が違うと言うのは、何か引っかかりを覚えた。


「いつもと違うって、どう言う事だ?」


 ヤタが聞き返すと、串焼き屋の店主は困ったように後ろ頭を掻いた。


「いやぁ、詳しくは聞いてないけど、何か雰囲気がおかしかったと言ってたな」

「……あんたの息子、今日はどこに行ってるんだ?」


 ヤタの視線が鋭く光ると、串焼き屋の店主はビクッと身を震わせ首を横に振る。


「さ、さあ? 彼女とその辺ブラついてると思うけどな」

「そうか。分かった。ありがとう」


 ヤタはそう言うと店の前から離れた。

 奈落の近くまでやってくると、彼女と二人でベンチに座り楽しげに会話している串焼き屋の息子がいた。


「八咫烏さん! 今日も偵察ですか?」


 ヤタの姿を見つけた途端、彼は手を挙げて声をかけてくる。思いがけず相手の方から声をかけられ、ヤタは瞬間言葉に詰まった。だが、すぐに彼の傍に駆け寄ると彼の肩を掴む。


「マオを見てないか? あと、彼女に付いていただろう女の子も」


 いきなりな行動と発言に驚いた串焼き屋の息子は目を丸くした。


「え? あー、見たよ。少し前にあの辺りで」


 あの辺り、と指をさしたのはかつて雪那が滑落事故を起こした場所だった。その場所を見た瞬間ヤタの背筋にゾワリとした寒気が走る。


「……その後、二人はどうした?」

「僕も彼女のところへ向かう途中だったからそこまでは見てないよ。数日前に見た時は、何か異様な雰囲気を感じたけど」

「異様とは?」

「んー。何て言うのかな……何か、とにかく目つきがヤバかった。マオさんの」

「……」


 その話を聞いて黙り込んだヤタに、彼は不思議そうな顔で首を傾げた。


「八咫烏さん? 何かあったの?」

「……いや。悪いな。ありがとう」


 ヤタはそう言うと串焼き屋の息子と別れ、ひながいたであろう場所に立つ。そして自分の中の違和感について思考を巡らせた。

 マオがいつからひなに興味を寄せ始めたか。いつからひなと接触し始めたか。そして何より、ひなと麟が接触を断つ前の、視界の端に映ったマオに感じた笑みの違和感、そして街人達の話……。


「……そう言えば」


 ヤタはまだひなが幽世に来て間もない頃、初めてマオとひなが対面した時の事を思い出した。

 麟と話をしていた際に、チラリと見えたひなの何かを訴えるような眼差しを。ほんの一瞬、視線がかち合った時、彼女は何かを言いたそうにしていた。


 もし、あの時から、ひなは何かを感じていて話せなかったのだとしたら?


「……?」


 手摺に手を置いた瞬間、ヤタはふと地面に視線が行く。そこには他と違い、何かが滑って出来た跡があった。よく見れば、それは形的に草履を履いた人の足跡だ。一つはつま先から、そしてもう一つは踵から後ろ向きに滑ったような……。


「まさかっ!?」


 ヤタは目を見開き手摺を掴み、身を乗り出すように奈落の底に視線を向けた。ぽっかりと空いた暗い巨大な奈落からは、乾いた風が吹いて風笛が聞こえてくるのみ。


 ヤタはその風に吹かれながら険しい表情を浮かべていた。


 今にして思えば、自分が感じた僅かな違和感とマオの突然とも言えるひなへの干渉は異質だと言える。そして今、この場に残された痕跡を見て、肝が冷えるような最も最悪な可能性を否定出来なくなった。


「嘘だろ……」


 ヤタの顔に汗が滑り落ちる。

 ぐっと歯をかみ鳴らし、ヤタは急ぎこの場を立ち去り、麟の元へと向かう。

 もし思い至った可能性が正解だとしたら、頼みの綱はただ一人。


(不知火……ひなを守ってくれよ!)


 そう心の中で強く祈った。


 

 

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