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土くれのアァリ   作者: なす蔵
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16/18

収穫祭〜her best festival〜 中編

 帰路についていたアァリは夜の森をとぼとぼと歩いていた。

 今日はいろいろな事がありすぎてすでに脳は容量オーバーだ。早く家に帰って横になりたいが、その家への足取りが重い。


「きっと何か誤解してるんだろうけど……」


 アァリはミリアから聞いた『村とレムゥドの確執』を何度も思い出してはその真偽を疑った。いくら擦り合わせても一人で考えている以上、納得のいく真実には辿りつかない。なのに懲りずにまた反芻してしまう。


 村にはアメリアという少女がいた。

 アメリアの父親は村の出身だったが若い時に村を出て、他の町の女性と結婚した。そしてその女性との間に産まれたアメリアを連れ、ある時村に戻ってきた。

 その事が関係してかどうか、あまり村に馴染めていなかったアメリアを見かねたミリアが面倒を見ていたらしい。

 ある時期からアメリアはレムゥドの森に興味を持ち始め、そこに住むレムゥドにも関心を持つようになった。

 当時はレムゥドの実在自体が不明瞭で、レムゥドについて話すアメリアは『構ってほしいがために嘘をついている子ども』と思われ村人から疎まれていた。

 そしてある日、アメリアは姿を消し、後に森の中で見つかったアメリアは二度と目を覚ますことはなかった。

 アメリアが発見された現場は、人間技でなければ自然の仕業でもない凄惨かつ異常なものであり、理解に苦しんだ村人は一つの結論を出した。

『土くれの魔法使いは実在し、アメリアを殺した』

 その結論はその後、『余所者(アメリア)が土くれの魔法使い(不可侵の災厄)を呼び起こした』という風に形を変えて、最終的に不吉な存在(余所者)を近づけさせない排他主義の基盤になったという。


 話を聞いた限り、レムゥドが少女を殺したという証拠はなく、あくまで村人の憶測にすぎない。

 しかし実際アメリアは命を落としており、加害者がいないとしても、被害者がいる以上はただでは納まらない。やり場のない感情を納めるための犠牲が彼らには必要だった。


「レムゥドに直接訊くしかないか……」


 彼はすべてを知っているはずで、この混沌とした人間模様を紐解くには彼から真実を聞くのが一番だ。

 何度考えても結局はこの結論が最適解だと判明してしまう。正直、何度も再考してしまうのはアァリ自身が真実を知る事を避けているからとしか言いようがなく、うだうだと悩んでいる内に館へと着いてしまった。


『ただいまー……』


 中を窺いながらリビングに入ると当然のように彼はいた。


『おかえり。どうかした?』

『いえ? 別に……』


 自分でもわかるくらいのよそよそしさはすでにレムゥドに気づかれている。こうなると言い出さない方が不自然だった。

 

『あの! レムゥド! ——地震、大丈夫でした?』


 言い終わってから『チャンスだったのになぁ……』と心の中でぼやいた。少しすっきりしているのが腹立だしい。


『地震? ああ、こっちでも感じたよ。それより今日は作物の収穫だったんでしょ。どうだったの?』

『それよりって……』


 あれだけの規模の地震はそっちのけで気になるのは収穫の方というのは彼らしい。もっとも前日に大収穫について熱を上げて話していたアァリのせいな気もするが。

 訊かれたのなら答えなければならないが、前面に出てくるのは地震前後の記憶ばかりだった。


『楽しかったですよ。野菜もいっぱい採れましたしそれから、あとは……』


 当たり障りのないコメントをしてみるが後が続かない。このまましどろもどろしていると会話の主導権がレムゥドに渡ってしまう。レムゥドが次に話題にしそうな事はそれこそ『アァリが何故しどろもどろなのか』だろう。

 それだけは避けたいアァリは必死に断片的な記憶をかき集めて言葉を繋げた。


『そうだ、収穫が終わったら収穫祭があるって言いましたよね? あれにボクも出られそうなんですよ! あれ? もしかして収穫祭ってハロウィンの事なのかな? ちょうど時期も今頃だし』


 ふと村で収穫したかぼちゃが頭をよぎった。ハロウィンは今ではお化けなどに仮装してお菓子を貰うイベントとして認知されているが、本来は収穫祭のはずである。


『ハロウィン?』


 レムゥドは訝しげに聞き返した。


『知らないんですか? ハロウィン』

『聞いたこともない』


 レムゥドは本当に何も知らない様子だった。森の奥に引きこもっているので参加したことはないというのは予想していたが、聞いたことすらないというのは意外だった。


『……ちなみにクリスマスは?』

『それも知らないな』


 やっぱり、とアァリは頷いた。

 ハロウィンもクリスマスも元は宗教が絡んだ行事だ。昼間にロミルと話した時も驚いたがこの世界には宗教もその『根源たる存在』も無い。

 しかしこの世界には魔法使いや魔物がいるのでただ語られていないだけかもしれず、そもそもアァリのいた世界とは捉え方が異なっているという可能性も捨てきれない。

 アァリはしばらく迷った後、心の中でミリアに謝った。


『そのハロウィンなんですけど、レムゥドも一緒に行きませんか?』

『私も? 人間の集まりだよね?』


 レムゥドはわかりやすく苦った。

 だが彼が人に会いたくないのは過去に人に失望したからであり、決してあの村に対して後ろめたいことがあるからではない。そのはずだ。

 

『この前、レムゥドは森を修復してくれましたよね?

 あんな風にレムゥドの魔法は農業にも生かせると思うんです。直接植物を成長させなくても栄養たっぷりの土を作るとかで。ちょっと打算的かもしれないですけどギブアンドテイクの関係から始めるのもありですよ』


 考えてみてください、と下手に説得はせずに今日はそれだけに留めておく。

 収穫祭は明日だが、レムゥドと村の確執の不明瞭さ故にすぐに動くことはできない。そんな中では中途半端に揺さぶってみるのが精一杯だった。


 、、、


「あれ? おはようございます」

「おはよう」


 日付が変わり、村に向かっていたアァリが森を抜けると、森の出口には人影があった。近づいてみるとそれはロミルだった。


「ロミルさんと村の外で会うのは初めてですね。どうしたんですか?」

「ミリアに頼まれて迎えに来たんだよ」

「そうだったんですか。でも奇遇ですね。ボクがミリアさんと初めて会ったのもここなんですよ」

「へー……そうなんだ」


 ロミルがどこか上の空な理由は訊くまでもなく、覚悟をしながら村を訪れたアァリは息を呑んだ。

 村は昨日同様に騒がしい。しかしその騒々しさは賑やかとは真逆の類だった。

 収穫した作物や器具は地震で荒らされ、人々は眉間に皺を寄せながらその後始末に追われていた。

 被害の規模は数軒の建物が傾き、崩れたのが一軒。作業の為に留守にしていたのが幸いして、人的被害はなかったらしい。

 揺れに怯えて逃げ出した家畜もいるらしく、それも気掛かりだった。

 

「収穫はどうするんですか? この調子だと……」

「収穫はするよ。放置するわけにもいかないし。実際の所被害はそこまでじゃないから大丈夫。バタバタしてるのも昨日は最低限の確認で済ませて明るくなってから本格的に片付け始めたせいだから」

「本当の本当に、大丈夫なんですか?」


 アァリの執拗な質問にロミルは苦笑した。


「まあ正直厳しいよ。これから寒くなるっていうのにこんな有り様じゃあね。これくらいで済んでよかったって強がらないとやってられないよ」

「そう、ですよね。……あの、ボクは何をすればいいですか? なんでもします」

「ありがと。アァリは俺と収穫の方を進めるよ。あとミリアは他が忙しくて来れないんだ」

「わかりました」


 畑に着いたアァリは思わず「おぉ……」と唸った。

 綺麗に整えられていた畑には袈裟斬りのように一本の線が走っていた。地割れだ。

 アァリも実際に見るのは初めてで、目の当たりにすると戦慄した。なので、「すごいよねー。さっき見たらこうなってたんだ」と呑気に紹介しているロミルにも若干引いてしまう。

 ロミルは『これくらいで済んでよかった』と言っていたが、地震というものは大抵一度の揺れだけでは終わらない。今すぐに余震に襲われてもおかしくはないのだ。

 その事を知っていると悠長に野菜を採っている場合なのかと不安になるが、アァリは地震の専門家ではないので下手な助言をしていいものなのかわからない。


「こんな時に不謹慎ですけど収穫祭ってどうなるんですか?」

「うーん、この感じだと中止かな」

「中止……まあそうですよね……」


 いけないとわかっていたがアァリは肩を落とした。今日の収穫祭がミリアの計画の集大成となるはずだったのに、それがこんな形で頓挫するなんて。

 理不尽な妨害は運が悪かったと割り切った方がいいのだが、理性を制御できるほどアァリは大人ではなかった。


 表には出さないように、それでも憤りながら収穫を進めていると、ふと辺りが静かになった気がした。


「ロミルさん?」


 その瞬間、近くにいるはずのロミルを探そうとしたアァリの視界が一瞬で暗くなった。


「⁉︎」


 袋を被せられた。首から上だけではなく全身にすっぽりと。匂いと感触から麻袋のようなものか。

 反射的に袋を上げようとした所でアァリを覆った袋が急に迫ってくる。体に細い圧力がかかる。袋の上からロープか何かで縛ったのだろう。

 アァリの細い腕に食い込むロープの力はいたずらの範疇を超えていて、誰が何の意図でこんな事をしているのかを考えている内に、アァリの体が雑に持ち上がった。


(……運ばれてる? どこへ?)


 こういう事態では頭を使うより暴れたり喚いたりする方がお利口なのだと気づいたのは運搬が完了してからだった。

 不意に体が宙に投げ出された。上も下もわからない感覚にパニックになりかけるが、すぐに膝と額が地面とぶつかった。うずくまっていると巻きついていたロープが緩み、袋も強引に剥がされた。

 顔を上げて犯人を睨んだアァリはすぐに事態を理解した。

 場所は物置。その薄暗く狭い空間にはアァリとそれを囲むように数人の大人。その中には村のまとめ役(元凶)の姿があった。

 これはやはり恥を偲んで助けを求めるべきだった。この状況を喜べる人間など世界のどこにもいない。


「……何の真似ですか?」

「本当にわからないのか? 化け物め」

「化け物?」


 アァリが怪訝な顔をすると元凶のこめかみがピキッと動いた。


「しらばっくれるな! お前が土くれの魔法使いだということはとっくにわかってるんだ! 前から気味の悪いガキが入り込んでると思ってたがまさかあの土くれの魔法使いだったとはな。ダジが知らされてくれなければ危なかった」


 何故その話がこの男に伝わっているのか一瞬不思議だったがあの七光りの仕業か。ミリアの言っていた通り親子関係は良好なようだ。


「息子さんに何を吹き込まれたか知らないですけど、身内贔屓はあなたの立場的にどうなんですか?」


 次の瞬間、「黙れ!」という一喝と共に元凶の取り巻きがアァリを蹴飛ばした。土人形故に痛みはあまりないが、軽く小さな体は容易く吹っ飛ばされた。

 蹴飛ばした男は害虫でも見ているかのような目でアァリを睨んでいる。


「ダジから聞いたぞ! 問い詰められて分が悪くなったのを地面を揺らして誤魔化したんだってな! その場しのぎのために村を滅茶苦茶にしやがって!」


 なるほど、そういう事になっているのか。

 アァリは子どもを相手にしているとは思えない重みで踏みつけられながら苦笑した。

 地震の原理など人の知恵で解明できるものだというのに。

 真実の解明よりも未知の現象への不安を消し去ることを優先し、都合のいい理由付けをする。やっている事がアメリアの時から変わっていない。


「まあ待て。そいつとはまだ話がしたい」


 元凶がアァリを踏みつけていた男を制した。土人形はすでにゴミ捨て場が似合う汚れ具合になっていた。


「お前の目的はなんだ?」

「……子ども一人を大の大人が大勢でいじめて恥ずかしくないんですか」


 取り巻きが再び足を上げたのが見え、アァリは目を眇める。寸前で元凶が声を張り上げて暴行を止めた。どうやら味方の行動も含め、自分の思い通りに事が進まないと不機嫌になるタイプらしい。


「もう一度訊くぞ。お前の目的はなんだ?」

「言いませんよ。っていうか言えないんですよ。残念ながらボクは土くれの魔法使いじゃないので」

「なに?」

「だからボクは土くれの魔法使いじゃないんですよ。息子さんの言っていることは間違ってます。所々は実際に合ってますけどそれらが都合よく繋げられてるんです。まあどうせ普段から自分に都合のいいことしか言わないんでしょうけど」


 どうせ何を言っても非道い目に遭うことは変わらないのでアァリは開き直った。さっきまで理不尽な妨害に泣き寝入りするしかない状態だったので、虫の居所が悪いというのもある。

 元凶は意外にも否定はせずに重いため息をついた。息子の所業に思い当たる所があるのだろうか。


「まあいい、それでもやる事は変わらん。お前には魔法使いへの生け贄になってもらう」


 は? と声が漏れた。

 今この大人は真剣な顔で何を言った? 死語どころか現実の世界ではまず聞かないような単語が聞こえたような気がしたが。


「気味の悪いお前を排除するついでに魔法使いの機嫌も取れるなら一石二鳥だ」

「ちょ、ちょっと待ってください。本気で言ってるんですか? そんなことをしても土くれの魔法使いは喜びませんよ! 少し考えたら迷信だってわかるでしょ⁉︎」


 元凶は誇らしげに鼻で笑った。


「迷信なものか。実際化け物は大人しいぞ?」


 プツンっ、とアァリは自分の中で何かのスイッチが切れるのを聴いた。誰かに対して情が無くなるというのはこんな感じなのか。

 今なら平静を保ったまま人を殺せそうで、そんな自分が気持ち悪い。

 彼は、レムゥドは、こんな気持ちを何度も味わってきたのか。


「……初めてじゃないんですか、こんな馬鹿げた、馬鹿しかしないようなくだらない事をもう何度もやってるんですかあなた達は⁉︎」

「くだらないだと⁉︎」


 元凶もその周りも目を怒らせる。いかにも高そうな自尊心を傷つけた。それしかこのタイミングで沸点が上がる理由がアァリには思いつかない。


「村を守る為に必要なことなんだよ! 危ないモノとの関わりを避け、怪しいモノを遠ざけなければ平和な生活など送れない! ガキに何がわかる!」

「わかりますよ! 間違ってる! 間違ってるあなたが目指す平和なんて平和なはずがない! ボクを嫌ってるのだってただの偏見じゃないですか! 肌と髪が他と違うけど、けどそれだけで! それ以外ボクと人と何が違うっていうんですか⁉︎」


 やけくそだった。ブレーキの掛け方など知らないし、そもそもどこにあるのかもわからない。

 ミリアさんごめんなさい。今のボクはこの人達と仲良くなれそうにありません。ミリアさんはこの人達がとっくに人の道を外れていた事を知っていたんですか? 知ってたからなんとかしようと頑張ってたんですか? いえ、やっぱり知らないですよね。もし知っているなら悲しすぎますよ。

 地面の土を握りしめていたアァリは、ふとだらりと項垂れた。この大人達には心底愛想が尽きた。


「——もういいです。ボクを生け贄にできるものならやってみてください。ほんとに馬鹿馬鹿しい。そんなことをしても何にもならないのに。むしろレムゥドの逆鱗に触れてあなた達の想像通りの大惨事になる。昨日の地震よりも何倍も酷い状態になりますよ」


 脅迫のように彼の名前を出したが、絶対に彼にそんな真似はさせない。

 彼の姿が思い浮かぶと、こんな発言をしている自分が途端に恥ずかしくなった。

 顔を合わせづらい。でも会いたい。なんでこんな急に寂しくなっているのか。

 アァリの言葉など届くわけがなく、無慈悲にまとめ役の手が振り下ろされ、————始まった。

 地面に倒れているのに視界が揺れた。全身が無作為な衝撃に揺さぶられ、もはや何で殴られているのか判別はできない。

 殺すなよ。死体には興味がないかもしれん。

 ——よく言うよ。

 喧騒の中で聞こえたまとめ役の助言をアァリは嘲笑った。

 この激しさは土人形でなければとっくに意識を失っている。気絶と死亡の見分けが殴打と同時進行でできるというのか。

 ああそっか、慣れてるんだもんな、と結論付けた所で考える事が無くなった。

 痛みはあまり感じないし顔が地面に押しつけられるのも、耐えるのには慣れているからまだよかった。だけど大切な人に貰った服が汚い足で踏みつけられるのは正直辛い。

 いずれ終わる。それだけが希望で、そこに届くまで何も考えずに頑張る。なんて事はない。今まで通りだ。

 あれ? と思った。

 前までの絶望はどうやって終わったんだっけ?


「何やってるんですか?」


 不意に物置の中へ差し込んだ光にその場にいた全員が振り返る。


「ロミル……」


 真っ先に名前を呼んだのはロミルの父だった。

 ロミルは物置に集まっている面々を見て青ざめていた。村の中で強い権力を持っている上にミリアが目の敵にしているまとめ役とその取り巻きだからだ。

 ぎこちない笑みを浮かべてこの場をやり過ごそうとしているが嫌な沈黙は変わらない。そんな空気の中でロミルが身内に頼ろうとするのは当然だった。


「あっ、父さん。実はアァリのこと探してたんだけど見てない? それだけ聞いたらいなくなるから」

「……」


 この場から離れる手筈を整えたロミルは、あとは父の返答待つだけだったがその答えが返ってこない。何故か気まずそうにロミルと目を合わせるのを拒んでいる父にロミルは眉根を寄せた。


「——ロミルさん……」


 出ているのかどうかわからないか細い声で名前を呼ぶと、はっと目が合った。彼の怪訝な顔は一瞬で見たことのない形相に変わった。


「アァリ……? アァリ!」


 立ち尽くすだけの大人達をかき分けてロミルはアァリの下へ駆け寄った。


「くそっ、こんな……酷い」


 ロミルは振り向いて大人達を睨んだ。余所者ではなく身内に白い目を向けられると罪悪感を刺激されるのか、彼らはただただ後ろめたそうにしていた。

 何も答えないのなら用はないと言わんばかりに、ロミルは力強くアァリを抱き抱えて物置から離れた。


「……ロミルさん、あんな怖い顔できるんですね。ちょっとかっこよかったですよ」

「なに呑気なこと言ってんの⁉︎ すぐ手当てするからもう少し頑張って!」

「そうですね。ロミルさんのこと言えませんね」

「え⁉︎」

「止まってください。手当ては大丈夫ですから」


 アァリはロミルの腕の中で体を捻ってわざと重心をずらした。アァリを落としそうになったロミルの足が急ブレーキをかける。


「危ないじゃないか!」

「ごめんなさい。でも本当に大丈夫なんです。見てください、ほら」


 アァリは前髪をかき上げておでこを晒した。変色はしているものの、その傷口から血は一滴も出ていない。


「そんな、いや、でも……」

「昨日は嘘に乗っかってくれてありがとうございます。ボクは土くれの魔法使いではないんです。でも人でもないんです」


 地面に降ろしてもらい、アァリはふらつく体を強引に立たせた。痛くはなかったとはいえ、されるがままではなく少しは防御をした方がよかったか。


「すみません。やるべき事を見つけたので今日は帰ります。——ボク、あの人達と話すまで大切な事を忘れてました。自分の居場所は自分で作らなくちゃいけないんだって」


 今までミリアの計画に従順で、ロミルにはなんでもするからと気前よく約束したのは、そうすれば役割を——居場所を与えてもらえると甘えていたからだ。

 自分のやりたい事よりも他人にやっていいと言われた事の方を優先してきた。だがもうその論理ではアァリは納得ができない。

 和解の為には相手を信用する事が大切だと思い、向こうの態度を窺っていたが、それが如何に悠長で現実的ではない事にやっと気づいた。

 ここからは自分のわがままを優先する。


「収穫祭をやりましょう。地震はボクがなんとかしますから、ロミルさんはミリアさんをお願いします」

「俺が、ミリアを?」

「そうです。ミリアさんはたぶんアメリアのことで今も苦しんでます。ボクもミリアさんを助けたいんですけどボクのやり方は正しいものじゃないと思うんです。だからロミルさんはロミルさんのやり方でミリアさんを救ってあげてください」


 ロミルは胸を押さえた。

 前にアァリの偽物とやらが放った言葉がずっと楔のように胸に引っかかっていて、それが今疼いたような気がした。

 そして新たに打ち込まれた言葉が胸を焦がす。

 ——「自分の居場所は自分で」、か。


「アァリ、父さんのした事は謝っても許される事じゃないのはわかってる。けれど代わって謝るよ。ごめん。それでミリアの事は俺に任せて。でも決して父さんの償いとして引き受けるわけじゃないっていうのはわかってほしい」

「わかってますよ」


 アァリは傷口のことなど無視して笑い、ロミルも負けじと笑った。

 二人は目を合わせて頷き合うとそれぞれの大切な人の下へと歩き出した。


 、、、


 ロミルは額に汗を浮かべながら村の中を駆け回る。一刻も早くミリアに会いたいというのと、アァリがあんな仕打ちを受けている所を目撃してしまった衝撃がロミルを焦らせる。

 もしかすると現場に遭遇したロミルや、アァリと仲のいいミリアを口封じの為に、なんてことまであるのだろうか。あの集団に親が加わっていた以上ありえないとは思うが。

 ようやく発見したミリアは牧場にいた。周りには誰もいない。ちょうど一人になったのか始めから一人で動いていたのかはわからないが都合がいい。


「ミリア! 収穫祭のことなんだけど」

「あぁ、中止ですってね」


 静かに呟いた彼女の顔を見たロミルは不安に煽られた。


「ミリア、疲れてるなら休んだ方がいいよ……」


 ミリアの目の下にははっきりとクマができており、今朝見た時よりも濃くなっているように見える。

 それなのに彼女は一分の隙もないほど凛々しい顔つきをしていて、いつもなら頼もしいのだが、今は自身を省みない危うさしか感じない。


「こんな時に休んでなんかいられないでしょ。あんたも収穫はどうしたのよ? 終わったのなら他の手伝いに行きなさい」


 ロミルはぐっと拳を握った。少し前までの自分なら笑顔を浮かべながら二つ返事でこの場から立ち去っていたが今は違う。


「ミリア、俺はアァリのことで来たんだ」

「アァリ?」


 その名前に反応して、まどろみかけていたミリアの目に光が宿った。一気に剣呑な空気が辺りに蔓延する。

 ミリアは肩でため息をついた。


「収穫祭が無くなったから予定を変更しないといけないわね。でもまぁ、アァリが土くれの魔法使いだって話は思ったより広がってるからなんとかなりそうだわ」


 噂を広めたのはダジだ。元々口の軽い男だが今回はミリアの計画の妨害が目的だろう。

 

「なんとかってどうするの?」

「簡単よ。あとはアァリが無害だってみんなにわからせるだけ。アァリは私に逆らわないから」

「そんな……」


 そんな冷たい言葉があるのか。

 アァリがミリアに逆らわないのはミリアの事を信じているからなのに。ミリアはその気持ちを利用してアァリを人形のように操ろうとしている。

 

「……アァリのことを何だと思ってるの?」


 ロミルの猜疑心のこもった声にミリアが鋭い眼光を向ける。


「勘違いしないで。アァリのことはちゃんと尊重してる。その上で上手くやるつもりよ」

「アァリはさっきまで父さん達に捕まってた」


 ぴたりとミリアの動きが止まった。


「俺が見つけられたのは運が良かっただけで、そんな事になってるなんてまったく想像してなかった。もしあの時見逃していたら……」


 その先は口には出せなかった。あの暗い物置の中で何をされていたのかすら生々し過ぎて彼女には伝えられない。

 伝えられないが、今のミリアにあのアァリの姿を見せつけてやりたい衝動がロミルの奥底にはあった。

 だがそれでは駄目だ。それではアァリがロミルに彼女を託した意味がない。

 呆然と立ち尽くしていたミリアが搾り出したような声で尋ねる。


「——アァリは……?」

「今日はもう帰ったよ。やる事があるからって」

「……無事なのね?」

「一人で歩けるくらいの元気はあるよ」

「そう、じゃあ」


 彼女は今にも砕けそうな瞳をロミルへと向けた。


「問題はないわね」


 ロミルは顔を歪ませて歯を食いしばった。

 いつからだ。いつからミリアがこんな風になって、それを安穏なままだと見過ごしていた。

 いや、薄々勘づいてはいた。だからあの時にアァリを問い詰めた。しかし本当に問い詰めなくてはいけなかったのはアァリではなくミリアだった。

 大切な人を想う気持ちを尊重したがっていたくせに彼女の変化には気付かない。結局、臆病な自分を最優先に考えていた。

 そんな奴が側にいてやったところで彼女の心が安らぐはずがない。

 気づいた時にはロミルの腕の中にミリアが収まっていた。考えている余裕はなく、無我夢中だったがミリアへの僅かな恐怖心が自制を効かした。


「ごめん。本当は引っ叩くのが正解かもしれないけど俺には無理だからこうする。ミリアが悩んで、苦しんでる事に今まで気づかなくてごめん。でも俺もアァリも味方だから、ミリアは独りじゃないから」

 

 ロミルは絡めていた腕を解き、代わりにミリアの肩を掴んだ。不安定に揺れる瞳を正面から見つめる。


「だから時間をくれ。収穫祭は絶対にやるから」


 ミリアは顔を伏せた。決壊しそうな瞳が前髪の中に隠れる。——実際は「涙を隠している」というのはロミルの自信過剰だったようで、ミリアは笑いを堪えているだけだった。


「なによ『時間をくれ』って……ロミルのくせに」

「ごめん。お手本ちょうだい」


 要望通り、ロミルの顔から気持ちのいい音が響いた。


 、、、


『っ! あたっ!』


 地面から露出した木の根に足を引っ掛けたアァリは盛大に転がった。受け身を取れず、髪や服が土で汚れる。

 体の動きも反応も鈍い。やはりあれだけの暴行を受けて無事なわけがなかった。


(それとも——)


 とにかく時間がない。アァリは服に付いた土を払うのをやめて、再び森の中を走り出した。


 館には着いたものの、昨日同様にアァリは入るのを渋った。しかし今日抱えている問題は昨日のように誤魔化せるものではなく、アァリは諦めてそのまま中へと入った。


『戻りましたー……』


 苦笑いを浮かべて気まずそうにリビングの戸を開けると、弾けるような声でレムゥドに名前を呼ばれた。まぁそうなる、とアァリはその場にじっと固まる。

 素早い動きで寄ってきたレムゥドは膝を折ってアァリの体に手を添えた。その様子は怪我をした子どもに駆け寄る親のようだった。


『どうしたんだ? 早く戻ってきたと思ったらこんなに汚れて……』

『転んだだけって言ったら信じてくれます?』


 アァリは笑顔を作って見せる。レムゥドは呆然とそれを見つめていた。


『すみません。心配してくれてありがとうございます。でもこれくらいボクにとっては転んだのと同じ程度の事なんです』

『同じなんかじゃない。これも、これも、この傷も。転んだだけではこうはならない。誰かに殴られなければ』

『レムゥド』


 その先は言わせまいとアァリはレムゥドに抱きついた。『殴る』だなんて尖った言葉を彼に使ってほしくない。


『大丈夫ですから。むしろ彼らのおかげでなんか吹っ切れた気分なんですよ? それにボクらにはやる事があるんですからもう忘れてください』


 肌をくすぐる毛の感触も鼻腔を満たす彼のにおいも心地よい。あの暗い物置から帰ってこれた、という幸せだけで今は充分だった。


『あ、すみません汚いのに抱きついて。ちょっと体を洗って着替えてきますので待っててください』


 レムゥドの返事は待たずにアァリは浴室へと向かった。その間も彼は一言も話さず戸惑ったままだった。


 お待たせしました、とアァリはリビングの椅子に座った。汚れは落とし服も着替えたので身なりは綺麗になったが、その分傷が露わになり痛々しさはより鮮明になった。元々血色の悪い肌のため、ちょっとしたゾンビのようである。

 傷の痛みはまったくないが、変わり果てたアァリを悲痛の表情で見つめるレムゥドの視線が痛い。


『だから大丈夫ですって、ボクは自信作なんでしょ? 自分の作った土人形を信じてください』


 土人形じゃなければ死んでいた、というフォローは悪手だと思い、彼に言うのは取り止めた。

 これほど落ち着きのないレムゥドを見るのは初めてだった。腑に落ちないことは何もなく、アァリも逆の立場になれば同じように取り乱すだろう。

 気持ちがわかるからこそ、これからこの状態の彼を掻き乱さなくてはいけないのが辛い。

 意を決してアァリはレムゥドと向き合った。

 緊張のせいか自然とアァリの顔が険を帯びる。


『単刀直入に訊きます。レムゥドは人を殺したことがありますか?』

『私が人間を……?』


 レムゥドは見るからに困惑していた。何故アァリがそんな事を訊いてくるのかが不思議なようだった。


『無いよ。直接、殺意を持って、はね』

『それは……人の死に関わったことはあるということでいいんですね?』


 レムゥドはゆっくりと頷いた。


『わかりました。質問を変えます。アメリアという少女に心当たりはありますか?』

『アメ……リア……、わからないな。その子が一体なんなんだい?』

『実はあの村ではレムゥドがそのアメリアって子を殺した事になってるんです。レムゥドが「土くれの魔法使い」と呼ばれているのもそれが原因です』


 アァリはほっと息を吐いて相好を崩した。


『でもよかったです。レムゥドが関係なくて。やっぱり何か誤解されてるようですね』


 緊張が解けたアァリは行儀悪くテーブルに突っ伏した。上目遣いでふと見るとレムゥドは先程よりも怪訝な顔をしていた。


『レムゥド?』

『……心当たりがあるかもしれない。ついておいで』


 レムゥドが向かったのは書斎だった。圧迫感すらあるほどの量が並べられた本棚の中からレムゥドは迷わず一冊の日記を引き抜いた。本の位置的に最近の日記だった。

 レムゥドは日記をめくると、中に挟まっていた何枚かの紙を机の上に広げた。


『あっ、これ前に見たことあります』


 紙には子どもが描いたような虫や花の絵が描かれていて、書斎を整理していた時にアァリも見つけていたものだ。

 アァリはその中から毛むくじゃらの何かの絵を指さした。


『これレムゥドですよね?』

『……言われてみればそうかもしれない』

『きっとそうですよ。で、この絵が何なんですか?』

『これは人間の少女から貰ったものなんだ。もしかするとあの子がアメリアなのかもしれない』


 えっ、とアァリの表情が強張った。


『でも……さっきはアメリアの事を知らないって』

『名前は知らなかったんだ。人間の言葉はわからないから』


 当然といえば当然だった。人の言葉がわからないレムゥドに人名を尋ねても仕方がない。


『そ、それで? アメリアとは何をしたんですか? 殺してないですよね?』

『もちろん。彼女は以前からこの家の周りをうろついていたけど実際に会ったのは一度だけだ。夜に一人で訪ねてきたんだ。とても必死に何かを喋っていて、見過ごせなかったから誰でも使える簡単な魔法を一つあげたんだ。彼女のことはそれっきり見かけてない』

『魔法をあげた……? そんな事……』

『可能だよ。使い切りの魔法だけどね。魔法使いではない者にも魔法を扱えるようにする研究は昔から行われているから』

『いえ……そうじゃなくて』


 アァリは歯噛みした。一瞬、自分の中ですべてが繋がってしまったのが悔しい。


『……魔法が何かも知らない子どもに魔法を預けたんですか、あなたは……』

『うん。そうすればあの子の助けになると思って。実際喜んでくれたよ。あの時の笑顔が忘れられなくて、君を作る時にも参考にしたんだ』


 そうですか……とアァリは辛うじて相槌を打った。

 ならば、この体はなんと罪深い体だろうか。

 アメリアが死亡した原因にレムゥドが与えた魔法が関わっているのは間違いない。詳しい経緯はわからないが、おそらく使い方を誤ったのだろう。彼の魔法は間近で何度も見ているからわかるが、その威力は人の命を奪うなど容易い。

 レムゥドは嘘は言っていない。ただアメリアの力になろうとしただけであって、殺意も悪気も皆無だ。これは監督不行き届きで起きた事故に過ぎず、レムゥドは人殺しなどしていない。

 だが村の人間はそれで納得はしない。

 真実を求めるなどというのはただの建前で、本当は自らの感情のぶつけ先を探しているだけだ。

『レムゥドに悪気はなかった』などという戯言に用はない。土くれの魔法使いを糾弾さえ出来れば、それが最も溜飲の下がる結果になる。

 思い詰めた顔のアァリをレムゥドは心配そうに見つめていた。どうしてアァリがこんな深刻な表情をしているのかレムゥドはわかっていないのだ。

 もう小細工は無理だ。一か八か人を信用するしかない。ボクの信じた人達に賭けるしか。

 

『レムゥド。もう一度人を信じてみませんか?』


 彼の顔がみるみる戸惑いに染まっていくのが手に取るようにわかった。心苦しいがここが正念場だ。


『今日は中止になったんですけど収穫祭を明日やるんです。そこに』

『ひどい目に遭わされたのに人間を信じるの?』


 レムゥドの疑問は提案をしたアァリへ向けたものだった。アァリはさり気なく痣の目立つ腕を背後へと回す。

 

『レムゥドの気持ちはわかります。ボクもどっちかというと人は信用してません。ボクがいた世界は周りとうまく付き合っていかなきゃならなかったので無理にでも信じようとしてたんです。でも思うんです。信じられないからこそ信じなきゃって』


 きれいごとだな、とアァリは心の中で自嘲した。

 信じられないからこそ信じる。

 そんなの他人に絶望したことのない者の言い分だ。こんな体裁だけ整えた教訓なんてアァリも言いたくないし、レムゥドも言われたくないはずだ。

 だが今はレムゥドに言い聞かせるため、詐欺師のように耳障りのいい教訓をたれることに徹した。

 

『この一回を最後の一回にしましょう? 裏切られたり失望してもいいじゃないですか。ボクらはもう一人じゃないんです。ずっと、』


 流暢に綴られていた言葉が詰まる。月並みの常套句だが憧れていた分の重みがアァリにのしかかる。


『ずっと一緒なんですから』

『ずっと……』

『そう。ずーっと一緒ですよ。ずっとずっと……』


 やばい。アァリは両手で目を抑えた。


『アァリ?』

『……ちょっと待ってください。大丈夫ですから』


 熱を持った目がレムゥドには見えないように手で覆いながら、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。こちらを窺うレムゥドには朗らかな笑顔を見せて取り繕った。


『失礼しました。ずっと一緒ですから少しくらい人と仲良くしてもいいじゃないですか。アメリアのことも助けようとしたんでしょ? レムゥドのそういう所ボク好きですよ』

『なんだか、いつものアァリと違うね』


 ふらつく頭が覚めるような一言にアァリはぎくりとした。


『そうですか? 少し気持ちが昂ってるかもしれませんけど』

『ああ。ちょっと強引でわがままになったかな。そんなに私を人間と近づけさせたい?』


 まだ穏やかだが彼の諌めるような口調にアァリはたじろいだ。今までならこの手の空気を察知した瞬間に反射的に相手の機嫌をとりにいっていた。だが今はそんな保身に走っている場合ではない。


『はい。レムゥドには人と仲良くしてほしいです。それがボクにとっての理想なんです』

『悪いけれど今の私は君を傷つけた人間を憎んでいる。報復したっていいくらいだ』


 報復。そんな和解とは最も程遠い単語にアァリは駆り立てられるように声を荒げた。


『それは駄目です! そんな事をしたらもう終わりですよ! 人にはレムゥドの力が必要なんです! 魔法使いのレムゥドにしか出来ないことがあるんです!』

『私はアァリを傷つけられて、その上彼らを助けなくてはいけないのかい?』

『ボクのことは関係ないです! ……昨日の地震で村に被害が出たんです。あの地震は例の荒地と関係があるんですよね? ならレムゥドじゃないと解決できないじゃないですか。村の人達は地震が何なのかもその恐ろしさも知らない。何の対策も立てられないんですよ?』

『大地のエネルギーそのものに手を加えるなんておこがましい真似は私はしないよ』


 頭にカッと血が上るような感覚があった。

 こんな喧嘩なんかしたくないのに。でも彼の為にも自分の為にも言わなくてはならない。背反する感情がアァリの胸を灼いた。


『そんな事言ってる場合じゃない! 放っておけばまた必ず地震は来ます! そうしたら沢山の人が死ぬかもしれない! でもボクは傷だらけになっただけで死んではいない! どっちを優先すべきか何でわからないんですか⁉︎』

 

 その時だった。

 あ、と熱を持った頭が大きくぶれた。

 膝を着き、腕で支えたが耐えられない。混濁する意識の中でレムゥドが何かを言っていたがその内容は聞き取れなかった。

 頬がひやりとした床に触れる。もう指一本たりと動かせない。まだレムゥドと話さなくてはいけないのに、まったく抗えなかった。

 せめて『おやすみ』か『ごめんなさい』のどちらかは言わなければ、と悩んでいる内にアァリは泥のように眠りに落ちた。

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