第98話 間一髪
突如降って湧いたモンスター出現の知らせを受け、俺とケムシンは現場に急行していた。速度☆5を最大限発揮し、目撃されたという場所に一番乗りで到着。
そこは町から南西に1km程の場所にある農場だった。良く分からんが何か根菜を育てているっぽく、背の低い植物が等間隔に植えられていた。
見回すも動く影は無し。ゴブリンも人間も居ない。
ゴブリンは既に移動した後か、それとも何かの勘違いだったのか。
『ミョンチー様、人間以外の足跡があります』
マオの言葉と共に視界の一部が赤く強調表示された。近寄ってみると、たしかに変な足跡。一見小学生くらいの足跡に見えるが、裸足だし、爪の部分が妙に深く地面をえぐっている。
それが畑の中に結構な数残っていた。何なら通り道の根菜が何本か引き抜かれており、歯形が付いた状態で打ち捨てられていた。
「本当におったんやな、ゴブリン的な奴が」
「ああ。マオ、足跡を追えるか?」
『畑の外に出ると難しいです。足跡が残っているかどうか……。畑の足跡が出ていった方向に進んでみるのが良いかと』
「わかった。そうしよう」
こうして俺達の追跡が始まったのだった。
ゴブリンとは以前も戦ったことがある。嫉妬のダンジョンでステゴロ配信した時だ。あと怠惰のダンジョンでも。
強さとしてはスライムより多少強いなといったくらい。多分難易度2以下のダンジョンが適正帯だろう。
だが忘れてはいけない。ステータスが初期値の頃、俺はスライムにすら苦戦した。
つまり一般人レベルの身体能力では雑魚モンスターですら圧倒的格上。住民が襲われれば凄惨な結果となる事は簡単に想像出来てしまう。
目撃情報によれば、うろついていたゴブリンは5体。遠目で見かけてすぐ逃げたため、実際にはもっと居たかもしれないとの事だ。
果たして俺達が向かっている方にゴブリンは居るのか。
すぐにでも他の奴らも現場に着くはず。別の方角はそいつらが調べてくれる事を祈るしかないか。被害が出ないと良いんだが。
地面を蹴る足に無意識に力がこもる。俺達はゴブリンを探して走り続けた。
「きゃあああああっ!?」
悲鳴が聞こえたのは、向かう先に集落が見えてきた頃だった。
まずいな、もう襲われているのか!?
俺達は集落に駆け込んだ。急いで悲鳴の出どころを捜索。それはすぐに見つかった。
居た。
ゴブリンだ。1体だけ。すぐそばには尻もちをついた女性。周囲には洗濯物が散乱している。
他には住民は見当たらない。畑仕事にでも行ってるのか? 女性も怪我はまだ無さそうだ。
だが悠長な事は言ってられない。ゴブリンが舌なめずりしながら女性に歩みを進めている。鋭い爪が伸びた指を大きく開いて今にも襲い掛かる寸前だ。
「おい、クソゴブリン! 何やってやがる!」
俺は声を荒げた。こちらに気づき足を止めるゴブリン。今がチャンス。
マオ、魔力制御任せた!
『了解しました。タイミングは合わせます』
思いっきり踏み込む。魔力が足に集中しているのを感じた。いつもとは比べ物にならない程の力で地面を強く蹴る。
魔力制御による瞬発的な身体強化。スキルやステータスとは無関係の純粋な技術。マオのアシストありきで成立する新技である。
「迅脚!」
一気に加速。風圧で髪が後ろに引っ張られる。距離は無碍に帰した。
体当たりの要領。ゴブリンを女性から遠ざけ引きずり倒す。そのままマウントポジションに移行。
「マオ、解析頼む!」
『了解しました』
暴れるゴブリンの両腕を押さえ、胴体は馬乗りになる事で動きを封じた。身をくねらせギャギャーっと叫ぶ事しか出来ないゴブリン。
「ケムシンは他に居ないか確認してくれ! あと縄! こいつ縛ってクソ神父に引き渡すぞ!」
「了解や!」
結論から言おう。
住民に被害は出なかったし、ゴブリンは他に居なかった。そしてマオの解析ではゴブリンに異常は見つからなかった。
何かダンジョンを抜け出せそうなスキルを持っている訳でも無く、ステータスも行動パターンも変な所は無く、いたって普通のモンスターだった。
「何の異常も無いですな」
生きたままクソ神父に引き渡してみたが、クソ神父の診断も同じ。ゴブリンはそのまま殺処分されたのだった。
最初に目撃されたゴブリンは5体。そこから数時間が経ち、3体の討伐が報告された。
少なくとも残り2体。これから周辺一帯で大捜索が行われる予定だ。俺も参加する予定である。
「ミョンチーさん、お客さんが来てるっスよ」
チーム編成のために集合場所で待機していた俺をシリルさんが呼んだ。付いて行ってみると、そこに居たのはゴブリンに襲われていた女性。
「助けて下さってありがとうございました」
深く頭を下げる女性。わざわざお礼を言いに来てくれたらしい。
「い、いえそんな、人として当然の事をしただけです」
「それでも、私はあなたに救われました。来て下さらなかったら今頃どうなっていたか。本当にありがとうございます」
その言葉に、助けられて良かったと、俺はそう思ったのだった。




