第99話 更なる異変
目撃されたゴブリン5体の内、駆除出来たのは3体。俺達は残りの駆逐のためゴブリン狩りを行った。
方法は単純。手分けして周辺を探したのだ。目撃場所を出発点として各方向に捜索隊を出したのである。
また周辺の集落には数人ずつ護衛を配置した。ただ探せば良いと言う訳じゃ無いからな。人命最優先だ。
最近70人を超えたギルドメンバー総出での大規模プロジェクトだ。報酬は転生に関する全ての情報の開示である。
ゴブリン狩りは功を奏し、4体のゴブリンが発見され討伐された。
まさかの、まさかの追加ゴブリン。
プロジェクトがいつ終わるか分からなくなった瞬間だった。もしかしたらまだ他にもうろついているのかもしれないと思うと油断は出来ない状況である。
なぜダンジョンの外にゴブリンが居たのか。後どれだけ居るのか。ゴブリン以外のモンスターは居るのか。謎は尽きない。
謎と言えばもう1つある。そもそも一体どこのダンジョンから抜け出して来たのか。クソ神父もそこは気になったらしい。追加でこんな事を依頼してきた。
「目撃場所の周辺でゴブリンが出るダンジョンをリストアップしましたぞ。行って攻略していただきたい。ダンジョンが正しく機能しているかモニタリングしますゆえ」
攻略の結果は異常無し。それを教会で監視していたらしいクソ神父の診断結果も問題無し。俺もそのダンジョンの攻略に混じってたが、マオの解析能力でも変な所は見つからなかった。
『ですがダンジョンに問題が無いと確定した訳ではありません。今後も継続的なチェックは必要でしょう』
手掛かり無しかと思ってたらそんな事を言うマオ。
「そうなのか? なんでだ?」
『ダンジョンは1つ1つが独立したシステムとなっています。教会から指令があったとしても、ダンジョンに異常が起きていた場合、正しく従うとは限りません』
「……どういう事?」
システムとか言われても良く分からんぞ?
『例えるなら、教会は教師、ダンジョンは生徒です。給食費を盗んだ人は正直に手を上げなさいと教師が言ったとして、犯人の生徒が手を上げるとは限りません』
「ええ……、ダンジョンってそんな悪ガキみたいな感じなのか?」
『いえ、あくまで例えです。ダンジョンに意思がある訳ではありません。それに原則として教会の方が立場が上でダンジョンは指令に従うよう設計されています。ですがバグが起きたときはどうなるか分かりません。問題がダンジョン側にある可能性が消えないと言ったのはそのためです』
「それって仕組みとしてダメなんじゃないか? 今聞いた感じじゃ問題が起きても原因が分からないって事だろ?」
『はい。ですが問題が起きた時にダンジョン1つだけに影響が収まるというメリットもあります。リスクを分散して、どこかに問題が起きてもそれが全体にとって致命的にならないようにするという設計思想が感じ取れます』
設計思想ねえ……。
ダンジョンを作った奴って誰なんだろう。神か? 一体なんでこんなものがあるんだろうな。
謎は深まるばかりだった。
ゴブリン騒動が始まって7日目。新たな動きがあった。良くない方向で。
新たにモンスターの目撃情報が出たのである。ゴブリンの時とは全く別の場所で、今度はホーンラビットが現れたらしい。
額から角が生えているウサギである。こちらも低難易度のダンジョンに出るような奴らしい。
幸いにも住民と遭遇してすぐに逃げていったため被害は出ていない。
ゴブリンの時同様にウサギ狩りと護衛の配置を行ったが、こんなのが続くようではギルドとしても困る。騒動への対応にかかりきりになって、俺達の本来の活動であるダンジョン攻略が進まないのだ。
そこでホスディアからこんな指令が下った。
「このままではギルドから離反する者も出てきかねん。ミョンチーは新人達がどれくらい不満をため込んでいるか、それとなく探ってきて欲しい」
「おう、分かった」
ホスディアも守りの姿勢になってきた気がする。プロジェクトと攻略の両立のために色々と調整してくれているのだろう。俺達のトップがホスディアで良かったとしみじみ思う。
俺は新人の様子を調べるため動き始めたのだった。
俺が取った方法は単純。新人と一緒になる機会を作ったのである。集落の護衛は数人一組。それを新人と一緒になるようにしたのだ。
と言う訳で今から中二少女のジーナジョンさんとその仲間のヨイスさんと一緒に護衛だ。期間は12時間。夜が明けるまで。
「ふはははは! 民の安眠は我が守ってみせよう!」
チェーンソーを召喚する中二少女。
「ジーナ、近所迷惑になるよ。静かにね」
「心得た!」
態度のでかさはそのままに声だけ小さくするジーナジョンさん。器用だな。チェーンソーは咆哮を上げる事なく仕舞われた。
「モンスターが出ない限りは出来る事はほとんど無いんで、あまり気負わずに行きましょう」
俺は近くの段差に座った。それを見て2人も座れる場所を探して各々座る。俺達はそのまま雑談に入った。
「それにしても、今日は護衛に参加してくれてありがとうございます」
「うむ、ギルドの一員として当然の事なのだ。それに夜は暗いからダンジョンに行ってないし、全然困っておらぬぞ」
「夜は今までどうしてたんですか?」
「大体1人でぼーっとしてたのだ。この世界は星空が奇麗だから全然見飽ないのだ」
「え、ヨイスさんと一緒じゃないんですか?」
俺はヨイスさんの方を見た。てっきりいつも一緒かと思ってたが。
「盟友はよく集会場で他の新人と情報交換しているな。我にはちょっと、知らない人に声をかけるのは特技では無いから任せているのだ」
「まあ、その、いい感じのダンジョンとか無いかなーって聞いたりしてまして」
おお、真面目だ。俺はそういうのやってなかったから素直にスゲーって思う。
「我もマップから難易度の低いダンジョンを探したりしてはいるからな。け、決して他人に声をかけるのが苦手という訳では無いぞ。特技では無いだけだ」
「あっ……、そうなんですね」
良いんですか? 親近感、抱いても。
「むう、ミョンチー先輩は他人行儀過ぎる。先輩は先輩なのだからもっと堂々とするが良い」
「僕らの事は呼び捨てで良いですよ」
「え、じゃあ分かり……。分かった。これで良いか?」
「我の事はジーナと呼ぶが良い」
「お、おお。分かったよジーナ。ヨイスも」
なんだろう。打ち解けられた感じがして嬉しいぜ。
そんな感じで雑談は進んでいき、タイミングを見て俺は他の新人達の様子も聞いてみた。
「確かに、他の人と話してるとそういった愚痴は聞く事ありますね。新人の内はあまりギルドの恩恵は受けられないですし、護衛のモチベーションが低い人は居ると思います」
「そうかあ。この事件が後どれくらい続いたら不満が爆発しそうとかって、何か感触はないか?」
「うーん……、そこまでの心配は要らないと思いますよ? 早くダンジョンに行かないとって程の焦りが皆にある訳では無いですし、何なら息抜き位の感覚で護衛してる人も多いと思います」
そんな感じなのか。ちょっと安心。
「僕も最初の頃はすぐにでも転生したいって思いが強かったんですけど、戦い続けてると精神的な疲れの方が出てきて、休み休みでも良いかなって」
俺の時と同じだ。やっぱ皆そうなるよな。食欲・性欲・睡眠欲、色んな欲求が叶えられない状態でも、戦いばかりだと休憩したい気持ちが勝つのは一緒らしい。
自分の感覚が周りと同じだと分かると少しホッとするな。
「ところでミョンチー先輩よ、話は変わるが1つ聞いても良いだろうか」
「どうしたんだ?」
「ノーマルダンジョンは増えたり減ったりする事はあるのだろうか?」
「……? 無いと思うぞ。ボスダンジョンは転生者に合わせて増えたり消えたりするけど、ノーマルダンジョンが変わるってのは見たこと無いな」
「うーむ、ではこれは異変か? それとも我の勘違いだろうか?」
首をかしげマップとにらめっこするジーナ。
俺はまさかと思った。そんな質問をするって事は……
「目撃場所の近くにあったダンジョンが、マップから消えてる気がするのだ」




