第97話 異変
ギルドの運営は順調だった。幹部1人1人が役割をこなし、ホスディアがそんな幹部を率いてギルドのかじ取りをうまくやっていたからだと思う。転生者達からも、事前に予想していたほど大きな不満は出ていない。
新人のサポートとボスの討伐。俺は充実した日々を過ごしていた。
だが忘れてはいない。俺にはマオをダンジョンから逃がすという目標がある。
それを達成するまでは転生するつもりは無いし、出来ればケロンチョが活動を再開する時までには達成したい。奴のペナルティ解除まで残り5か月である。
問題は、ダンジョンを抜け出す方法について全く手掛かりが見つかっていない事。そもそもどうやって手掛かりを探せば良いのかも謎だ。
もっと積極的に、ダンジョンの祭壇をぶっ壊してみるくらいの選択肢を視野に入れてみても良いかもしれない。
そう思っていた矢先の事であった。
「神父様、一体どうなっているのですか!?」
「何とか、何とかして下さい」
「このままでは恐ろしくて出歩けません!」
教会が騒がしい。見れば町の住人が押しかけていた。クソ神父が人々に囲まれて揉まれている。
「お、落ち着いて下され。まずは状況を確認させて欲しいのですぞ」
「そんな悠長な! 今にも誰かが襲われるかもしれないんですよ!?」
なんだなんだ。俺は野次馬精神を発揮して近寄った。居合わせた他の転生者達も同様。人が人を呼ぶ状況によって人混みは大きくなっていった。
住民の1人が叫んだ。
「モンスターがダンジョンの外に出て来てるんですよ!? 早く何とかしてください!」
まさに寝耳に水。青天の霹靂だった。
その後住民が話したのはモンスターを見かけた経緯だった。話としては単純。町の外へ畑仕事に向かったら、ゴブリンがうろついていたと言うのだ。
「ま、まずはダンジョンのシステムチェック……えっとですな、つまり調査しますゆえ待ってて下され」
そう言って教会に引っ込もうとするクソ神父。
「モンスターは教会の中ではなく外にいるんですよ!? なぜ助けてくれないのですか!」
「い、いや、そういう訳では無くてですな」
リアルに炎上するクソ神父。ダンジョンの管理は教会の責任というのが町の人達の認識らしい。俺達も同じ認識だ。つまりクソ神父が悪い。
詰められて珍しくタジタジなクソ神父。だがまずいな。このまま問答しているだけだと何も解決しないぞ。
その時だった。
「話は聞かせてもらった!」
大きな声が響いた。一斉に声の方向を見る一同。声の主は我らがギルドマスター、ホスディアだった。力強い足取りでこちらに向かってくる。
「クソ神父よ、俺達が力を貸そう」
「ホスディア殿……。どうなさるお積りで?」
「モンスターの探索と討伐。これを転生者一丸となって行う。また周辺の集落など住民がいる場所には護衛を置く。モンスターから人民を守るための活動をギルドが担うから、そちらはその間に原因究明と再発防止に努めると良い」
「それは願ってもない申し出ですが……、一体何をお望みで?」
訝し気にそう返すクソ神父。何やら警戒している様子だ。弱っている所に付け込みに来たとか思ってそう。
そしてそれは正解だったらしい。ホスディアは、思いの他大きな対価を要求した。
「話が早くて助かる。こちらが望む報酬は、転生に関する全ての情報の開示だ」
クソ神父、めっちゃ苦々しい顔。今まで説明責任を放棄していたツケを払うのがそんなに嫌なのか。だが周りの住民がそれを許さない。
「神父様、彼らを派遣して下さるのですよね!?」
「説明くらい良いではないですか!」
「こちらは命の危険が危ないんですよ!?」
頭痛が痛そうな顔のクソ神父。少しの間眉間を押さえて悩んでいたが、最後はため息をつき、こう言ったのだった。
「止むを得ませんな。ホスディア殿、教会からギルドへ正式に依頼いたしますぞ。住民の安全を確保いただきたい。期限は……モンスターを全て討伐するまでですぞ」
「モンスターが何体居るかはまだ確定していない。全て討伐したという証明は簡単では無かろう。目撃されたモンスターを全て討伐し、追加の目撃情報が10日間無ければ全て討伐したと判断させろ」
「ぐぬぬ……、分かりましたぞ」
交渉成立。俺達はゴブリン狩りへと駆り出される事になったのだった。
「ケムシン、急いで一番乗りするぞ!」
クソ神父とのやり取りに居合わせた転生者には現場に急行する役割が振られた。可能ならゴブリンが移動する前に討伐。姿が見当たらなければ近隣の集落の護衛に移行だ。
目撃現場へと走る俺。すぐ後ろをケムシンが続く。
「せやな。今まさに誰かが襲われとるかもしれへん」
確かにそれも理由の1つだ。だが俺にはもう1つ、今回の騒動に積極的に首を突っ込むモチベーションがあった。
「それもあるけど、モンスターが討伐される前にマオの解析能力で色々調べたいんだ」
そうしたら何か分かるかもしれないからな。
「モンスターがダンジョンから出れたなら、マオだって出れるかもしれない」
突如降って湧いたマオ救出の手掛かり。もう二度とこんなチャンスは来ないかもしれない。
走りながら、俺は拳を握り締めていた。
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