第96話 幕間:バーバラの月明り道場
新人のサポートとボス攻略を兼任している俺は、ギルドの幹部として恥ずかしく無いくらいには忙しかったりする。
だがそれは昼間の話。夜は仲間と雑談でもしながら時間が過ぎるのを待つことが多い。他の転生者も大体そんな感じだ。
理由は単純。暗くてダンジョン攻略に行けないからである。ダンジョンのモンスターはボスも含めてどいつもこいつも夜目が効く。こちらだけが不利となり攻略が難しくなるのだ。
だがそれもギルドが結成される前の話。今、転生者の間ではあるブームが訪れていた。
今夜はほぼ満月で雲もない好条件。俺はケムシンと一緒にある場所へと向かった。そこは町から少し離れた空き地。多少音を立てても迷惑にならない場所だ。
金属を打ち合わせる音が聞こえる。もう始まってるみたいだな。
「「押忍、お願いします」」
決め事である参加時の挨拶。俺とケムシンは2人揃って頭を下げた。今日は20人くらいか。月が明るいからか、いつもより集まりが良い。
「おお、2人ともよく来たのじゃ」
出迎えてくれたのはバーバラさん。いや、ここではバーバラ師匠だ。月明り道場の師範代である。
「順番に見ていくから、それまでは見学するか待ってる者たちと適当に勝負でもしておるのじゃ」
「「押忍」」
俺達は見学を選択。転生者が1人ずつバーバラ師匠に挑む様子を見て、自分に取り入れられる部分はないかと頭をひねっていた。
「次!」
バーバラ師匠の呼び声。列の先頭の奴が腕を大きく回しながら前に出た。そして曲刀を召喚。
ルールは単純。ステータスは自由にセットしてよい。ステータスを強化するスキルも使ってよい。そして武器で戦う。
曲刀使いは縦横無尽に刃を振り回していたが、バーバラ師匠からダメ出しをされ続け、最後は防御の隙間を付かれ槍で貫かれた。
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ステータス
・高性能お婆ちゃん(ランク6)
筋力:☆☆☆
耐久:☆☆☆
速度:☆☆☆
魔力:☆☆☆
器用:☆☆☆☆☆
スキル
・慎重すぎる槍士(ランク3)
槍を最大10本まで召喚できる。
この槍に特殊効果はない。
・殴り弓兵(ランク3)
近接戦を行うほど遠距離攻撃の威力上昇。
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「次!」
お、次はシリルさんだ。木の棒を短剣に見立てて挑むらしい。クエストで手に入れた短剣を稽古でロストするのはもったいないからな。
シリルさんは速度を活かしてヒット&アウェイ戦法で戦っていた。積極的に死角に回り込み急所を狙いに行く。
「自分が仕掛ける側だという思い込みが隙を生んどるのじゃ。敵の攻撃を常に警戒せい」
シリルさんはいつの間にか眼前に置かれていた槍に全速力で突っ込み、そのまま死んでしまった。
「次!」
列は順調に進んでいく。無敗記録はまだまだ伸びそうだ。
そんなこんなで待つ事十数分。
「次!」
ついに俺の番が来た。訓練のためマオのアシストは無し。大斧を召喚し実力でバーバラ師匠と対峙する。
「――っ!」
これまで色々試してきたが、一度も勝てた事は無い。その経験のせいか、前に立っただけで自分が死地にいるように錯覚した。
目の前にいるのは小柄な幼女。ゆったりとした構えでどこにも力みが無い。自然体だ。俺の臨戦態勢がまるで無意味であるかのように感じる。どう動いても負けるという予感。
「感度が上がってきたようじゃの。その感覚をいつでも捉えられれば、相手の攻撃がいつどこに来るのか分かるようになるのじゃ」
微笑む師匠。腕を磨けば磨くほど遠くに感じる。俺はうすら寒さを覚えた。
「良い機会じゃ。これは感じ取れるかの?」
師匠の姿が陽炎のように揺らめいた。否、残像を残して移動した。ありえない。速すぎる。速度ステはこっちが凌駕しているんだぞ?
右わき腹にひんやりとした何かを感じた俺はとっさに斧で防御。そこに槍の穂先が迫っていた。
ガキンッ、という音とともに槍が弾かれた。
「良いぞ良いぞ。次はワシの動き出しも捉えてみい」
またしても高速ステップ。だが今度はかろうじて見えた。予備動作? 良く分からないが何かの溜めを感じた。
連続突き。俺は斧の側面を盾にしてそれを耐え凌ぐ。
「最近気づいたんじゃが、体の中の魔力は自由に動かせるのじゃ。地面を蹴る時は足に集めるといった具合に魔力を運用する事で身体能力を高める事が出来る」
なにそのファンタジー設定!
『ステータスにそのような機能はありません。システム外の純粋な技術と推測されます』
武術スゲー!
「ミョンチーも魔法は撃った事あるじゃろ? 残りの使用回数が何となく分かるじゃろう。あれが魔力の感覚じゃ。丹田に力を込めれば動きをコントロールできる。やってみい。今、ここで」
いや無理! 防御だけで精一杯! 頭回んねーって!
「戦闘中に意識が散漫するようでは本末転倒なのじゃ」
槍が俺の防御をすり抜けて腹に命中。ぐりぐりとねじる師匠。ひどい。
「ここが丹田じゃ。魔力の一番太い通り道になっとる。流し込んでやるからよく感じてみい」
ボンっ。
謎のエネルギーによって俺の腹が爆発。上半身と下半身が泣き別れた。
いや、えぐいって。
俺は教会で復活した。
稽古場所に復帰。俺以外の個人稽古もあらかた終わったようだ。全員戻って来るまでの間、俺はさっきの感覚を忘れないように頭の中で反すうしていた。
「全員揃ったようじゃの。では師範の下に行くのじゃ」
月明り道場ではいつも最後は別の場所に移動して稽古をする。バーバラさんはあくまで師範代。師範ではないのだ。
月明りの中30分程歩いた俺達は墓地に到着。お化けとか出そうな雰囲気だ。いや、実際出るんだけども。
「では最初はワシが挑戦するから、師範の動きをよく見て学ばせてもらうのじゃ。ワシが死んだら好きなメンバーで順に挑ませてもらえい」
「「「押忍!」」」
バーバラ師匠は1人で墓地に侵入。すると青白い炎が巻き起こり、その中から鎧武者が現れた。
ここは憤怒のダンジョン。バーバラさんが師範と仰ぐのは鎧武者。
「師範、今日もご指南のほど、よろしくお願いするのじゃ」
バーバラ師匠はその後30分に渡り鎧武者と交戦。槍を全て破壊された後は素手での抵抗を試み、やがて切り伏せられたのだった。
他の転生者? 5人がかりで10分も耐えれた試しが無い。
武の道は、どこまでも果てしなく続いていた。




