第83話 アドバイザーの正体
とある洞穴にて。
「おい、居るか? 結果を伝えに来たぞ」
入り口から中に呼びかける男がいた。それに住人が応える。
「ああ、来ましたか。どうぞ中へ。待ちくたびれましたよ」
椅子代わりの丸太を引き寄せて男に差し出す住人。笑みを張り付けた彼女はしかし、ギラギラとした目で客人と向かい合った。
「では結果を聞かせていただきましょうか。ホスディアさん」
訪ねてきた男はホスディアだった。
「その前に取引内容の確認だ。お前は隠しダンジョンの情報を提供する。俺は対価としてミョンチーとケムシンをギルドの立ち上げメンバーに引き入れる。そうだったな?」
「私との取引の事は秘密にする、というのもお忘れなく」
「ああ、分かっている。一度約束した以上、お前の方から裏切らない限りはこちらも契約は守る」
「という事は計画は順調と思っても?」
「ああ。2人はメンバーとなる事を合意した。隠しダンジョンも無事クリアした。ギルド構想は順調に進んでいる」
「それは何より」
静かに含み笑いをする洞穴の住人。そんな彼女をホスディアは油断ならない目で見ていた。
「今の内に言っておく。今回お前の要求を吞んだのは、それがミョンチー達にとっても有益だったからだ。危害を加えるような要求は今後も呑まない。あいつらからの信頼を裏切ってしまうからな」
「ええ、それで構いません。お互い win-win の関係を築いていきましょう」
「よく言う。お前は自分の利益の事しか考えていない。そうだろう、ケロンチョ」
ホスディアの鋭い視線が彼女を射抜く。
取引相手はケロンチョ。マオの生みの親にして宿敵である。そしてギルド立ち上げメンバーの最後の1人、アドバイザーの正体でもあった。
「全ての転生者を傘下に収める一大ギルドの設立。あなたと私の目的は一致しているはずですが」
「お前の目的はあくまで自分の転生だ。マオの味方をするであろうミョンチー達が邪魔なのだろう。さっさと居なくなって欲しいのに転生しずらい状態だから、俺に転生を手伝わせようとしている」
「良いじゃないですか。あなたが言った通り彼らの利益になってるんですから」
「俺やミョンチー達が転生した後は自分がギルドマスターとなるつもりだろう。ギルド設立直後はいざこざや反感も多いはずだ。それを俺達に押し付け、自分はアドバイザーとして安全圏から指示を出し、運営が安定した頃にギルドのトップの座に後から収まる。そして転生者を率いてマオを倒す。それがお前の計画だな?」
企みを全て言い当てられたケロンチョはバツが悪そうに横を向いた。
「だとしたら何ですか。転生者が転生を目指して何が悪いんです?」
「……それ自体は悪くない。だからこうしてお前との取引に応じている」
ホスディアはため息をついた。
人間性はともかく、ボスを倒すという彼女の目的は同じ転生者として間違っているとは言えない。
なによりホスディアが作ろうとしているギルドは、転生者達の転生を支援するためのものなのだ。
ケロンチョが明確に他者に危害を加えない限り、ホスディアはケロンチョと公平に接しなければならなかった。そしてケロンチョはアドバイザーとして本当に多くの知識を有している。能力に応じた重用は必然だった。
彼女の知識が無ければ、彼は隠しダンジョンの存在すら知らなかったのだから。
「まあ良い。とにかくこれで今回の契約は履行した。次の取引についてだが、こちらから望むものはある情報だ」
「良いですよ。私が知っていればの話ですが。何についてでしょうか」
「転生後も特定の相手と一緒に居られる方法に心当たりがあれば教えて欲しい」
「――!?」
ケロンチョは目を見開き、そして黙り込んだ。しばしの逡巡の後、彼女はこう答えた。
「では私は対価に、あなたとの関係の進展を望みます」
「どういう事だ?」
「私と恋人になって下さい。特典は私の全ての知識の共有です。もうこれ以上取引を行わなくて済むようになりますよ」
ホスディアは2度目のため息をついた。
「俺はホモではない」
「私は女です。確かに今はTSして男の体ですが、この世界では体の関係など成り立たないんですから問題無いでしょう?」
「履行出来無い契約は結ばん。俺にはもう心に決まった相手が居る」
一瞬の静寂。
「……ふふっ、冗談ですよ。それに私もあなたの問いへの答えを持ちません。契約は不成立ですね」
「そうか……。また聞きたい事があればここに来る」
「ええ、お待ちしてます。私も次の要求を考えておきますね」
彼らの交渉はひとまずの終わりを迎えた。だが今後もこの関係は続くだろう。
長年にわたり最大手のパーティーを率いてきたケロンチョ。その知識とノウハウは今後も必要となる。全ての冒険者をまとめ上げる必要があった。
でなければ、ホスディアのもう1つの目的は達成出来無い。
一度その懸念を抱いてしまったら、無視する事など到底出来なかった。
自分達はどんな世界に転生するのか、今のステータス・スキルは引き継がれるのか、赤ん坊スタートなのか、親は、身分は、そもそも本当に転生出来るのか。
そしてもし転生出来たとして、記憶や人格は引き継がれるのか。
ホスディアは以前クソ神父にそれを問い詰めたが、今は知らなくて良いの一点張りだった。
現状で察せられる事は1つだけ。クソ神父は、もしくはこの世界を作った神は、転生者がダンジョンに挑む事を望んでいる。
情報を吐き出させるためにホスディアが欲したのは、団体請求権。真相を確かめ、あわよくば良い条件で転生したい。
ホスディアにとっても、ギルド構想はどうしても進めたい計画なのである。
前途は多難だった。




