第82話 隠しダンジョンの報酬
「いっぱい泣いたのう。少しは落ち着いたかの?」
「ああ、もう大丈夫だ」
片桐は腫れた目元をぬぐいながら立ち上がった。自分を抱きしめていたヒサ江の着物が涙で濡れてしまっているのが見え申し訳無い気持ちになる。
「気にしなくて良いのじゃ、服なんて汚れてなんぼなのじゃ」
服への視線でそれを察しあっけらかんとそう言うヒサ江。その言葉に胸が暖かくなるのを感じると同時に、彼はどこか気恥ずかしくなり視線をそらした。
ソファーに座って仕切り直す2人。
「バーバラはこれからどうするつもりなんだ?」
「医者から余命を告げられててのう。自然死するまでのんびり余生を過ごすつもりじゃ」
「家族はいるのか?」
「夫は48の時に先立ったのじゃ。娘もおるが、もう何十年も連絡は取っとらん」
「……」
どう返せば良いか戸惑い口を閉じる片桐。
「まあ娘が出て行ったのはワシのせいなのじゃ。娘はアニメやオタク文化に偏見があってのう、ワシがグッズを買う度に喧嘩になったものじゃ。
決め手になったのは魔女っ娘ガーデンのプリティスたんの抱き枕を買った時で――」
さらっとそう言う彼女には後悔は無さそうであった。だが反省はしていたのかもしれない。一瞬目を伏せ、彼女は言葉を続けた。
「まあそういう訳で、せっかくの機会じゃから娘に電話してみようとは思っとる。前は気まずくて何も言わずに死んでしもうたからの」
「そうか……。話せると良いな。娘さんと」
「やるだけやってみるのじゃ」
ヒサ江の話は終わった。なら次は俺が話す番だなと、彼は口を開いた。
「会社の立て直しは諦める事にするよ。会社も俺も、自己破産で借金を清算して、その後は日雇い労働か何かで食いつなぎながら再起を図る」
執着が解けた彼には新しい選択肢が見えるようになっていた。その事を感じ取ったヒサ江は、優しげな目で頷いたのだった。
洞窟で待ち始めて数分後。まずバーバラさんが帰還した。だがホスディアが帰って来ない。待っている内に1時間以上経ってしまった。
「おいおい、いくらなんでも長すぎるだろ」
不安を抑えきれなくなってきた俺。
こっちで5分経つ間に、日本では2週間が過ぎていた。今向こうではどれだけの時間が経っているのだろうか。さすがに不安を通り越して焦りが出てきたぞ。
「クリア出来なくて教会に死に戻っとるんやろか?」
「社長なら、絶対大丈夫っス……」
ケムシンとシリルさんも心配そうだ。待つ事しか出来ないってのはもどかしいな。バーバラさんだけが何も言わず落ち着いた表情をしていた。
その時だった。地面に魔法陣が現れ発光。中からホスディアが現れた。無事な姿を見て思わず安堵する俺。
「社長おおおおっ、遅いっすよー!」
シリルさんがホスディアに抱き着いた。能力を発動しての最高速度でのそれはもはやタックル。ホスディアは踏ん張るもあえなく背中から地面に激突した。
「心配かけたな、シリル。もう大丈夫だ」
「まったく、シリルは心配性じゃのう」
倒れた2人にバーバラさんが手を差し出す。ホスディアはその手を取りシリルさんもろとも起き上がった。
「助かる。バーバラも心配かけたな。家族には会えたか?」
「うむ。和解して、最期は看取ってくれた。本物の娘ではなくとも、あの子が元気にやっとった事は分かったから満足じゃ」
慈愛に満ちた笑みを浮かべるバーバラさん。
「それと心配などしとらんかったよ。ホス坊はやれば出来る子だと知っておったのじゃ」
ホスディアの頭を撫でる幼女。のじゃロリな上にママでもあるのか。属性多いなおい。
「その、バーバラ……」
「なんじゃ?」
「ホス坊はもうやめてくれ。もう子ども扱いされる程若くは無いつもりだ」
「ふふっ、そのようじゃの。じゃあこれからはホスディアと呼ばせてもらうのじゃ」
「ああ、そうしてくれ」
「……? 向こうで何かあったんスか?」
「まあ、少しな」
こうして俺達5人は無事全員隠しダンジョンをクリアしたのだった。
さて、ついに待ちに待った報酬受け取りタイムだ。
このダンジョンの報酬はランク6のステータス。しかも☆の配分を自由に決められるらしい。ある意味スキルガチャより嬉しいぞ!
洞窟内を探索するとおなじみの祭壇を発見。それに触れると目の前に画面が現れた。
ステータスを設定してください。
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・ステータス名:[------------]
・パラメーター(☆:残り12)
筋力:☆
耐久:☆
速度:☆
魔力:☆
器用:☆
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おお、テンション上がるぜ。
たぶん一度設定したら二度と変えられないんじゃないだろうか。慎重に考える必要があるな。でもテンション上がっちゃうぜ。
考えるべきはどの戦闘スタイルにするかだろう。前衛特化、後衛特化、バランス型が考えられるが……。
俺が持つスキルの中で一番ランクが高いのは「多彩な奏者」(ランク5)だ。音系能力詰め合わせスキルである。
一方で俺が一番使っているのは「慈悲深い処刑人」(ランク4)だ。大斧を召喚するスキルである。首への威力が倍になる効果付きだ。
マオと念話するために「心のホットライン」(ランク1)は当然固定で使うとして、音魔法と斧とどっちを採用するべきか。
あれだよな。後衛より前衛の方が必要なパラメータ多いんだよな。
前衛なら筋力、耐久、速度、器用の4項目が重要になる。でも後衛なら魔力と器用と速度があれば十分だ。あとは耐久はあっても困らないくらい。
つまりだ。後衛として戦うならランク5でも十分な能力を確保出来るのである。
逆に前衛は必要な項目が多いので、ランク5では全てのパラメータを☆5で揃えられないという悩みがある。でもランク6なら――
決まりだな。俺は前衛特化型のステータスにするぜ。後衛として戦う時は別のステータスを使えば良いのだ。
画面をポチポチ。☆を振り終わると、これで確定しますか? と確認が出てきた。見直して間違いが無い事を確認してからOKを押す。
すると祭壇から光の玉が出てきて俺の胸に吸い込まれていった。無事ゲット出来たらしい。
さて、俺がゲットしたステータスはこれだ!
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・新生ミョンチー(ランク6)
筋力:☆☆☆☆☆
耐久:☆☆☆☆☆
速度:☆☆☆☆☆
魔力:☆
器用:☆
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……なんか、頭悪そうな配分だな。
いや、ちゃんと理にかなっているはずなんだ。斧も念話も魔力は使わないから☆1でいいし、マオのアシストがあれば器用も☆6くらいになる。だからこの2つは捨てて良し。
Q.E.D.大丈夫だ、問題ない。
自分のは決まったので仲間のも見せてもらおう。
「ケムシンはどんな感じにしたんだ?」
「これやで、じゃじゃーん!」
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・大リーグボールの使い手(ランク6)
筋力:☆☆☆
耐久:☆
速度:☆☆☆☆☆
魔力:☆☆☆☆☆
器用:☆☆☆
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ケムシンは無敵スキルがあるから耐久は捨てても良いという判断か。そんでもって後衛寄りのバランス型。最強の盾と最強の一撃を併せ持つバケモンみたいな性能だな。心強いぜ。
次はシリルさん。
「速度を☆5までしか上げれないのが残念っス」
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・仏恥義理(ランク6)
筋力:☆☆☆☆☆
耐久:☆
速度:☆☆☆☆☆
魔力:☆☆
器用:☆☆☆☆
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やはり速度は最大値。しかも当たらなければどうという事は無いというスタイルだ。さすが、極まってるな。
次はホスディア。
「重要なのは応用力と即応性、そして戦況をコントロールする力だ。戦場での俺の役目は砲撃やバフによる支援と地形操作による地の利の形成。さらに壁を生やす事によって味方の損害を――」
「お、おお。さすがホスディア、よく考えてるな」
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・初代ギルドマスター(ランク6)
筋力:☆
耐久:☆☆
速度:☆☆☆☆
魔力:☆☆☆☆☆
器用:☆☆☆☆☆
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見事に後衛特化だな。ホスディアは魔法の使い方が上手いから、安心して背中を任せられそうだ。
最後はバーバラさん。
「バランスを欠くと動きが悪くなるのじゃ。ワシはこれがええ」
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・高性能お婆ちゃん(ランク6)
筋力:☆☆☆
耐久:☆☆☆
速度:☆☆☆
魔力:☆☆☆
器用:☆☆☆☆☆
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バーバラさんはバランス型だな。技巧でステータス差をひっくり返すというプレイヤースキルが求められるスタイルだ。
鎧武者と一番斬り結んでいたのに最後まで無傷だったもんな。ひょっとしたらパーティーで一番強いのはこの人かもしれない。
と、言う訳で。
ステータスを獲得するという目的は無事完了した。普通に厄介なダンジョンだったな。時間の感覚めちゃくちゃだぞ。
「帰るか。町に」
「ああ、パーティーとしての活動は明日から再開にしよう。それくらいの休息は取っても罰は当たるまい」
「ホスディアとの愛の巣に帰るのじゃ! チュッチュするのじゃー!」
「いやそれはさすがに神罰食らうやろ」
「今日が私達最強チームの門出っス!」
こうして俺達は洞窟を後にしたのだった。




