第74話 ダメージレース
遂に鎧武者に攻撃が通った。シリルさんの短剣が脇腹に刺さったのである。
だがその代償としてシリルさんは足を斬られてしまった。とどめを刺そうとする鎧武者。
「レインボーエンチャント!」
「遍無偏流槍術、ただの投げ槍!」
その背中に槍が命中した。七色の爆発が鎧武者を包み込む。
近接戦を行う程に遠距離攻撃の威力が上がるというバーバラさんのスキルとホスディアの付与スキルの合わせ技である。
=======================
・殴り弓兵(ランク3)
近接戦を行うほど遠距離攻撃の威力上昇。
=======================
・虹の付与魔法使い(ランク5)
味方1体の武器に7属性を付与出来る。
付与される属性は毎回ランダム。
=======================
「唖唖唖唖唖唖唖!!」
煙の中から鎧武者が飛び出した。立派だった鎧はズタボロ。今度はバーバラさんの方へと向かっていく。
「しもうた。今のが最後の槍だったのじゃ!」
もう少しで太刀の間合い。鎧武者が大きく振りかぶったというまさにその時、
鎧武者の太ももに槍が突き立てられた。
「嘘じゃよ」
「唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖っ!」
叫ぶ鎧武者。嵌められた事への苛立ちか、それとも単に痛みに耐えかねたのか。
槍はまだ刺さったまま。鎧武者がバーバラさんへと太刀を振り下ろそうとする。
「レインボーエンチャント!」
刺さっている槍に属性が付与された。バーバラさんが捩じると爆発が起きて太ももがえぐれた。
ブワッ!
黒炎が大きく膨らんだ。頭上へ掲げた太刀を起点に、空中でその体積を増やしていく。ドームを壊した爆炎をまた放つつもりか。
肌がチリっと痛む。黒炎から発せられる熱波だけで火傷しそうな圧。それがみるみる強くなっていく。あんなのが放たれたら死体すら残さず消し飛ばされてしまうだろう。
「唖唖唖唖唖唖唖唖っ!」
咆哮。そして振り下ろし。地面を抉りながら迫って来るそれは、まさに炎の壁だった。
このままでは飲み込まれる。全滅という言葉が脳裏をよぎったその時、
「皆、俺の後ろへ隠れるんや!」
ケムシン、復帰。
直撃、そして爆発。周囲一帯を暴虐が支配する。まだ無事だった墓すら余波で吹き飛んだ。惨状で塗りつぶされる墓地。
だが、
「……言ったやろ? 体張ってでも止めるって」
ケムシンの後ろで、俺とホスディア、バーバラさんが無事それをやり過ごしていた。
「シリルはどうなった」
「遠くで転がってるのじゃ。まだ息はある」
「唖唖っ! 唖唖唖唖唖唖唖唖唖!?」
墓地の惨状を前に、鎧武者が苦しみだした。自分の行いの結果を否定するかのように首をブンブンと振っている。
「まずいな、思ったより傷が浅い」
その様子を見てホスディアがそう言った。
鎧はボロボロ。脇腹と太ももからは血が流れている。だがほっといたら死ぬ程には見えなかった。
「耐久が高い。バーバラ、槍はあと何本だ?」
「もう無くなってしもうた」
「すまへん、俺ももう限界や。血ぃ出すぎた」
タイムリミットは近づいていた。仲間もまともに戦える状態じゃない。
だからこそ。
「後は任せてくれ。すぐに決着を付ける」
「ああ、頼む……! お前だけが頼りだ」
まだ万全の俺が何とかするしかない。
「もう俺の魔力も少ない。これが最後の付与だ」
ホスディアが俺の斧に付与をかけた。視界の端にログが流れる。
========
水属性を付与!
聖属性を付与!
飯属性を付与!
影属性を付与!
土属性を付与!
鉄属性を付与!
酸属性を付与!
========
「ありがとう。心強いぜ」
斧を構え、俺は鎧武者へと駆けた。
マオから武術の解説を聞いていて、思った事がある。
今の俺でも1つか2つくらいの小技なら使えるんじゃないか。フェイントなんかは今までも何回か使った事があるくらいだ。
大事なのは、小さい手間で大きい効果を得るという事。
「唖唖唖唖唖唖唖唖っ!」
敵を見ろ。見破れ。
何を考えているのか、どうしようとしているのか見抜け。
どうすれば嵌める事が出来るか、どうするのが効果が高いのか見通せ。
そして気づいた。さっきから敵が一歩も動かない。今もただ立ってこちらを迎え撃とうとしているのみ。速さは向こうが圧倒的に上のはずなのに。
そうか、足が抉られて動けないんだ。
それなら!
俺は正面から突進した。走りながら振りかぶり、間合いに入ると同時にフルスイング――
と見せかけて急ブレーキ。
こちらだけが移動できるという事は、間合いに入るタイミングをこちらの好きに出来るという事。
タイミングを外されて敵の迎撃が空振りした。
武器を振りかぶっている俺と、もう一度振りかぶらないと攻撃できない鎧武者。構えの有利を取った。
満を持して間合いの中へと踏み込み狙いを定める。俺の視線の先にあるのは、抉れた足。
迎撃が間に合わないと思ったのだろう。鎧武者は防御を選択した。俺が狙っている足の前に太刀を滑り込ませ、斧を受け止めようとする。
鎧武者の首に、斧が直撃した。
俺が使ったフェイントの正体は、視線。一点を凝視しそこに攻撃すると思わせて、別の場所を狙うというもの。
「おりゃああああああっ!」
「唖唖ッ!? 唖唖唖唖唖唖亜唖!」
斧が七色に輝いた。その刃は敵の肉を裂きながら進み、そして完全に断ち切ったのだった。
「蠕。螻句ス「讒倥?∫筏縺苓ィウ縺斐*縺?∪縺帙s」
青白い炎に包まれながら鎧武者が消えていく。
俺達の、勝利だ。
だがまだ終わりじゃない。
「急げ! 急げ!」
「瓦礫が邪魔なのじゃ!」
「祭壇はあっちだ!」
ケムシンとシリルさんは失血死寸前。祭壇に触れないとステータスはもらえない。クリアした事にもならない。
「間に合ええええ!」
俺達は2人を担ぎ、墓と一緒に並んでいた祭壇へと滑り込んだのだった。
憤怒のダンジョン、初回で全員クリア。




