第73話 初ヒット
憤怒のダンジョンは強い敵1体を倒すだけというシンプルなダンジョンだ。
難易度5というスペックがその1体に集中しているのである。その強さはノーマルダンジョンの敵の中でも抜きん出ていて当然だ。
攻略情報を教えてくれたアドバイザーいわく、通常状態の鎧武者に有効打を当てる事は不可能らしい。どんな攻撃もその圧倒的な技術で防がれてしまうのだそうだ。
だがそれはアドバイザーが挑んだ時の話。不可能というのはあくまで主観だ。
俺達はまず、普通に戦ってみて自分達の実力が通用するか試してみたのである。これがプランA。
結果は先の通りだ。マジで攻撃が通らない。器用☆10というイカレたステータス値のせいで、何をやっても全て対処されてしまった。
=======================
・亡霊武者
筋力:☆☆☆
耐久:☆☆☆
速度:☆☆☆
魔力:☆☆☆
器用:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
=======================
ではプランBはというと。
「ミョンチー、墓を壊せ!」
「了解!」
指示を受け、俺は墓石を破壊した。このダンジョンにもギミックが無い訳では無い。それを今発動させたのである。
「雋エ讒倥≠縺ゑシ√??菴輔r縺吶k縺狗┌遉シ閠?シ」
俺の行動を見て叫ぶ鎧武者。よほど許せない行為だったらしい。他の奴らを無視して全力疾走してくる。
このダンジョンのギミックは単純。墓を壊す程に敵が狂暴化する。行動だけじゃない。ステータスもそれに応じて変化していくのだ。
具体的には、器用が下がってそれ以外が上がる。
敵が器用すぎて攻撃を当てられないなら器用値を下げれば良いじゃない、という訳だ。
俺の役割は墓を壊して回る事。しばらくは戦闘は不参加だ。戦うのは、俺の仲間達。
「行かせないっスよ!」
シリルさんが俺との間に入った。連撃、乱撃、斬撃の応酬が繰り広げられる。
「クレイホールド!」
ホスディアの魔法。地面から伸びた粘土が鎧武者の足に絡みついた。
「まだ8本予備が残っとるのじゃ!」
バーバラさんが新しい槍を召喚し突きを放った。
「ミョンチー、こっちは気にせんでええ! 体張ってでも止める!」
片腕となったケムシンの体が全身鎧に包まれた。歩く棺桶発動。失血死するまでケムシンはダメージ無効となった。
頼もし過ぎる。任せたぞ、皆。
「おらぁっ!」
フルスイングで盛大に破壊。斬り落とされた墓石が地面に落ちてバキーンと砕けた。
「縺翫?繧後∞縺」?」
おお、怒ってる怒ってる。
縦横無尽な斬撃が皆を襲った。本当に金属の塊かと思うレベルで太刀筋がグニャっと曲がったのである。
シリルさんは間合いの外へと退避し、ケムシンは全身で受け止め、バーバラさんは槍を斬られた。
5、6個壊しただけではまだ足りないらしい。もっと器用値を下げないと。
=======================
・亡霊武者
筋力:☆☆☆☆ (+1)
耐久:☆☆☆☆ (+1)
速度:☆☆☆☆ (+1)
魔力:☆☆☆☆ (+1)
器用:☆☆☆☆☆☆☆ (-3)
=======================
『私はこれまで武術というものを勘違いしていたようです』
墓を壊すかたわら、マオがそんな事を言い出した。
『私はこれまで、格闘戦とはいかに早く有効打を当てるかを競うものだと思っていました。そのために無駄を削ぎ落し、体を効率良く動かす事が重要だとばかり』
それが普通なんじゃないのか? 上手い戦い方ってそういうもんだろ。攻防一体の動きだとか、技が次の技に綺麗につながるとか。
『敵の動きは効率だけを突き詰めた動きとなっていません。自らのパフォーマンスを高める事とは異なる思想が見て取れます』
異なる思想?
『相手とのパフォーマンス差を最大としているのです』
……どういうこと?
『予備動作を隠して相手の反応を遅らせ、フェイントで間違った行動を選択させ、あえて効率を無視する事で読みを外しているのです。他にも様々な小細工が使われています』
なるほど、相手が実力を発揮しきれないようにしてるって事か。
『その上で自身は100%に近いパフォーマンスを発揮しています。1つの動きに複数の意味を持たせる事で数々の小細工の同時使用を実現しているのです』
そんな高度な事が行われていたのか。
『はい。敵も、バーバラ様も。とても面白いと思います』
マオのアシストがあれば俺でも出来るか? そうだったら加勢に戻っても良いかもしれないと思うけど。
『難しいでしょう。仮に私が武術を極めたとして、ミョンチー様の方がアシストに戸惑うと思われます。ミョンチー様からすれば意味不明な動きをさせられるわけですから』
確かに。マオのアシストはあくまで俺がやりたい動きの補助だもんな。俺が動きを分かってないと無理か。
『その通りです。ミョンチー様自身が武術の理解を深める必要があります』
なるほどな、今度バーバラさんに相談してみよう。
ま、今はこっちが先だけどな。
「斧スイング!」
ガッシャーン! もう何個目になるか分からない墓石破壊。もし罰当たりメーターなんて物が有れば針が振り切ってそうだ。
「縺斐m繧帙@繧帙〒繧??繧九?!」
=======================
・亡霊武者
筋力:☆☆☆☆☆ (+2)
耐久:☆☆☆☆☆ (+2)
速度:☆☆☆☆☆ (+2)
魔力:☆☆☆☆☆ (+2)
器用:☆☆☆☆ (-6)
=======================
鎧武者の全身から炎が吹き立った。怒りを象徴するかのような禍々しい黒炎。体に付着していたホスディアの粘土が塵へと還る。
近づいただけでダメージ。ケムシン以外が距離を取った。残ったケムシンは果敢に組みついて敵を止めようとする。
「ほわーっ!?」
ケムシンの体が宙を舞った。まさかの巴投げ。太刀が効かないと理解したのか!? まだあれだけの技が使えるってのか。
「クレイドーム!」
粘土のドームが鎧武者を覆った。だが黒炎を防ぎきれず隙間から噴き出している。
『いえ、わざと穴をあけて炎を逃がすことで崩壊を先延ばしにしています。上手いですね』
ドームが崩壊する前に更にドームを重ねていくホスディア。計5重。ナイス足止めだ。
だが結局の所まだ敵に1度もダメージを与えられていない。後どれだけ器用を下げたら防御が緩まるのか見当もつかない。
足止めが効いてる内に早くしないと。
「斧スイング!」
ドッ!
墓の破壊音が別の音でかき消された。炎の柱が飛び出しドームが破裂したのである。
鎧武者が中から現れ出た。全身の炎は消え、代わりに太刀から黒炎が噴出していた。もはやジェット。黒いのに眩しいという矛盾がそこに成り立っていた。
=======================
・亡霊武者
筋力:☆☆☆☆☆☆ (+3)
耐久:☆☆☆☆☆☆ (+3)
速度:☆☆☆☆☆☆ (+3)
魔力:☆☆☆☆☆☆ (+3)
器用:☆ (-9)
=======================
「唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖っ!!!」
このダンジョンのギミックには理不尽極まりない要素がある。器用値が下がる量よりも、他の項目が上がる量の方が大きいのだ。
巧みすぎた剣術の使い手は、暴力の化身へと変貌していた。
鎧武者の突撃。ヘイトの向き先は当然、俺だ。
「させないっス!」
割り込むシリルさん。ヘイトを奪った。
圧倒的ステータスに裏付けされた黒炎の太刀が彼女へ向かう。
「それでもまだっ! 私の方が早いっス!」
シリルさん、かろうじて回避。急加速し短剣を鎧の隙間へ。
ザンッ!
シリルさんの足が斬り飛ばされた。勢い余って地面を転がっていく。彼女の強みである速さが今、失われてしまった。
だがしかし、
短剣が隙間に刺さっていた。強引にそれを引き抜く鎧武者。血で傷口の周りが赤く染められていく。
俺達の攻撃が、ついに通るようになったのだ。




