第69話 ホスディアの野望
「隠しダンジョン?」
「ああ。うちのパーティーで挑もうと思っていてな。まだ人数制限に空きがあるから助っ人を探している所だ」
突然訪問してきたホスディア。前はソロだったのに、いつの間にかパーティを結成していたらしい。
後ろに2人控えている。ホスディア含めて3人のパーティのようだ。そのうちの1人に俺は見覚えがあった。
「先日ぶりっス!」
「シリルさん! ホスディアと組んでたんですね」
この前クエストで一緒にレンガを作った速度極振り少女だ。まさかもう再会するとは、世界は狭いな。俺達にとっては文字通りそうではあるが。
そしてもう1人は、
「初めましてじゃの。バーバラなのじゃ」
これまた少女、というより幼女に近いな。まさかののじゃロリである。
「ケムシンや。よろしくやで」
「あ、どうも、ミョンチーです。男です」
「うむ、よろしくのう。お主らの事はホス坊から聞いとるぞ。有望な2人組が居ると。ふむふむ……」
俺たちの事を隅々まで舐め回すように見るバーバラさん。なんだ? 俺たちの体に何か付いてるのか?
「ちなみにTSってどういう感覚なのじゃ? 感想を聞きたいのじゃ」
バーバラさんの頭にホスディアの手刀が直撃した。
「婆さん、セクハラだぞ。もっと遠慮しろ」
「むう、ホス坊はお堅いのう」
随分と、その、個性的だな。っていうか……
「婆さん?」
「享年90歳なのじゃ!」
無い胸を張るドヤ顔幼女。中身その歳でのこの言動に俺は少し戦慄を覚えたのだった。
閑話休題。
「話を戻すぞ。隠しダンジョンの報酬はステータスだ。しかもだ、ガチャで引くんじゃない。☆の配分を自由に決めるが出来る」
まじかよ。厳選しなくていいのはありがたいな。それもランク6をだ。
これを手に入れればボスへの挑戦もかなり楽になるに違いない。絶対に欲しい。
「ただし、だ」
ホスディアが声のトーンを下げた。
「攻略情報を教えるには条件がある。呑まないなら一緒に挑むという話も無しだ」
どうやらただでは教えてもらえないらしい。まあ俺達は便乗させてもらう側だしな。無理な要求じゃ無ければ出来る限り応えたい。ステータス欲しい。
「隠しダンジョンの情報はいずれ公開するつもりだが、そのタイミングは俺に決めさせてほしい。それまでは他言無用だ」
ふむふむ、それ位なら簡単だ。
「全然良いが、なんで秘密にするんだ?」
「うむ、それなんだがな。お前達は最近の転生者の状況を知っているか?」
「いや……、ほとんど関わって無いから」
何か問題でも起こってるのだろうか。
「先のイベントでスキルガチャを沢山引いただろう。それでボスの攻略が一気に盛んになってな。多くの転生者が転生していった」
ふむふむ。そうなるだろうな。
「先に転生していったのはパーティーのリーダーのように狙うボスを選べる立場の奴か、倒しやすいボスの奴だ。メンバーが減ったパーティは他と合併したりして、転生出来る奴らからどんどん転生していった」
ボス攻略組はパーティーメンバーが激しく変わるというのは以前も聞いたな。無事転生できる奴が増えるのは良い事に思えるが、それがどうしたんだろう。
「だがその結果、問題のある転生者ばかりが残った」
あー、言われて見れば、確かにそうなりそう。
「ボスが強すぎて倒せない奴、集団に入っていけない奴、既にボスが倒された奴。集会所は今そういう奴らの掃きだめと化している。
まともなパーティーもわずかに残ってはいるが、いかんせん人数が不足していてな。ボスを攻略できず足踏みしているのが現状だ」
うーわ、知らなかった。
ボスに挑むなら今の人数じゃさすがに無理だろうと思ってたし、ステータスが整ったらボス攻略組に混ざらないととは思ってた。でもまさかそんな事になってたとは。
「確認やけど、既に倒されたボスってのは、イベントで倒されたボスの事やんな?」
「ああ。同じボスからは1回しかガチャを引けないからな。他の転生者からすれば手伝う理由がない。ミョンチーもその1人だ」
そうなのである。この前のイベントでは複数のボスを倒したが、その中には俺のボスもいた。
イベントには多分ほどんどの転生者が参加してたから、俺のボス攻略を手伝ってくれる奴はかなり限られてくるのだ。
「俺達もボスを攻略したいんだがな。現状を打開するための方策は2つ考えられる。1つは残った転生者をまとめあげて全員で協力する方法。もう1つはイベント以降にこの世界に来た新人と協力する方法だ」
なるほど、順当だと思う。そうなると問題になるのは、どうやって協力するかだな。
「ギルドを作りたいと考えている。転生者全員で協力してボスを攻略するためのギルドだ。新人の育成も行う」
「今残ってる転生者で協力するのは難しいんじゃないか? 問題があるから協力出来ずにいるんだろ?」
「必要なのは強力なリーダーシップだ。それとギルドに従う理由。この2つがあれば付いてくる奴はいる。
ある程度規模が大きくなって実績も出てくれば、流されてギルドに加入する奴も出てくる。やがては全員加入するのが当然という状態に持っていきたい」
「その2つはどうやって用意するんだ?」
「リーダーは俺が勤める。拍付けは必要だがな。従う理由も拍付けと同じものを使う事が可能だ」
「というと?」
「そこでランク6のステータスだ。これによって権威付けをする。そしてギルドに加入すれば隠しダンジョンの攻略情報を得る事が出来ると宣伝する」
な、なるほど。だから隠しダンジョンの情報を秘密にしておきたいのか。予想以上に壮大な計画で驚いた。
「ホスディアがリーダーやる事にみんな賛同するやろか? 隠しダンジョン攻略したら、はいさよならってならへん?」
ケムシンからも質問が飛んできた。確かにそこは気になるな。
「そこは公約を掲げる必要があるだろうな。早い内にギルドに加入した者の転生を優先する。俺が転生するのはその後だ。ギルドに加入して順番待ちをしていれば確実に転生出来るという体制を作る」
「なるほどやで」
ホスディアは姿勢を正した。
「で、だ。ここまで計画を詳しく話したのには理由がある。どうだ、お前達もギルドの立ち上げメンバーにならないか?
実力はあるだろうし人間性も問題ない。他の転生者と関りが無いというのも余計なしがらみが無くて都合が良い」
ああ、それで俺達に声をかけたのか。本当に色々考えてるんだな。
「前途は多難だろうが、このまま何もしないよりは転生しやすくなるかもしれん。いや、そうしてみせる」
すごいな、と俺は思った。ホスディアは現状に甘んじるつもりがないんだ。人の上に立ったら責任も重大だろうに。
これはかなり魅力的な誘いだ。ギルドがあれば俺が抱えている問題を解決出来るかもしれない。
それにもし断っても、ホスディアなら他の転生者をメンバーにしてギルドを作り上げるだろう。こいつならきっとうまくやるに違いない。
後からギルドに加入するくらいなら今の内に加入しておいた方が良い。初期メンバーとなれば転生の優先度も高くなるだろう。
(マオ、俺は結構良い話だと思うんだが、どう思う?)
口に出さずにこっそり念話。他の意見も聞いてみたい。
『彼が言ったように前途多難でしょう。作ろうとしているのは結局の所、人の集団です。感情を優先する者が多ければ、理屈でメリットを説明しても聞き入れてもらえない可能性があります』
理屈が通用しない相手か。ついさっきレスバで痛い目を見たばかりのマオが言うと説得力があるな。
『ですが、そのプロジェクトを実行するのもまた人です。彼が最後までやり切ると信じられるのであれば、乗る価値はあると思います』
なるほど。
「ケムシン、俺は結構賛成派なんだけど、どう思う?」
「ありやと思う。もし失敗しても良い経験になると思うで」
「じゃあ決まりだな」
俺はホスディアに向かって手を差し出した。
「その話、俺たちにも協力させてくれ」
「うむ、歓迎するぞ。ミョンチー、ケムシン」
俺はホスディアと握手を交わしたのだった。




