第67話 レスバから修羅場へ
忘れてはいけない。俺達が今居るのは嫉妬のダンジョン。未だ攻略方法は謎に包まれている。ひとまず用意された設備で配信し成功を収めたが、そろそろ何か攻略の糸口をつかみたい。
俺がそう思い始めた頃、コメント欄についにあれが現れた。
配信で嫉妬と聞いて俺達が連想した存在。
アンチである。
@tirutiru :耳が幸せなんじゃー
@駆動新位置 :歌うっま!
@セガール武田:登録しました!!
@mimick0365 :男に媚び売ってるだけ。大したことない。
@かにまる :こんなの伝説じゃん
@neheroteria :最高!
次々流れる称賛コメントの中に、こちらを下げるようなコメントが一瞬見えた。少し嫌な気持ちになるな。
問題はここからだ。この先はノープラン。どうすれば良いんだ? どうなったらクリアなんだこれ?
そう思っていたら、
このコメントを皮切りに異変が始まった。アンチコメントの割合が少しずつ増え、徐々に目立ち始めたのだ。
@IamPen :っていうかさ、モンスター殴り殺すって野蛮だろ
@ゴルゴ31 :可哀そう
@妖怪ネコ吸い:バズりたいだけなのが透けて見える
@mirai_1995 :上手過ぎて怪しい。どうせ口パク。
な、なんだ? どうなってんだ?
異常だった。
数分前まで好意的なコメントばかりだったのに、いつの間にかアンチコメントばかりに変わっていた。擁護コメントが流れる気配すら無い。いいねと登録者数は気づけば0となっていた。
『ダンジョンのギミックがフェーズ2に移行したと見て良いでしょう。ポジティブなコメントが完全に無くなりました。我々が集めた1万の視聴者が全てアンチへ変貌したと考えられます』
嫌なダンジョンだなおい!
@おいなりマン:学歴しょーも無いんだろうな
@Mr.Ynyn :俺らの事ナメ過ぎ。
@うん○こ :SNSで男叩きしてそう
@defenderXX :自分が可愛いって勘違いしちゃったんだろうな
@プロニート :盛り上がってまいりました!
@レヴィアタン:死ねよマジで
@ひろあき33歳:デジタルタトゥー出来ちゃったねえw
とうとうコメントは配信の内容と無関係な誹謗中傷へと突入した。収拾つかねー。
大炎上とはまさにこの事だろう。流れるコメント全て悪口。それがすさまじい勢いで流れていく。まるで悪意の滝だ。
だがこれによって、マオがついに攻略の糸口をつかんだ。
『ミョンチー様、怪しいコメントを発見しました。これです』
マオが俺の視界に文字を表示した。
@レヴィアタン:死ねよマジで
ストレートに暴言だ。現実のコメント欄だったら規制されて書き込めないだろう。でも怪しいって程じゃ無くないか?
『いえ、怪しいのはコメントではなくユーザー名です。レヴィアタンは嫉妬を司る悪魔。もしこのダンジョンに倒すべき敵が居るとすれば、いかにもな存在です』
へえ、知らなかった。確かに怪しいな。でもどうやって倒すんだ?
コンコン。
音がした。そちらを見ると、ケムシンがカメラと別の手でフリップを掲げている。そこにはこう書いてあった。
“論破したれ!”
3つ目の企画がレスバに決定した瞬間だった。
それから10分ほどが経過した。喋りすぎて舌がつりそうになるのを耐えながら、マオが用意したセリフを読み上げていく俺。
俺知ってるぞ。政治家の答弁って全部こんな感じなんだよな(偏見)。
今の状況を端的に言うと、不毛。その一言に尽きる。
弁論には自信があると言って意気揚々とレスバに挑んだマオ。事実を根拠にして相手の難癖を否定し、理路整然と話を進めて自身の正当性を主張するというその進め方は、さすが頭の良さを感じられた。
だが残念な事に、これは議論ではなくレスバだった。アンチにとっては自身の感情こそが正義であり全て。理屈が通用する相手ではなかった。そもそもの土俵が違う。
@レヴィアタン:なんでボクシングの階級が細かく別れてると思ってるんだよ。お前の体格でオークに勝てる訳ないじゃん。漫画の見過ぎ。お前がオークに勝ったのはただのやらせ。違うなら証拠出してみろよ。
「こっちに潔白を証明しないといけないなんて義務は無いぞ。やらせって言い出したのはお前だろ。証拠を出せって言うならお前こそやらせだって証拠を出したらどうだ」
@レヴィアタン:は? さっき説明しただろ。たかが数行のコメントすら読めないのな。頭悪すぎ。
「あれのどこが証拠なんだよ。はずだとか出来る訳無いだとか、単なる決めつけじゃねーか。客観性が皆無だろ。証拠の意味を辞書で調べたらどうだ」
@レヴィアタン:説明能力が無いくせに配信者やろうと思うのがすでに馬鹿丸出し。何も考えずに安易にやらせに手を出したんだろうなって簡単に想像がつくぞ。
『何なのですか、この低スペックNPCは! 会話が成り立ちません!』
荒ぶるマオ。賢者チートも形無しだ。どんなに頭が良くてもレスバの土俵に立った時点で負けなんだなと思ってしまった。
コンコン。ケムシンから合図があった。フリップに書かれているのは、ケムシンが提案するセリフ。
あー、ついにそれ言っちゃうのか、というのが俺の感想。現実で使ったら負けだというのが俺の考えだが、ここはダンジョン。不要なこだわりなのかもしれない。
『これを言うのですか……? ただの決めつけではないですか』
マオの戸惑いも分かる。その感性は間違ってない。が、試してみる価値はあると思う。
なにより、この不毛なレスバを終わらせて最終決戦に進める可能性があるのが良いと思った。
ふうっ、集中だ俺。今から求められるのは煽り力。相手の血管を破裂させるつもりで言う必要がある。ウザさMAX、心底相手を馬鹿にしてますという態度で言い放て。
そうして俺はマオに変わり、レヴィアタンへの口撃を再開した。
某ネット掲示板では禁止カード扱いされることもあるレスバの定型文を口にする。
「っていうかさっきからさぁ、長文ばっかだよな。めっちゃ早口で言ってそう」
@レヴィアタン:お前も人の事言えないだろ
「露骨に文字数減ってるじゃん。効いてて草」
@レヴィアタン:は? 効いてないし。妄想乙。とうとう現実と妄想の区別も付かなくなったのか? 寝言は寝て言えよカス。
「顔真っ赤にしてコメント打ってそう」
@レヴィアタン:顔真っ赤じゃないでーす。決めつけはやめてくださーいw
「でも事実じゃん」
@レヴィアタン:事実じゃねーよ! さっきあkらうぜーんだよお前!
「言い当てられたのに動揺して入力ミスってるじゃん。違うってんならここまで来て証明してみろよ。あ、無理か。だって画面の向こうからじゃないとイキれないもんな。お前」
カメラに向かって渾身の冷笑。論破してやったぜ的な表情をしてみる。なってるかな? なってるかも。多分。
その時だった。急にステージに魔法陣が浮かんだ。スライムとかを召喚した時と同じだ。そこから飛び出してきたのは1体の悪魔。
「さっきからうぜえんだよお前ぇ!」
うわ出た。これに勝ったらクリアと思ってよさそうだな。多分決戦だ。
「ケムシン、カメラはもういいから剣、剣構えろ」
「了解やで!」
『スペックの差を思い知らせてやります!』
こうして嫉妬のダンジョンの攻略は、ついに最終局面を迎えたのだった。




