第65話 配信デビュー!
難易度5のダンジョンの1つ、嫉妬のダンジョンへと突入した俺達。とりあえずビルの中を探索していく。
1階はもぬけの殻。事務所っぽい部屋に机と椅子だけが並べてあった。書類やパソコン、ペンといった仕事を思わせる物はおろか、謎解きで使うアイテムみたいな物とかも無かった。殺風景という言葉がよく似合う。
「じゃあ次は2階調べてみるか」
「了解やで」
『階段は通路の奥です』
階段を上がると扉があった。マオの話によると2階は大部屋となっているらしい。敵が出てきても十分に暴れられるだろう。剣を手にしたケムシンが警戒しながら扉を開く。
「これは……」
そこにあったのはステージだった。設置されたカメラが照明で照らされたステージへと向けられている。ステージの背は大型のスクリーンとなっており、カメラの映像が大きく映っていた。
「テレビスタジオやん」
『そのようですね』
「どんなダンジョンだよ」
頭脳担当のマオが居るため変則的なダンジョンはうちのパーティーの得意分野だったりするが、個人的には苦手意識がある。シンプルにモンスターとやり合う方がシンプルで好きだ(脳筋)。
このダンジョンは難易度5。どれだけ複雑怪奇なギミックがあってもおかしくない。ある意味モンスターより手ごわいな。
『ミョンチー様、ケムシン様、スクリーンを見てください!』
マオが声を上げる。見てみると、ステージ映像に重なるように文字が流れていた。
@かにまる :なんか音聞こえたー。誰か居るの?
「これは……、コメント?」
「配信しとるんかこれ」
『スクリーンの下の方にも文字が表示されています』
「あ、ほんとだ」
書いてあるのは以下の通り。
視聴者:9、いいね:0、登録者:0
ザ、配信って感じだな。
『恐らくそういうシチュエーションをテーマとしたダンジョンなのでしょう。このダンジョンの名称を思い返してください』
そう言えばそうだった。マップによるとこのダンジョンの名は嫉妬のダンジョン。今までのダンジョン同様に名は体を表すはずだ。
配信と嫉妬、色々と想像が膨らむ組み合わせだ。
『ひとまずは配信に映って視聴者を呼び込む事を提案します。視聴者数や登録者数が増えれば何かギミックが発動するかもしれません』
「人気配信者になれば嫉妬する奴も出てくるかもしれへんな」
「とりあえずやってみるか」
こうして俺達の配信活動が幕を開けたのだった。
という訳で、本格的に配信するためにまずは準備だ。スタジオの中を物色して以下の事が分かったぞ。
・カメラは持ち運び出来る
・マイクは手持ち式と服に付けるタイプが使える
・照明と音響はステージ外のパネルから操作できる
使えそうな小道具も色々あった。でっかいサイコロ、おもちゃの剣、バランスボール、風船などなど。
その中に1つ、怪しいリモコンがあった。大きいボタンが1つだけ付いているという単純なものだ。そのボタンに書かれているのは、
「モンスター召喚、かあ。どう思う?」
「戦う様子を配信出来そうやな」
『視聴者層が不明ですので色々なジャンルを試せるのは喜ばしいですね』
視聴者層か……。っていうかスクリーンに表示されている視聴者9というのはどこの誰なんだろう。この世界にはテレビもインターネットも無いと思うんだが。
「なあマオ、視聴者の正体って何だと思う?」
『おそらくダンジョンのギミックの一部でしょう。配信の映像や音声を基にコメントを自動生成し、視聴者が居るように見せかけているのだと考えられます』
以前別のダンジョンに居たNPCもプログラムに従って動くだけの人形だったからな。このダンジョンでもその可能性は高いという事か。
よし、視聴者はNPCという事にしておこう。そうでないと配信を見られて恥ずかしいという問題にぶち当たる。俺にとっては死活問題だ。
となると残る問題は1つ。
『問題はどうやって視聴者を増やすかですが……』
「企画を考えへんとな」
日本には配信者が多く居たが、人気になるのはごく一部だけだと聞いた事がある。ほとんどの配信者は見てもらう事すら出来ずに埋もれていくのだそうだ。
そうならないためには武器が要る。ルックスとか、トーク力とか、ゲームの上手さとか。
俺はあまり配信に詳しいわけではないが、こういうのはやはりインパクトが重要なんじゃないかと思う。一目で興味を引ける何か。
あるアイデアが、俺の中に浮かんだ。
「それなんだけどさ、こういうのはどうだ?」
「初めまして、新人配信者のミョンチーです。今日は俺の配信見に来てくれてありがとな」
数分後。俺はカメラの前に立っていた。出演するのは基本的に俺1人。ケムシンはカメラマン、マオは多才な奏者を駆使して音響だ。備え付けのパネルからでも音や照明を操作出来るのだが、人手不足なので活用は諦めた。
「これからがんばって活動していくので、よければ高評価チャンネル登録よろしくお願いします!」
顔の良さはやはり重要だからな。出演するなら俺一択。頑張らなければ。多分恥ずかしさで顔が赤いと思うがそこはご愛敬という事にしてくれ。
だがかわいいだけではインパクト不足だ。そこで思いついたのはギャップを出すというアイデア。こんな可愛い子が○○するなんて、という感じのあれだ。
ゆえに俺が今からやる企画はこれだ。
「と言う訳で今回は、拳でモンスターに挑んでみようと思います!」
テッテレー♪ 企画発表と同時にマオが効果音を流した。タイミングばっちり。演出は大事だ。
@駅伝プレス :どこが「と言う訳」なんだよw
@かにまる :ファッ!?
@morning_star:?????????
@ぷっちー :無理しなくていいんだよ?
@大吉おじさん:Σ(゜д゜)
急加速するコメント。少し遅れて視聴者数が増え始める。興味を持ってもらえたっぽい。
「それじゃ、モンスター召喚!」
俺の掛け声に合わせてリモコンのボタンを押すケムシン。ステージの床に魔法陣が浮かびスライムが1体召喚された。難易度1のダンジョンで見かけたモンスターだ。
何が出るか分からなかったがラッキーだ。これなら素手でも勝てそう。
「うおりゃああああああ!」
俺は思いっきり殴り掛かったのだった。




