第123話 集中砲火
「ふう……っ、金的とはひどいですね。ダメージは無いのに思わず声が出ちゃいましたよ」
ヨイスが股間から手を放しながら顔を上げた。神罰にすら耐える奴だ。まあ当然の結果か。
だが十分だ。その隙に皆に状況を知らせる事が出来たからな。
教会のすぐ横には転生者の集会場がある。すぐにでも転生者が来るはず。
この先はノープランだ。とりあえずヨイスをボコす。皆で囲んで袋叩きにしてぶちのめして吊るし上げてボコボコにして、それからこの先どうするか考えよう。
ドンッと音がして教会の扉が蹴り開けられた。早速来てくれたか。
その最初の1人を見て思わず口角が上がった。そうだよな。一番早く駆け付けてくれるのはお前だと予感してたぜ。
「ミョンチーさん、お待たせっス!」
「全然早いですって! 来てくれてありがとうございます、シリルさん!」
こんなに頼もしい援軍は無いぜ。
援軍は続いた。
「俺達も居るぞ!」
「今の話マジなん!?」
「ミョンチーさんが言うならそうなんだろ!」
「ヨイスって誰だよ!」
「俺、参戦!」
続々と教会になだれ込んでくる転生者達。
「世界を滅ぼすってどういう事だおらぁ!」
その中には2代目ギルマスのタッセルさんも居た。
「よう、加勢に来たぜ!」
既に鉄球を召喚済みのゲッチーさんの姿もあった。
「クソ神父本当に死んじゃったの!?」
赤いドレスの美女、メイラさんも居た。
教会の外にもまだまだいる。かなりの人数だ。俺の呼びかけで事のでかさを察してくれたという事だろか。護衛でよその集落に行ってる奴を除いた70人弱の転生者、そのほとんどが集合しているようだった。
1対70。ボス祭りを思い出す戦力差だ。教会の入り口は大渋滞である。
「随分とまあ、有象無象がぞろぞろと」
ヨイスは余裕の態度で援軍を迎えた。もし逃げようとしたら足止めするつもりだったのに必要無かったな。
悠然と歩きステンドグラスの前へ移動するヨイス。昼間であれば色とりどりの光に彩られるその場所は、夜であるため光はささず、揺れる蝋燭の明かりだけに照らされていた。
「ヨイスは謎の力を持っています! 俺では手も足も出ませんでした。ボスと同じかそれ以上の強さだと思って下さい!」
「その通り。転生者が何人集まろうと無意味です。0をどれだけ積み重ねても0。僕を止める事は出来ませんよ」
どうやら俺の攻撃で無傷だった事が相当な自信につながったらしい。だがな、それは思い違いだ。
まだボス戦を数えるほどしか経験してないお前には実感が無いんだろうな。力の差は数の多さで覆せる。
スキルもステータスも、同じものは見た事が無い。それくらい多種多様だ。
1つだけでいい。その中に1つでも相性が良いスキルがあればボスですら嵌め倒す事が出来る。俺達はそうやって格上に勝ってきたんだ。
今回も同じだ。何でも試して、能力を考察して、そして勝ち方を見つける。
「仮に僕に勝てたとして、その後どうするつもりですか? 死んでも教会で復活するだけです。何の意味も無いですよ」
「うるせえ、それはこれから考えるんだよ!」
俺は腕を振り上げた。そして号令と共に振り下ろす。
「全員、攻撃開始!」
堰を切ったように、転生者達の攻撃が始まった。
俺達転生者には様々な禁止事項が科せられている。飲食、睡眠、性行為といった三大欲求の他に、住民への危害や器物損壊も対象に含まれる。
その中でも器物損壊は少し特殊だ。なぜなら神罰が下るかどうかの判定基準に意図的であるかが含まれるからだ。
歩いてればそれだけで石畳や床板が削れたりする。それを理由に神罰が下っていたら移動すらまともに出来ない。当然の措置だろう。
逆に言えば、町中だろうと戦闘が起これば余波で周囲が破壊されるという事がまかり通る。レンガ造りで石畳を直した時のように。
「撃て! とにかく撃て! 効果があったら報告しろ!」
タッセルさんの指揮が爆発音にかき消された。ヨイスへの集中砲火の余波で教会内はめちゃくちゃに荒れ果てていた。
並んでいた長椅子は破壊されその列を乱し、窓ガラスは散乱し、柱や壁には亀裂も見られた。
「無駄ですよ」
光線が転生者の軍団を貫通した。体内で水分が爆発して胴体が真っ二つになる程の威力。一直線上に死体の道が出来上がった。
光線が乱射される。その度に死ぬ。滝のように祭壇の前で復活しまくる転生者。
だがこちらもただやられてばかりではない。
「ミラーシールド!」
転生者の1人が光線を反射してヨイスにぶち当てた。おお、ナイス!
「無駄ですってば」
ヨイスは平然としていた。硬すぎる。
神罰にすら耐えたのだ。単なる威力重視の攻撃では奴の防御力を抜けないだろう。いろんな属性の魔法が撃ち込まれているがどれも効果無し。切り口を変えたい所だ。
状況が変わったのは、ある転生者が呪文を唱えた時だった。
「三半規管シェイカー!」
「――!?」
ヨイスがふらついた。名前からしておそらく状態異常系。効いたのか?
『どうやら敵は転生者としてのステータスと業システムを併用しているようです。通常攻撃は外からの攻撃なので業システムの防御力で防がれますが、状態異常スキルは内側から直接作用するため普通の転生者と同程度の耐性しか無い模様』
なるほど、良く分からないが効くならそれで良し。
ボスは基本的に状態異常無効だ。理由は単純。それが効いたら嵌め技になってしまうから。状態異常が効くボスははっきり言ってカモなのである。
「状態異常だ! 状態異常が効くぞ!」
転生者はボンクラの集まりではない。俺の声に反応して即座に同調して見せた。
「ウスノロ!」
「悪寒」
「パラライズダンス!」
「超飛蚊症!」
「脱力系ボイス」
「ニューロンフェザータッチ!」
「水暴走!」
「ブラックポイズン!」
「柔肌!」
「ドキ動悸!」
「強制グラサン」
「石化アイ!」
重ね掛けされる状態異常。耐久ステと運によっては掛からない物もあるだろうが、数の暴力の前ではただの誤差。何も出来ない状態になっちまえ!
「――っ」
ヨイスの動きが止まった。右手で頭を押さえ俯いている。
だが容赦する奴は居ない。そうしている間にも次から次へと状態異常が加えられていく。
ひょっとしたらこのまま封じ込められるか、そう思った時だった。
「ふんっ!」
ヨイスの全身から魔力が噴き出した。教会の中に突風が吹き荒れ、俺は思わず目をつぶった。
風が収まった。見ると、そこには何事もなかったかのように立つヨイス。
『敵の魔力によって状態異常の術式がかき消されました』
「教会での回復が無かったら少し危なかったですね。ですがもう対応しました。二度は食らいません」
くそっ、良い感じだったのに!
「いい加減うっとおしいですね。もう終わらせましょう」
ヨイスが指を横に振った。光線による薙ぎ払い。俺達はまとめて死に戻った。
ステンドグラスが突き破られた。意図的な器物破損による神罰をものともせず外へと飛び出すヨイス。
まさか、逃げられる!?
「追え! 絶対に逃がすな!」
俺は叫んだ。この機会を逃せば次は無い。そんな予感がした。
俺達は教会の外へと飛び出したのだった。




