第121話 邪教徒問答
「お前のその力があれば、俺の願いが叶うかもしれないんだ。教えてくれないか? その力について」
俺はヨイスにそう言った。見方によっては共犯の申し出と捉えられる発言だろう。実際、マオを救出するためにダンジョンを破壊するのもありだと思ってるしな。
ゆえに今から行うのは確認と交渉。協力関係を結ぶなら互いのメリットをすり合わせる必要がある。
「お前もこの事をバラされるのは面倒ではあるだろ? 協力関係を結べるなら俺達も黙認する事になる。話し合おうぜ」
「……良いでしょう。何が目的ですか?」
「ボスの中に、人格があるチートってのを持ったのが居てさ、そいつと友達なんだ。ボスダンジョンを破壊して、そいつを外に逃がしてやりたい」
話を持ち掛けた以上開示するべきだろう。俺は素直に目的を明かした。
「……なるほど、そんなチートが。ですけどボスダンジョンが無くなったらさすがに大問題じゃないですか? 騒ぎが大きくなるのは嫌ですね」
「今更過ぎないか? もう十分騒ぎになってるだろ」
「程度の問題ですよ。やろうと思えばもっとたくさん壊せましたけど、護衛の仕事が忙しくなるから抑えてたんです。出来るだけモンスターも全滅させるようにしてましたし」
ああ、なるほど。だからダンジョンが消えてもモンスターが出ないって事が多かったのか。
それにしても、騒ぎは起こしたくないと言いながらダンジョンを破壊するというのは妙だな。
「ならどうしてダンジョンを破壊してるんだ? 教えてくれよ。お前の目的も」
ヨイス、お前は一体なぜこんな事をしているんだ?
俺の問いかけに、ヨイスは少し間をおいて、こんな事を言い始めた。
「信仰上の理由、ですかね」
ええ……、予想外すぎる答えが来たな。
「僕の信仰する神とこの世界の神は敵対してるんです。なのでこの世界の聖域であるダンジョンを壊してたんです」
おいおい、迷惑すぎるだろ。そういうのは信仰心だけで完結しとけよ。
「先輩達はこの世界に不満はありませんか? 僕達をこの世界に落とした神はどうです? あれも駄目これも駄目、何度も死にながらそれでも戦い続けろだなんてひどいとは思いませんか?」
それはまあ、うん。そう思う。
「しかもチートをくれるだなんて嘘をついたり、転生したら精神がリセットされるだとか、その事をずっと隠してたりとか、あんまりじゃないですか」
分かる。めっちゃ分かる。
「徳システムとかもひどいですよね。あんなの誰もまともに使えないじゃないですか」
おう、そうだな。
「それはこの世界の神が邪神だからなんです」
『心音の乱れを検知。嘘です』
多才な奏者の応用だろう。マオが見抜いた。
「でも僕の信仰している神はそんなひどい事はしません」
『嘘です』
「僕の神は善性だからです」
『嘘です』
「先輩達も信徒になりませんか? 僕を手伝ってくれれば、僕と同じように記憶を持ったまま転生出来ますよ?」
『嘘です』
こいつ嘘ばっかじゃねーか!
ちょっと確認してみよう。
「そんな事言って、実はお前の神の方が邪神だ、とかは無いよな?」
「もちろんです」
『嘘です』
邪神じゃん。そんでもってヨイスは邪教徒。俺達を騙して口をつぐませ、あまつさえ協力させる魂胆か。
「手伝うって何をだ? この世界をお前の神のものにするとかか?」
「まあ、そんな感じです」
『嘘です』
「人が死んだりするのは嫌だぞ?」
「しませんしません」
『嘘です』
「この世界を滅ぼすとかじゃ無いよな」
「そんな事しませんよ」
『嘘です』
まじかよ。
「…………」
「…………」
お互い黙った。さすがに質問がおかしかったか。取り繕わないと。……どう取り繕えば良いんだこれ。
マオの声はケムシンにも聞こえている。マオが音の方向を操ってたからな。ケムシンの顔もこわばっていた。
「こちらからも質問して良いですか?」
「あ、ああ。何だ?」
逆質問。うまく躱さないと。
「嘘を見抜いたりとか、出来ますか?」
マオ、アシスト頼む!
声、表情、立ち振る舞い。さらには脈拍や瞳孔、汗、魔力の動きに至るまで、全てがマオの制御下に入った。
「え? いや、出来ないけど?」
次の瞬間、俺の両手足が千切れ飛んだ。光線で射抜かれて体内の水分が爆発したのである。
見ればケムシンも同様だった。2人そろって地面に転がる。お互い致命傷だ。
「嘘を見抜けるのはこちらもです。邪神様の加護の1つにそういうのがありまして」
ヨイスは冷めた目でこちらを見下ろしていた。身動き出来ないまま俺は睨み返した。
「殺しても口封じ出来ないのは厄介ですね。しばらくそこで寝てて下さい」
ヨイスが自分のこめかみに人差し指を当てた。頭を撃ち抜いて教会に戻るつもりか。逃げるのか?
「ヨイス! 世界を滅ぼすなんて俺は認めない!」
俺は叫んでいた。
「転生者も町の人も、みんなこの世界で必死に生きてんだ! やりたい事を見つけたり、仕事をして助け合ったり、そうやって今を生きてるんだよ!」
ギルドを設立し転生者同士での協力体制を生み出したホスディアの顔が思い浮かんだ。
窯業を営みながら畑仕事もしているジョルデさんとジョン君の顔が浮かんだ。
これまでに知り合った転生者達の顔が思い浮かんだ。
あと一応、転生者の相手をしたり住民との間を取り持っているクソ神父も。
皆頑張ってる。自分の人生を必死に歩んでいる。簡単な事だとは思わない。だからこそそんな人達を俺は尊敬しているし、自分も頑張ろうという気持ちを貰っている。
確かに俺もダンジョン消失現象の片棒を担ぐかどうか考えた。もはや日常となったモンスターの脅威、それをそのままにする道を俺は選択肢に入れていた。皆に迷惑がかかると知りながら。でも世界を滅ぼすのは流石にレベルが違い過ぎる。
「絶対にお前の思い通りにはさせねえ!」
ヨイスの頭を光線が貫いた。身動きが出来ない俺達を残して、ヨイスは去っていったのだった。




