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TS斧使い、ダンジョンで脳筋に仕上がる  作者: 源平氏
第三章 これは俺が転生するまでの物語
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第117話 幕間:薬草採取は突然に(後編)


~雪山のダンジョン~


区分 :ノーマル

タイプ:雪山

人数 :3名以下

難易度:☆☆☆☆



 町の住民キーラの頼み、それは娘アリアの病気を治すためダンジョンから薬草を取って来て欲しいというものだった。偶然居合わせたジーナジョンとヨイスはその頼みを聞き入れ雪山のふもとへやって来た。


 薬草が生えているのは雪山の頂上。標高1000mはある。彼らは登山道に沿って斜面を駆け上がっていった。


 転生者の身体能力にものを言わせたアタック。だがその足も次第に遅くなっていった。標高が高くなるにつれ気温は下がり、風は強まり、雪が深くなっていく。3合目に到達するころには足が膝まで雪に埋まり、かき分けながらの移動となっていた。


 目に見えて遅くなった進行。ジーナジョンは早くしないとという焦りをいだきながら歩みを進めていた。



「ジーナ、気を付けて。モンスターが居る」


 前を進んでいたヨイスが注意を促した。ジーナが顔を上げると目の前には広場。それまでの急こう配が嘘のように雪の平地が広がっていた。


 そこには、流線型の巨体を引きずりながら移動する、それはそれは雪景色が良く似合う1頭の怪獣が居た。


「セイウチ、だね」


「ここ山なのだが!?」


 何を言ったところでそれが居るという事実に変わりは無い。すでに2人の存在は察知されていた。ボオオオオッと低い唸り声を上げながら迫るセイウチ。


 体長3mを超える肉の塊が突進してくる。速度はそれ程でも無いが、押しつぶされれば転生者とて無事では済まないだろう。油断出来る相手では無かった。


「ヨイス、盾で受け止めるのは無理なのだ! 我に任せるがよい!」


 チェーンソーを召喚して前に出るジーナ。足元の雪を散らしながら駆け、敵の側面へと回り込んだ。


「迅塵無尽刃んんんんっ!」


「ボオオオオッ!?」


 斬りつけるジーナとのたうち回るセイウチ。皮膚が分厚いからか、それとも防御ステが高いからか、なかなか刃が深く入らない。それどころか刃が入ったら入ったで脂肪の油がまとわりついて刃が滑るというありさまだった。


 戦いは泥仕合と化した。それでも繰り返し斬りつけられる内にダメージが積み重なっていき、やがてセイウチは倒れ伏したのだった。



 登頂は続く。現在5合目。


「ジーナ、気を付けて。またモンスターだ」


 登山道の途中にまたもや広場があった。そこに居たのは――


「皇帝ペンギン、だね」


「ここは南極であったか!」


「山だよ?」


 ペンギンの群れがそこには居た。その数、恐らく100羽以上。


「ガー!」


「危なっ!?」


 ペンギンの鳴き声と共に1本のつららが飛んで来た。恐らく魔法により放たれたもの。それをヨイスが盾で防ぐ。


 パリーンと割れて散らばるつらら。だがそれで終わりではなかった。ペンギン達の視線が2人に集中している。


「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」「ガー!」  


「ジーナ僕の後ろから出ないで!」


「心得た!」 


 つららによる集中砲火。ヨイスの盾がひっきりなしに硬質な音を響かせる。


 だがしばらく耐えているとその攻撃が止んだ。どうやら撃てる回数は限られていたらしい。いわゆる魔力切れである。


「南極条約など知った事かー! ペンギン狩りなのだ!」


 今度は自分達のターン。そう判断したジーナがチェーンソーを吹かす。


「ガー!?」


 ペンギン達は不利を悟ったのか広場から逃げ出し、雪山の斜面を腹ばいで滑り落ちていったのだった。


「……何か分からんが勝利!」


「急斜面だからすごいスピードで滑ってったね」


 2人は再び山を登り始めた。




 7合目。またしても広場である。


「ジーナ」


「分かっている。モンスターであろう。今度は何なのだ?」


 ヨイスの後ろから広場を覗き込むジーナ。


 ジーナはそれを見て、はじめは雪像かなにかかと思った。5mほど。雪まつりの雪像を想起させる白い巨体。それがこちらに近づいてくる。


 その正体は――


「ホッキョクグマだね。……ちょっと大き過ぎる気もするけど」


「ここは北極であったか!」


「山だよ?」


 ホッキョクグマが吼えた。その殺気でビリビリと皮膚が痺れるかのような錯覚を覚える2人。


 クマが腕を振り下ろす。2人が反射的に避けると立っていた場所が抉られて雪の下の岩ごとまき散らされた。


 パワーは格上。そう察したヨイスは盾を召喚する事を諦めた。攻撃を受け止めるのは不可能だと判断したためである。


 下がるヨイス。代わりにジーナが前に出た。


「滅殺回転斬りいいいいっ!」


 チェーンソーによる横薙ぎ。巨体の懐に入るのは危険なため振り下ろされた腕を狙う。だがその刃は分厚い毛皮に阻まれ傷一つ付けられなかった。


「か、硬いのだ!?」


 彼女らの筋力ステは現在☆1。耐久と速度が高いものをセットして来たためである。極寒対策と移動時間の短縮、それらを重視した弊害であった。


「熱湯噴射!」


 今度はヨイスが魔法を放つ。狙うは顔面。その放水は見事命中しホッキョクグマをのけぞらせた。


「ガアアアアアッ!?」


 ホッキョクグマが苦悶に満ちた唸り声を上げる。熱さに驚いたから、では無い。濡らされた顔面が凍り付き視界をふさいでいた。


 熱湯は極寒の中では急激に凍結する。ムペンバ効果と呼ばれる現象である。


 異物を取り除こうと顔を掻くホッキョクグマ。だがヨイスは容赦しない。畳みかけるなら今と言わんばかりに再度熱湯を放った。


 2発目、3発目、4発目。その度に氷が張りついていく。



 だが……、


「駄目だ。大して効いて無い」


 分厚い氷で覆われたならまだしも、表面が薄く凍り付いた程度では動きを止めるには至らなかった。ホッキョクグマが体を掻けば簡単に払い落とされるレベル。


 もう攻撃手段は出し尽くした。有効打は無し。身体能力は相手の方がはるか格上。勝ち目は無かった。


 だが、


「聞いてくれ、盟友よ。我に策がある」


 ジーナが策を伝える。それを聞いたヨイスは眉をひそめた。


「僕1人で大丈夫かな? もしまたモンスターが出たら……」


「我は盟友ならやり遂げると信じている。もし無理だと言うならば別の方法を考えるが、どうだろうか?」


「……分かった。やろう。せっかく今度は相談してくれたんだ。僕も応えるよ」


「さすが盟友。頼もしいのだ!」



 丁度そのタイミングで、ホッキョクグマが顔の氷を剥がし終えた。復活した視界に自身を煩わせた2人が映る。咆哮を上げ怒りのままに突進するホッキョクグマ。


 それをジーナが迎え撃った。チェーンソーをけたたましく鳴らしながら突撃する。


 が、あと数瞬で激突という所でジーナは方向転換。そのまま広場を飛び出し斜面を駆け下りていった。


 追いかけるホッキョクグマ。両者はそのまま急斜面に足を取られ滑落していった。情けない悲鳴が遠ざかっていく。



 ジーナの策は成功した。クマは逃げる相手を追いかける習性を持つ。そう、片方が囮となって引き付け、その間にもう片方が薬草を取りに行くというのがジーナの策であった。


 ゆえに、ここからはヨイス1人で山頂を目指す事になる。


「僕がアリアさんを助けないと!」


 ヨイスは再び登り始めた。彼はもう徳の事など忘れ、ただクエストを完遂する事だけを考えていた。





 数時間後、教会にて。


「むう、じれったい。情けないのだ。信じて待つ事しか出来ないとは……」


 滑落によって教会に死に戻ったジーナは、愚直にヨイスの帰還を待ち続けていた。


 ヨイスはまだ死に戻っていない。つまりクエストを続けているという事である。まだ薬草が見つかってないのか、それとももう帰ってきている最中なのか、それすら分からなかった。


「ギルドには正式に依頼を発行済みですぞ。ヨイス殿が失敗しても予備のメンバーが再チャレンジする手はずとなっておりまする。アリア殿の容体からしてもまだ猶予はありますゆえ、そう深刻に考えずとも大丈夫ですぞ」


 クソ神父が珍しく励ましの言葉をかける。ジーナは無視するか少し悩み、コクリと頷くにとどめた。



 扉が開く音がした。



 とっさに出入り口を見る2人。そこには2人が期待した人物がいた。


「ただいま、ジーナ。それに神父さんも。薬草、無事採って来ました」


 ヨイスは疲労の浮かぶ顔で、それでも笑ってそう言ったのだった。




 夜。教会の個室にて。


 クソ神父は1人静かにグラスを傾けていた。琥珀色の酒の風味が鼻を抜けていく。そう、晩酌である。


 クソ神父が薬草から調合した特効薬は見事に効いた。アリアの熱は下がり、後は数日安静にしていれば回復するという状態である。


 アリアの祖母キーラのお礼を思い返しながら、またグラスに口を付けるクソ神父。


「人からお礼を言われたのは久しぶりですな」


 自身の行いを振り返れば、恨まれ非難される立場にある事は自覚している。下手をすればもう100年以上感謝されてなかったかもしれない。そして彼はそれが自分にはふさわしい扱いだと思っていた。


 だが、


「たまには感謝されるのも悪くないですな」


 揺れるろうそくの灯がグラスに、注がれた酒に、そしてクソ神父の瞳に反射する。



 緩やかに減少していく人口。自然環境も徐々に悪化し、今ではマップの半分以上が人が住めない土地となった。さらに最近はダンジョン消失現象(システムトラブル)まで頻発している有様。残された時間は多くないかもしれなかった。


「せめて、あと数百年は」


 その夜、彼の晩酌はいつも以上に長く続いたのだった。


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