第115話 先立つ者、見送る者
ホスディアとバーバラさんのボスが攻略された。となればやる事はいつも通り。皆でスキルガチャを引くのだ。
そのためケムシン達は繰り返しボスに挑んでいた。ホスディアの方は5人中4人、バーバラさんの方は5人中2人が攻略要員だ。俺は今回は攻略要員では無いので空き枠に1回ずつ入れてもらうだけでよい。
この世界に残ると決めた人達もスキルが手に入るのはやはり嬉しいのか、大半がガチャを引きに来ていた。
と言う訳で俺の番が回ってきた。ホスディアの方は空き枠が1人しかないので結構待ったぞ。
ズッドーーーーーーーンッ!!!
塹壕で爆風に耐える事数分。ボスは全滅したのだった。
更地と化した体育館。その跡地に唯一、無傷の場所があった。祭壇である。
ダンジョンの端っこにさりげなく置かれていた祭壇、その周囲だけが無傷。まるで球状のバリアで守られたかのようである。あれ程の爆発に耐えるなら破壊する事は不可能と思って良いだろう。
ま、壊れてガチャが引けませんでしたじゃ困るからな。当然か。
祭壇に手をかざすと光の玉が出てきて胸へと吸い込まれていった。スキルゲットだぜ。
ダンジョンを出ると体育館が元に戻っていった。中に転生者が居なくなった事でダンジョンがリセットされたのだ。
これだけ派手に吹っ飛んでもダンジョンは無事。一体何が起こればダンジョンが消えるなんて事になるのか予想も付かないが、今回の結果を見るに、物理的に壊れたという可能性は考えなくて良いかもしれない。
その後、バーバラさんの方のダンジョンでもスキルをゲット。さすがにテンション上がるぜ。
これが新しいスキルだ。
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・存在感が無いレスラー(ランク4)
格闘技を使用出来るようになる。
ステータスの全ての項目を+☆1
魔力を消費して透明になる事が出来る。
・よくサボる養護教諭(ランク4)
手で触れた相手を小回復出来る。
同様の能力を味方全員に付与する。
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いいね。悪くない。俺は今回の結果に満足したのだった。
そうして全員がスキルを獲得し、とうとうこの時がやって来た。
「ホスディア、先に行っとるのじゃ」
先に転生するのはバーバラさん。すでにボスは討伐済み。彼女の体は光に覆われ始めていた。
ボスを倒してから転生するまで、およそ1分。それが試練をクリアした者に残された最後の時間だった。
「ああ、すぐに俺も行く。向こうで待っててくれ」
「うむ。これがあるから安心なのじゃ」
薬指を見せるバーバラさん。そこには婚約式で付いた赤い印があった。2人が来世で結ばれる証である。
長い抱擁を終えて、ついに時間切れが迫ってきた。彼女を覆う光が強さを増している。
「お主らにも世話になったのじゃ。ありがとうなのじゃ」
本当にこれで最後。そんな時、シリルさんが一歩前に出た。
「バーバラ先輩、社長を不幸にしたら許さないっスから! その時は私がビンタしに行くっスよ!」
シリルさんなりの激励と言ったところか。バーバラさんは少し目を丸めた後、微笑みながらこう答えたのだった。
「安心せい。きっと大丈夫なのじゃ。なんなら2人目もウェルカム――」
閃光。バーバラさんを覆っていた光が急激に強くなり、収まった後には彼女の姿は消えていた。
「もう、バーバラ先輩。最後までおふざけがひどいんスから」
シリルさんは呆れながらも鼻をすすっていた。
「絶対幸せになって下さいっス。バーバラ先輩」
その言葉がバーバラさんに届いたかは、残された俺達には分からなかった。
「タッセル、達者でな」
「ああ。あんたもな。良い人生を祈ってるぜ」
そして次はホスディアの番。彼は最後に一人一人と握手して回っていた。
じっくり時間をかけて別れを済ますつもりらしい。ボスに挑むのはこれからだ。
「タッセル、最後に一つだけ策を預けようと思う」
「策? 何のだ?」
「ギルドがどうしても立ち行かなくなった時の策だ」
「……おう、一応聞いとくわ」
「そうなる原因は色々想定できる。メンバーの不満が爆発した時、対立組織が出来た時、クソ神父との関係が悪化した時とかな。
そういう時は、本当にどうにもならなくなった時は、ギルドを解体したら良い。ギルドの目的はあくまで互助。それが出来なくなったという事は役割を終えたという事だ。無理に存続させる必要は無い」
「あー……、つまりギルドの運営自体が目的にならないようにしろって事な?」
「そうだ」
最後まで仕事の話題か。ホスディアらしいな。
タッセルさんの次はシリルさん。
「シリル、お前にも助けられた。ありがとう」
「いえ、自分は全然っス……」
「そんな事は無い。会議での司会進行、上手だったぞ。自信を持って良い」
「はいっス……」
「大丈夫だ。きっと、来世でもまた会える。だから泣くな」
「うう……、社長……、絶対夢をかなえて下さいっス。社長なら絶対良い会社を作れるっスから! 記憶が無くなっても、今の社長じゃなくなっても、きっと……!」
「ありがとう。何とかなるさ。きっとな」
「バーバラさんの事も、幸せにしてあげて欲しいっス!」
「ああ、もちろんだ」
次は俺だ。
「ミョンチーにも世話になったな。色々助かった」
「いやいや、出来る事をしただから」
「それが出来るのはお前が立派な証拠だ」
「……ああ。ありがとな」
くそ、俺まで涙が出てきやがった。褒められただけなのに。良い顔で見送りたかったのに。
「それとケロンチョの事だがな」
「ケロンチョ……?」
「ああ。奴は今でもマオの討伐を狙っている。気を付けろ」
「……分かった。ありがとう」
他メンバーにも順に話をした後、ホスディアはボスへと挑んだ。
毎度のごとく体育館が更地と化す。俺達は安全な距離まで離れてその様子を見守っていた。
爆発が止んだ。ボスを倒したのだ。俺達は急いで駆け寄った。
「ホスディア!」
俺は叫んだ。ダンジョンに着いた時、彼は既に強い光に包まれていた。
「ホスディア、今までありがとう!」
「社長! 社長!!」
「お幸せに!」
「お疲れさまっした」
「元気でな!」
「お世話になりました!」
口々に声をかける俺達。ホスディアは手を振りながら最後に「ありがとう」と言った。
閃光が迸った。後には姿はなく、転生したという事実だけが残った。
偉大な人だった。
一つの時代を作った男だった。
その功績を挙げればきりが無かった。
皆に尊敬されていた。
それだけの実力を備えていた。
そんな人を俺達は失った、のではない。確かに別れはした。だがそれはただの悲しい終わりとは違った。
きっと、これは門出だ。この世界での役割を終え、新しい人生へと旅立ったのだ。
この日、ホスディアは転生したのだった。




