第114話 VS. 翻訳チート
ミョンチー達がホスディアのボスに挑むのと同時刻、バーバラのボスに挑む者達も居た。
その筆頭であるシリルがダンジョンを駆ける。強風にあおられ、草に足を取られ、時には炎に炙られようとも地面を蹴る事をやめない。
理由は単純。止まったら死ぬから。
もはやダンジョンそのものが敵だった。あらゆる存在や事象が意思を持って侵入者を排除にかかる。動き続けてそれらから逃れる必要があった。
「うわああああああああっ!?」
また1人、転倒した転生者が地面に噛み付かれた。抜け出そうともがくその者にツタが巻き付き、石が体当たりし、水が顔を覆い、炎がまとわりつく。
「こんな能力頼んだ覚えは無いんじゃがのう」
ダンジョンの外で、バーバラは戦いの様子を見ながらぽつりとそう漏らしたのだった。
~高宮ヒサ江のダンジョン~
区分 :ボス
タイプ:日本家屋
人数 :5名以下
対象者:バーバラ
バーバラが神に要求したチートは以下の通り。
・不老である
・健康を維持出来る
・生活魔法を使う事が出来る
・どんな言葉も理解し話す事が出来る
・道具を作る事が出来る
そのラインナップを一言で説明するなら、快適な日々を過ごすための能力。戦いとは程遠い。
だがボスは強敵として生み出される。非戦闘系の能力が要求された場合は無理やりにでも解釈を広げて戦闘力を持たされる、というのが通説だ。
このボスのフレーバーテキストにはこんな事が書かれていた。
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~あらゆる言語を理解出来る彼女は、世界に遍在する精霊とすら対話し味方に出来る~
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すなわちこのボスが持つのは翻訳チート。世界のすべての事象を操る万能の能力者であった。
生き残っている転生者は2人。それが庭を駆け回っていた。
「俺が道を作る! お前がボスを倒せ!」
ゲッチーが叫ぶ。鉄球を振り回し襲い来るタンスを粉砕。移動しながらも圧倒的パワーで環境破壊し身を守っていた。
「了解っス!」
返事の主はシリル。☆5を超える速度で攻撃の隙間を縫って生き残っていた。
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名前 シリル
ステータスロット
・仏恥義理(ランク6)
筋力:☆☆☆☆☆
耐久:☆
速度:☆☆☆☆☆
魔力:☆☆
器用:☆☆☆☆
スキルロット
・貯金癖の先駆者(ランク5)
助走をストックできる。
ストックを消費して加速できる。
・辻蹴り(ランク3)
強力な蹴り技を放てるようになる。
このスキルは魔力を消費しない。
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「どっせい!」
ゲッチーが鉄球を振り下ろす。その先には屋根瓦。ガシャーンと音を立てて屋根に穴が開いた。
なんとこの日本家屋、身を伏せて出入り口を塞いでいた。そうとしか表現のしようがない。柱を曲げ、屋根を地面すれすれまで下げ、玄関も縁側も塞いで通れなくしているのである。
そんな日本家屋に今、侵入経路が生まれた。
ボスはおそらく家の中。バーバラの享年を考えれば、老婆の姿をしているはずである。
「行け、シリル! 俺は外でこいつらを引き付ける!」
「ありがとっス!」
シリル1人で侵入。屋根裏から天井を蹴りぬいて座敷へと着地した。薄暗い。そして低い。建物が身を伏せているせいである。家の隙間から入るわずかな光だけが中を照らしていた。
ボスの姿がそこにあった。
和服を着こなした品のある姿。背筋もピンと立っており姿勢がいい。黒髪を後ろで団子にしている。
「やっと会えたっスね。死ぬ前のバーバラさん……、にしては年齢が合わないっスけど」
意外な事に若かった。20代くらいか。美人という言葉が良く似合う。
「そういえば不老チートも要求したって言ってたっスね」
これまでのボス同様に目に光が無い。あくまで決められた通りに動くだけの人形である。それでもシリルには因縁の再会のように感じられた。
「強くて経験豊富でおまけに実は美人とか、ズル過ぎるっス」
短剣を構えるシリル。一方のボスも手のひらに炎を出した。生活魔法の1つ、着火魔法である。
ボスの攻撃。屋内であることもお構いなしに業火が迫る。シリルはそれを回避。まるで箱の中でボールがバウンドするかのように立体的に動きまくる。
「ずっと気に食わなかったっス。所かまわず社長にセクハラするのも、それなのに社長に頼られるのも」
今度は水。これも生活魔法である。津波のような勢いのそれに炎はかき消され、障子やふすまは吹き飛んだ。避け切れずずぶ濡れとなるシリル。
「私の方が先に仲間に誘われたのに、後から平然と入って来たのもムカついたっス」
屋内が一瞬で凍り付いた。今度は生活魔法の冷蔵。幸いにも氷漬けとはならなかったが、体温の急激な低下はまぬがれず。
「道場で得意げに刺してくるのもイライラするっス!」
雷鳴がとどろいた。迸るアークが体を焼く。余波でシリルの体表を覆っていた氷が剥がれ落ちた。
「とにかくムカついてムカついて仕方無いっス!」
忌々し気にボスを睨むシリル。ボスはお構いなしに鎌鼬を放った。
生活魔法のラインナップは着火、水生成、送風、冷蔵、消毒、点灯、等々。様々な効果を発揮できるかわりに威力は低い。通常であれば。
ボスはそれを精霊への捧げものとしていた。火種を出して火の精霊へと奉納。精霊はそれを起点に火を業火へと増幅し転生者を自動攻撃。これが場に不釣り合いな属性でも精霊を呼び出し攻撃できるカラクリだった。
「でも一番ムカつくのは自分自身っス!」
シリルは叫んだ。
「速さしか取り柄が無いのも、勉強してこなかったのも、社会経験が無いのも、バーバラさんほど頼ってもらえないのも、思いを伝えずにいたのも。不甲斐ない自分にイライラするっス!」
シリルは吼えた。それは、送り出す側に残った最後の矜持。
「社長達の、邪魔をするなあああああ!」
スキル発動。ステータスの限界を超えた速度での突進、だけでは無い。
バーバラが生み出した技術、すなわち魔力制御による身体強化。それを足に使った。
「迅脚!」
限界は二回超える。音すらも置き去りになった。
たかがボスに対処が間に合う道理は無く。
瞬きにも満たぬ刹那に首を飛ばされたのだった




