第113話 VS. 分身チート その4
強化に強化を重ねたボスの自爆は、ついには体育館を全壊させるに至った。
多分惜しかった。爆風に耐えきれずダンジョンの外に出てしまったのが一番の課題である。あと一工夫で勝てそうな雰囲気だ。
そういえば、ボスは外に吹っ飛ばされないんだな。
『ボスやモンスターはダンジョンを出る事は出来ません。ダンジョンの外周に見えない壁があり脱出が拒まれてしまいます。転生者だけがその見えない壁を素通りする事が出来ます』
やっぱりそうか。俺が思っていた通りの仕組みだ。今なお続くダンジョン消失現象でモンスターが外に出て来たのは、ダンジョンと一緒にその見えない壁も無くなったからなのだろう。
俺達は死んだ仲間が復帰するのを待って、もう何度目になるか分からない作戦会議を始めたのだった。
「壁だ。壁が無いと踏ん張れねえ! 建物を直せるスキルとか誰か持って無いか?」
「いや、そんなスキルがあったとして誰と交代するんだよ。5人までしか入れないんだぞ?」
「土魔法ならコンクリ修復出来るかも」
「だから、メンバーがいっぱいなんだって」
「あんたら馬鹿か? 壁を背にする必要無いだろ。土魔法で盾を生やせば良いじゃん」
「「「それだ!」」」
地面に固定された岩の壁を作れば爆風を防ぐ盾となりノックバックも防ぐことが出来る。こうして盾役のジュラジュレさんはメンバーから外される事となった。
喧々諤々。転生者達の意見が飛び交う。
「ケムシンはどうやって踏ん張るんだよ。組み付かれた状態で爆発するんだぞ? 間に盾なんか張れねえだろ」
「っていうか自爆の度に吹っ飛ばされて壁まで後戻りするのもったいなくないか? 時間的にも距離的にも」
「確かにケムシンがずっと走らないといけないのはなんとかした方が良いと思います。そのせいで傷口開いて無敵時間短くなってるでしょうし」
「もっと他の分身の近くで自爆させたいよな。そしたらもっとたくさん巻き込めるだろ」
「それこそ壁を背にしたら良いじゃん。土魔法で生やそうぜ。ダンジョンの真ん中にケムシン用のやつを」
「良いじゃねーかそれ。採用!」
まだまだ議論は続く。細かいところまで調整のメスは入った。
「バスはケムシンの真上に出しちゃダメだろ。バズーカがバスをどけるのに使われてて勿体無いと思ったわ」
「ケムシンの攻撃はもっと近づいてからで良いと思う」
「切腹するのもダンジョンに入ってからで良いんじゃね? ギリギリまで後にしようぜ」
「てかさあ、5人フルでやっと倒せたとして、他の奴にどうやってガチャ引かせるんだ?」
「ガチャ引く奴に魔法で攻撃する役をやってもらえば良いんじゃね?」
「俺そんな威力の魔法持ってねえよ!」
「他の部分が改善されれば魔法役は1人くらい減っても大丈夫だろ。多分」
こうして俺が発端となった脳筋作戦は見直されていった。ただの脳筋と侮るなかれ。俺達が行うのは考え抜かれた脳筋作戦。次こそは分身どもを木っ端みじんにしてやる!
さあ、リトライの時間だ。
「それじゃ、第四次脳筋作戦、開始!」
新たに選抜された4人が突入。フルメンバーじゃないのは、ガチャを全員に引かせるために最低1人分の空き枠が必要だからだ。
作戦は見直したし、多分4人でも勝てる。多分。
「ウイニングボール! からの、切腹!」
序盤の流れはほとんど同じだ。ケムシンから攻撃してそのまま囮となる。変わったのは切腹を囮になる直前にした事だけ。
そこに他メンバーが続けて魔法攻撃。
「プロ―ジョン!」
「ファイナルバズーカー!」
メイラさんと転生者Bである。転生者Aは車体が残って邪魔になるのでメンバーから除外された。
「鎌鼬スパイラル!」
「ストーン・ガトリング!」
魔法攻撃2周目。良い調子でキル数を稼いでいく。
とはいえ転生者Aが抜けた分はやはり大きい。カツカツのメンバー構成で挑まなければならないのがボス戦の難しい所だな。
だが大丈夫だ。転生者Aに変わって編入された新メンバーが全ての問題を解決する。
「ようやく俺の番かよ」
突入班最後の1人は我らが新ギルマス、タッセルさんである。
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名前 タッセル
ステータスロット
・止まらねえ男(ランク6)
筋力:☆
耐久:☆☆☆
速度:☆☆☆
魔力:☆☆☆☆☆
器用:☆☆☆☆☆
スキルロット
・癇癪持ちの念動力者(ランク4)
前方を念動力で吹っ飛ばす事が出来る。
発動には長い溜めが必要。
・土から作られた人間(ランク5)
土系能力詰め合わせ。
物理法則から乖離するほど消費魔力上昇。
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「クソボスがぁ、引導を渡してやるよ!」
拳を大きく引いて殴りの体勢のタッセルさん。スキルのチャージは既に済ませてある。
ボスは遠い。遠距離攻撃の間合い。ケムシンが引き付けているおかげで1か所にまとまっている。つまりは理想的な状況。
「とっとと転生させやがれ!」
タッセルさんは大振りと共に虚空を殴った。
無音のはず。にもかかわらず、パリーンと空気が割れたような気がした。
ケムシンもろともボス達が吹っ飛ぶ。3割くらいが破裂して死んだ。以上。
……うん。いかにもこれでトドメみたいな雰囲気を出してたせいで拍子抜けだが、普通に良い威力だったと思う。
「ま、こんなもんか」
どこかすっきりした顔のタッセルさんであった。
「おし、じゃあ後はボスの自爆に任せるぞ! ケムシン、これ使え!」
タッセルさんが体育館の中央に岩を生やした。ケムシンが吹っ飛ばされないように背中を支えるためのものである。
「おめえらはこっちな」
次いで作られたのは、溝。タッセルさんたちが身を隠すための塹壕である。壁裏より地中の方が身を守れるだろうというアイデアだ。
ボスの強化は十分。パターンに入った。
体育館の隅で密集して身を守りながら1体ずつ自爆攻撃するボス。岩の壁を背にそれを受けるケムシン。自爆の余波に巻き込まれて分身が死に、さらに威力が上がっていく。
ケムシンは動く事無く、じっと耐えていた。
上がっていく威力。体育館の壁が崩壊し始めた。ケムシンを支える岩も崩れていくが、そのたびにタッセルさんが修復。
もう何度目になるか分からない爆発が繰り返される。
体育館は更地と化していた。
更地は次第にクレーターへと変わっていった。
ケムシンがいつ時間切れになってもおかしくなかった。
遠くまで避難していたはずの俺達の鼓膜はとうの昔に破れていた。
ふいに、爆発が止んだ。
ケムシン達が死んでしまったのかと思ったが、そうではなかった。
ボスは、自爆に巻き込まれて全滅していた。




