第110話 VS. 分身チート その1
ギルドの新しい活動方針がまとまり、施行され、改革が何とか終わった後、幹部会議である議決が取られた。
その内容とは、ホスディアとバーバラさんの引退。皆で2人を送り出そうという粋な計らいである。
「では賛成6、反対2により、現ギルマスとバーバラさんは解任とし、新たにタッセルさんがギルマスに就任してもらうっス」
反対したのはホスディアとバーバラさんのみ。だがそれも形式的なもので、内々では同意済みだ。
ホスディアはギルマスを務めるにあたって自身の転生を後回しにするという公約を掲げていた。ギルドを私的利用しないという表明である。だがそれもギルマスで無くなれば守り続ける必要も無くなると言う訳だ。
「タッセル、ギルドを頼む」
「ああ、任せてくれ。あんたの意志は俺が引き継ぐからよ」
「ワシからも、ありがとうなのじゃ」
「姉御もお疲れさん。これからも見守っていてくれ」
ホスディアとタッセルさんが握手を交わした。俺達はホスディアのこれまでの功績を讃えるため、拍手でもって賛辞を送ったのだった。
~片桐剛のダンジョン~
区分 :ボス
タイプ:体育館
人数 :5名以下
対象者:ホスディア
そこはバスケのコートが4つ入るくらいのサイズの体育館だった。戦う俺達を他の転生者が観客席から見守っている。このダンジョンは周囲の観客席は飾りでありダンジョンの外という扱いだった。
俺達は二手に分かれてホスディアとバーバラさんのボスに挑戦していた。俺はホスディア側だ。幹部は他にケムシン、タッセルさん、メイラさんがいる。それと他の転生者が十数名。
「くそ、近寄るんじゃねえ!」
スーツ姿のボスへと斧スイング。野球のバットのように降り抜いた斧がボスの両足を両断。だが次々と新手が襲い掛かってくる。
ボスの能力は分身チートだった。300体に増えたボスが転生者を囲んで蹂躙するという厄介極まりない戦闘スタイルである。
「殺すなよ! 手足を狙え!」
「無理いいいい!」
「離せ! 離せえええええ!」
このボスのチートは、それはそれは厄介な完成度を誇っていた。他ならぬホスディアが考えたのだ。一切の無駄が無い能力構成で俺達転生者を苦しめていた。
先ほども言った通り、このボスは分身チートである。問題は、ただ数が多いだけでは無いと言う所にあった。
ボスの能力は以下の通り。
・常に300体に分身する。
・本体は無く、全ての分身を倒す必要がある。
・分身が死んだ場合、新しい分身が出現する。
・分身が死んだ場合、全ての分身の能力が向上する。
・自爆魔法を使える。
・分身同士で思考を共有できる。
こうして戦ってみて判明したこのボスの1番ヤバい所。それは分身が死んでから新しく出てくるまでに1秒くらいしかかからない所だ。つまり1秒以内に全滅させないと倒しきれない。
いや、クソゲー過ぎるだろ。どうやって倒すんだよこんなの。
「このっ、クソボスがぁっ!」
出来るだけ殺さないようにという作戦を守る余裕も無くなりひたすら斧を振り回す。だが津波のように押し寄せる分身を捌き切れず、俺はボスの群れにしがみつかれた。
ボンッ。
自爆攻撃である。それをもろに食らった。
「げほっ! げほっ!」
俺の耐久ステは☆5。火傷程度で済んだ。だが次の瞬間には別の分身が組み付いてきて自爆。徐々に威力が上がっている。
このボス、自爆で死んだ場合でも強化されるのだ。どんどん無視できない威力になっていく。
俺達突入チームはボスに群がられ、しがみつかれ、自爆に巻き込まれてついには全滅したのだった。
と言う訳で教会から復帰。
「すまん。死んだ時、自分が何人も居ればと思ってな」
さすがに申し訳なさげなホスディア。頭の良さがこんな所で不利に働くとはな。俺の頭ワルワル脳筋チートと違って弱点が見当たらないのは流石というほか無い。
「よし、テメエら、敵の能力は分かったな? じゃあ定石通り状態異常が通るかから試していくぞ!」
タッセルさんの指示の元、俺達は地道な検証を開始した。
「石化アイ!」
「パラライズダンス!」
「おっはようございまあああっす!!」
「ブラックポイズン・シャワー!」
ひと通りの状態異常スキルを試したが、他のボスと同じく効果無しだった。煙による物理的な目くらましは効いたが、ボスの無差別な自爆特攻の前には大して意味をなさなかった。
次!
「魔法で全員まとめて吹っ飛ばしたらどうですか?」
俺からの提案である。やはり脳筋。脳筋はすべてを解決する。これ以上無い分かりやすい方針により、ケムシンをはじめ一撃必殺・範囲攻撃に特化したスキルの所持者が選抜された。
「ウイニングボール!」
「プロージョン!」
「召喚、バスガス爆発!」
「ファイナルバズーカー!」
「マジカル☆流星群!」
一斉に放たれる魔法。
ボスの対応は様々だった。ある分身は散り散りに逃げ、ある分身は密集して防御態勢を取り、ある分身は自ら魔法に突撃して爆発した。
チュドーン……。
衝撃で窓ガラスは飛び散り、屋根は崩落し、体育館は半壊した。なんなら観客席に居た俺達も半分くらいが巻き込まれて死んだ。
「おいおい、さすがに倒せたんじゃないの?」
「てかボスだけじゃなくて突入班も死んだだろこれ」
「おーい、だれかー。生きてますかー?」
煙が満ちるコートをうかがう俺達観戦組。煙が晴れるとボスの群れが見えた。次の瞬間、半壊していた体育館が光に包まれ修復されていった。ダンジョンがリセットされたのだ。
状況から考えて、ボスを倒しきれなかったのだろう。生き残った分身が居て300体に分身し直したのだ。逆に味方の姿は見えなかった。多分爆発に巻き込まれて死んだっぽい。
ケムシンも鎧をセットしていたはずだが、おそらく発動する間もなく即死したのだろう。
「ちっ、駄目か……。悪くねえ案だと思ったんだけどよ」
悔しがるタッセルさん。一方、発案者の俺は手ごたえを感じていた。
「タッセルさん、まだ諦めるのは早いですよ」
だから俺は、もう一度タッセルさんに発案した。
「この作戦、もう少し工夫出来ると思います」




