第109話 別れに向けて
ホスディアとバーバラさんの婚約式から数日。
転生の真実を聞いて塞ぎ込んでいた連中の何割かが、暇を持て余してギルドの活動に復帰し始めた。
もともと活動をやめずに続けていた連中が30数名。婚約式の時の演説に影響され復帰したのが20数名、それらと合わせ、8割近くが活動を再開したという状態だ。
活気を取り戻しつつあるギルド。だがいくつかやらなければならない事も出てきていた。
転生しないという選択肢が出来た事により、ギルドの活動内容の見直しが必要となったのである。居残り組への対応案の議論、新人への説明事項の再検討、転生者に斡旋するクエストの増量、今なお続くダンジョン消失への対応などなど。
これから幹部会議でそれらについて話し合うというタイミングで、幹部の1人であるタッセルさんが声をかけてきた。
「よお、ミョンチー。ちょっと今良いか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ?」
何の用だろうか。今まで1対1で話したこと無かったのに。
正直この人少し苦手なんだよな。見た目も言動も怖いし、初めて会ったのがタイマンバトルの時で感じ悪かったし。
「ギルマスと姉御の事だけどよ、お前、あの2人に転生して欲しいって思ってるか?」
「え、はい。もちろんですけど」
「そいつは良かった。だったらよ、まだお祝いムードの内にあの2人を転生させてやりたくないか? 早い方が良いだろ?」
「それはそうですけど、今はキツくないですか? ギルドの立て直しが大変な時期ですし、落ち着いてからでもいいんじゃ……」
俺がそう言うと、タッセルさんはため息をついた。そして俺の横に来て肩に手を回してきた。
「なあ、ミョンチー。落ち着いたらって言うけどよ、それっていつだ? 今ある問題を片付けたとして次の問題が起きたらどうするんだ? その度に今はタイミングが悪いって言ってギルマス達の転生を延期するのか?」
言われてはっとした。確かに一理ある。とはいえ疑問もあった。
「でもどうしてそんな事を? タッセルさんにはメリットとか無いんじゃ?」
「豚もおだてりゃ木に登るって言うだろ? その豚はよ、自分が良い様に使われてるって気づいちゃいねえんだ。褒められて、持て囃されて、それで良い気分になって木に登ってるんだよ」
「は、はあ」
「もしその豚がその事に気づいたとしてもよ、登らねえって選択肢は無えんだ。登らなかったらおだてていた周りの奴らから顰蹙を買って、下手すりゃ肉にされて食べられちまう。むしろ気づかないままの方が本人も幸せっていうどうしようもない豚なんだよ」
いったい何の話をしてるんだ?
「その豚が俺だ。面倒事を押し付けられてる事に気づかねえで、パーティーのリーダとして担がれて良い気になってたのが俺だ」
「……」
「でもギルマスは違うだろ。自分で決めて、自分でトップに立って、自分で世界を動かして、それなのに自分の事は後回しにして他の奴らのために働いてんだ」
……意外だ。この人そんな風に思ってたんだな。
「ギルドのトップなんて責任とストレスがヤベえだろ。そんなのを自分から務めてるんだ。かっけえと思うだろ? すげえって思ってる。でももう報われても良いだろ」
思いのほか腹を割った話をされてしまった。でもそのおかげで少しこの人の事が分かった気がする。意外と良い人なのか? タッセルさんって。
とは言えだ。
「ホスディアが断るんじゃないですか? 問題を片づけてから転生するって言いそうじゃないですか。そもそも自分の転生は後にするって公約ですし」
「ギルマスには話を通してある。条件付きでOKが出た」
「条件ですか?」
「ああ。今のギルドの問題をギルマスと姉御無しで解決して見せろだとよ。つまり俺達に後を託せるかの試験だ」
「公約の方はどうするんです?」
「ボスに挑むタイミングでギルマスをやめてもらう。あの公約はギルマスがギルマスである事を認めさせるためのもんだ。ギルマスじゃなくなったら守る必要もねえ」
「俺以外の幹部には話をしてますか?」
「今順番にしてってる。今の所全員賛同してる。後はケムシンとシリルだけだ」
なるほど。話は分かった。
俺達だけでギルドの問題を解決する。確かにホスディアに頼りっきりの現状を卒業するにはもってこいの試験だ。
上等だ。やってやるぜ。
ホスディアとバーバラさんが安心して転生できるよう、俺達の能力を認めさせて円満に送り出す。
「分かりました。俺も賛成します」
俺はタッセルさんにそう返したのだった。
そうして始まった幹部会議。ケムシンとシリルさんにも事前に話して同意済みだ。俺達はホスディアに見守られながら、いつも以上に活発に議論をしていた。
「この世界に残るって奴が39人か。多いな。クエストと護衛はそいつらだけでやってもらって良いんじゃないか?」
「いや、それやと休み無しで護衛させる事になるで。同時に30人くらい必要やろ? 護衛だけで」
「まだ転生するか検討中って人も居ますので、その人達にもやってもらいましょう」
「転生組も夜はダンジョンに行かないんで護衛に回して良いと思うっス」
「昨日と今日で新人2人に説明会したんですけど、転生したら記憶がリセットされるって聞いてすごい文句言ってました。2人共居残り希望です。この先居残りがどんどん増えると思います」
「ならクエストの増量をクソ神父に相談しねえとな」
「この前これ以上は仕事が無いって言っとったで?」
「護衛してもらうにしても、ステータスが初期値の新人にやらせるのはキツくないっスか?」
「クエストだって力仕事も多いし、ステータスが高い方が良いと思うぜ?」
「ステータスが高い人が優先して仕事を請け負えるようにしたらどうかしら。そうしたら居残り希望の新人もダンジョンに行く理由になるでしょう?」
「それでも行かない奴はどうするよ」
「さすがにそこまでやる気が無い奴はどうもしてやれねえよ。どうにかするにしても後回しだ後回し」
「新人以外からの不満も最近よく聞くよな。いつか爆発するんじゃないか?」
「前はクソ神父に不満が向いていたからな。クソ神父と転生者の間をギルドが取り持つようになったせいでこっちに不満が来てやがる」
「今回の改革でも不満が出てくるんじゃないっスか?」
「意見を募集する部署を作ったらどうやろ?」
「俺は反対だ。不満を声を大にして言えるってのは一時的にはガス抜きになるかもしれねえが、長い目で見たら不満がもっと多く出るようになる。文句を言ったのに対応してもらえなかったってな」
「皆の意見を聞かないのは専制政治みたいでなんだか嫌だわ」
「2人抜けるんだし、改革後に新しい幹部を募集しようぜ。文句があるなら幹部になって意見を言えってな」
「物資を取ってこれるダンジョンってあったよな。紙とか取ってこれないかクソ神父に聞いてみようぜ。今紙の代わりに使ってる奴、ほら、あの板に粘土塗った奴な、あれホスディアが作ってるだろ。他の方法考えねえと」
「良いわね。もし可能ってなったらクエストとして発行しましょう。消耗品なら定期的に依頼を出せるわ」
「それも良いけど、やっぱでかいクエストが必要じゃねえか? 開墾とか街道の整地とかしていいかも聞いてみたらいいと思うぜ」
こんな感じで、俺達はあーだこーだと議論を続けたのだった。




