第107話 幕間:ギルド飛躍秘話 中編
「おいおい、ずいぶんと厄介な奴らに目を付けられちまったな」
ギルドVSネオ元祖転生前夜。その第一試合の直前、俺達に声をかけてくる奴が居た。
声の方を見ると、ひげを蓄えた大男。最近ギルドに入ったばかりのゲッチーさんだった。
「入ったばかりなのにトップが変わって方針転換、ってのは嫌だぜ?」
ホスディアに暗に大丈夫かと聞くゲッチーさん。
「俺がトップである事に文句を言う奴は現れて当然だ。いつかはこうなっていただろう。早い内に対処出来るのはむしろ都合が良い」
「勝てるのか? 相手は腐っても最大手のボス攻略パーティーだぞ? スキルを豊富に持ってるぜ」
「こちらにもステータスのアドバンテージがある。そうで無くとも俺の仲間は強い。心配は無用だ」
「へえ、そりゃ楽しみだな。頼むぜ、応援すっからよ!」
ゲッチーさんと目が合った。俺はとりあえず会釈を返したのだった。
「じゃあ1回戦を始めるわ。シリルとハッカス、前へ」
審判のメイラさんが選手を呼んだ。出てきたのは猫背の男。不遜な顔つきからは余裕がうかがえる。
「おいおい、いきなりハッカスかよ。こりゃ相手も本気で叩き潰しに来てるぜ」
対戦相手を見てそんな事を言い出すゲッチーさん。
「向こうの人知ってるんですか?」
気になったので質問してみた。気前よく答えが返ってくる。
「奴は暴力沙汰の常習だ。とにかく手が出るのが早い。その上負けを認めた相手にも執拗に攻撃し続ける苛烈さを兼ね備えてやがる。対人戦でこの“慣れ”は脅威だぜ」
ヤベ―奴じゃん。関わりたくねー。
「スキルもランク5の武器と魔法でごり押しするタイプだ。あの嬢ちゃん、シリルだっけか。皆の前でなぶり殺しにされちまうぜ。棄権した方が良い」
ゲッチーさんはそう唸ったのだった。
「準備は良いわね? それじゃあ、デュエル開始!」
だが今更俺達に棄権などという選択肢は無い。メイラさんの掛け声と共に勝負はスタートした。
意外にも、両者共に出方を伺っている。勝負は静かに始まった。
「知っているか? この世界は不平等だ。力を持つ者が全てを思い通りに出来る。弱者の自由も権利も、強者の許しの上に成り立っているに過ぎない」
もう勝負は始まっているのにそんな事を言う対戦相手。
「お前が教えてくれた事だ。あの日、俺は生まれ変わった。こうしてお前が対戦相手になったのも運命。お前は自業自得の敗北をさらすと言う訳だ」
「あー、見覚えあると思ったら、レンガ作った時にシメた奴っスか」
「お前……、忘れていたのか? 俺をあんな目に合わせておいて。これは許されないな。俺は今までお前を超えるためにさらなる強さを――」
ザンッ
対戦相手の話が止まった。声を出せないのだ。頭だけで宙を舞っているからである。その表情は驚きに満ちていた。
対戦相手だけじゃない。それを見ていた転生者全員が驚いていた。
「強さが、何っスか?」
対戦相手の遥か背後で振り返ってそう言うシリルさん。その立ち位置を見てようやく、超スピードで移動しすれ違いざまに首を斬ったのだと理解し観衆がどよめいた。
シリルさんの速さは隠しダンジョンをクリアした事で1つの完成を迎えていた。
彼女が使っている蹴りスキルは筋力ステによって威力が上がる。ランク6のステータスを得た事で彼女の筋力と速度はどちらもカンスト。彼女は更なる速さを手に入れていた。
倒れ伏す胴体。一拍を置いて頭が地面に落ちた。そのまま光の粒となって消えていく。
「しょ、勝者、シリル!」
勝負は5戦。俺達は幸先のいいスタートを切ったのだった。
「まだ安心出来ねえぜ。次の相手のネームってのは強さだけなら向こうで一番のアタッカーだ。最強のカードの1枚をまさかのここで切ってきやがった」
相手は大男だった。そしてその体以上に目立つでかいハンマー。見るからにゴリゴリの前衛だ。
「あのハンマーは命中時に重くなるって話だ。それも十分強いが、それよりヤベえのはもう1つのスキルだ。あいつな、バーサーカーなんだよ」
「それって理性が無い的な、あの?」
「そうだ。狂化を発動するとバフがかかって勝つか死ぬまで止まらなくなるバケモンになる。全部のステータスが☆2ずつ増えるらしい。デメリットを差し引いても破格の性能だ。勝つのは難しいぜ」
ゲッチーさんは神妙な面持ちでそう言った。
対してこちらから出るのはケムシン。スキルはもちろんいつものやつだ。
ゲッチーさんの心配をよそに、勝負はスタート。
ケムシンは初手切腹した。どよめく観衆。直後全身を鎧が覆った。そのままダッシュ。対戦相手目掛けてまっすぐ突撃する。
「ガアアアアアッ」
対戦相手が吼えた。向こうも初手で狂化を発動したらしい。間合いに入ったケムシンへとハンマーを振り下ろす。
「ウイニングボール!」
ケムシンは躊躇なく必殺技を放った。光り輝く球がハンマーとぶつかる。
自分が巻き込まれる事も厭わず放たれたその自爆攻撃は、対戦相手はおろか観戦していた周囲の転生者をも飲み込んだ。
「うああああ!?」
「ぎゃあああああっ!」
「ぐえええええ!」
転生者達の断末魔と共に、俺達は爆発に巻き込まれて教会で復活した。
全員同時に死亡、とはならず、
鎧の効果で無敵となっていたケムシンだけが遅れて復活したのだった。
「勝者、ケムシン!」
2連勝。俺達はストレート勝ちにリーチをかけたのだった。
「安心するのは早いぜ。次の相手のジュラジュレは防御系スキルを2つも持つ難攻不落のタンクだ。生半可な攻撃じゃ傷1つ付かねえぜ!」
試合会場に戻った俺達。ゲッチーさんは対戦相手を見てそう言った。
その話の通り、次の相手は鎧と盾という重装備の男だった。頭が出ているのが唯一の無防備ポイントか。
「顔を狙うのも簡単じゃないぜ。あの盾は正面の穴からジェットを出して相手を吹き飛ばしたりそのまま攻撃にも使う事が出来る。対抗手段が無いと近づく事すら出来ずに一方的にやられちまうぜ!」
なるほど、確かに強敵だな。
次は俺の番だからな。相手の情報は出来るだけ聞いておかないと。
「鎧には何か効果とかあるんでしょうか?」
「ダメージを半減するとかだった気がするな。ボスの攻撃にも大抵は耐えるぜ」
ふむふむ、大体分かった。審判に呼ばれた俺は大斧を召喚して前に出た。
いやほんと、ごめん。先に謝っておくがまともな勝負にはならないと思う。
斧をセットして来たのは保険だ。相手が無効化とかのスキルを持ってた場合のための予備である。本命はもう1つのスキルだ。
「それでは、デュエル開始!」
審判の号令と共に、俺は手のひらを相手に向けこう言い放った。
「ショートケーキ!」
収まりきらなかったクリームが相手の口から溢れ出す。それだけじゃない。鼻からも盛大に噴き出した。
「バフッ!?」
それと同時に降りかかる神罰。相手は久しぶりであろう甘味を味わう暇も無く落雷で即死した。
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・独りよがりなパティシエ(ランク1)
対象1体の口の中に任意のケーキを召喚する。
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正直言って、このスキルがある限り転生者相手に負ける気はしない。
「しょ、勝者、ミョンチー!」
俺は悠々と仲間の元に戻ったのだった。




