第105話 ホスディアとバーバラの婚約
祝いの装飾が施された教会に曲が流れていた。様々な楽器が音色を響かせ、混然一体となって1つのメロディーを奏でている。マオによる多彩な奏者をフルに使っての演出だ。
そのメロディの中、クソ神父の前でホスディアとバーバラさんが向かい合っていた。黒いタキシードと白いドレス。クソ神父が用意したものだが、とても良く似合っていた。
「ホスディア殿、あなたはバーバラ殿と来世で結ばれる事を望み、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しき時も、共に助け合い、愛する事を誓いますか?」
「ああ、もちろんだ」
「バーバラ殿、あなたはホスディア殿と来世で結ばれる事を望み、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しき時も、共に助け合い、愛する事を誓いますか?」
「はいなのじゃ」
「では婚約指輪の交換を。まずホスディア殿からどうぞですじゃ」
指輪を受け取ったホスディアが膝をついた。高身長の彼と幼女のバーバラさんの目線が同じ高さで交わる。差し出された薬指にリングが嵌められた。
「では次はバーバラ殿ですぞ」
「のじゃ」
今度はホスディアに指輪が嵌められた。珍しく笑顔をこぼすホスディア。
「のう、ホスディア。ワシ、まるで夢を見とるようじゃ」
「信じられないか?」
「うむ。ホスディアとこんな関係になれるとは、初めて会った時には思っておらなんだ」
「俺もだ。でも、お前とこうなれて良かったと、今ではそう思っている」
「ワシの好き好きアピールで悩殺してしもうたかの?」
「ああ、お前のセクハラに完全にやられてしまったよ」
「なら仕方ないのう。責任を取らないとなのじゃ」
「プロポーズしたのは俺からだろう」
「そうだったのじゃ」
そう言葉を交わす2人。見てるだけで砂糖を吐きそうなイチャ付きぶりに参列者が沸いた。
「抱けー!」
「チューしろ―!」
いやいや、そんな事したら神罰食らうだろ、と思ってたら……
「では誓いのキスを」
クソ神父までそんなことを言い出した。さすがに動揺する一同。
「クソ神父、さすがに祝いの場で感電死するのは……」
「安心なされ。これは神前の儀式。お2人の誓いが真実であれば、今この時だけは神も祝福しましょうぞ。さあさあ、遠慮せず、グイッと」
「グイッととは何だグイッととは。飲み会の一気飲みのノリで言うなクソ神父!」
ひでえ。雰囲気ぶち壊しだ。ホスディアですら突っ込みを入れるレベル。
「ホスディア……」
バーバラさんが愛する者の名を呼んだ。目を閉じ、少し顎を上げて相手を待つ。式をそのまま続行する気だ。覚悟を決めたのかホスディアも顔を近づける。曲が止まり、2人だけの時間となった。
「バーバラ、愛してる」
ゆっくりと、唇が触れ合った。
突如雷鳴が轟く、という事は無く、
ファンファーレと共に盛大な拍手が響き渡った。
事前に申し合わせていた訳では無い。誰かが先導した訳でも無い。気が付いたら、参列者全員で拍手をしていた。
婚約指輪が赤く光った。糸状に形を変えた2つの指輪が空中で結び合わさり、2人の指をつないで消えた。指輪がはまっていた薬指に残ったのは、赤い印。
「今、神の祝福の元に2人は運命の赤い糸で結ばれましたぞ。今一度、大きな拍手を!」
教会は再び拍手で包まれ、
「ホスディア、ワシも愛しとるよ。今、すっごく幸せなのじゃ」
バーバラさんの満面の笑みと共に、婚約式は無事成功したのだった。
「どうやらうまくいったみたいですね」
まだ拍手が鳴りやまぬ中、受付に1人の転生者が訪れた。そいつを見て顔をしかめる俺。
イベントぶりの再会だ。俺とマオにとっての宿敵である。
「ケロンチョ、何しに来たんだよ」
説明会の時も今回も、全然見かけないと思ったら今になって来やがった。どういうつもりだ?
「それはもちろん、ホスディアさんを祝いに来たんですよ」
……なんで?
「そう警戒しないで下さい。彼とは多少の付き合いがありましてね。様子を見に来ただけなのでもう帰りますよ。参列しても迷惑になるだけしょうし。なので私が来たというのは秘密にしておいて下さい」
怪しい。めっちゃ胡散臭い。
「本当に祝いに来ただけなんですがね」
顔に出てたのだろう。ケロンチョが肩をすくめた。
「それにしてもミョンチーさん、随分と活躍されているそうですね。新人の世話に、ボスの能力の解析に、あとは純粋な戦闘員としてですか。ギルドへの貢献度で言ったらトップクラスと聞いてますよ」
「ずいぶん詳しいな」
「望めばすぐにでも自分のボスに挑戦させてもらえるのに、未だにそれをしていない。不思議だなと思いまして」
「誰かさんがマオを狙ってるからな。安心して転生できねーんだよ」
「なるほど、やはりそうでしたか。どこまでも私の邪魔をするんですね」
ケロンチョの声が低くなった。だが意外にも、その表情に敵意は感じられなかった。落ち込んでいる、というのが俺の印象だった。
「私は今でも転生したいと思ってます。このクソみたいな世界からさっさと抜け出したい。そう思うのはいけない事ですか? あなたにそれを邪魔する権利があるとでも?」
「俺は別にお前の邪魔をしたいんじゃねえ。マオを助けたいだけだ」
「同じじゃないですか」
こいつにどんな過去があるかは知らん。転生して何をしたいのかも知らん。
俺はこいつが嫌いだ。でも、こいつも他と同じ転生者の1人に過ぎない。お前だけは転生するなとは俺には言えなかった。
隠しダンジョンの時も思ったけど、俺ってお人好しなのだろうか。
「舐めんなよ……。俺はお前とは違う。簡単にどっちかを切り捨てるなんて方法は選ばねえ! マオを助けてお前も転生できる方法を見つけてやる! 俺は優柔不断だからなあ!」
「ええ……」
「お前がマオを狙うなら邪魔してやるし、お前が転生を諦めて消えようとしたらそれも邪魔してやる!」
俺は啖呵を切った。これは自分自身への決意表明だ。無謀だろうが何だろうが関係ねえ。
「マオのついでにお前も助けてやる! それまで俺は転生しねえ! 覚えとけ!」
勢いに任せてとはいえ、我ながら無茶な事を言ってしまった思う。ダンジョン消失の原因はいまだに不明だ。マオ救出の目途も立ってない。それどころかボスを倒さず転生する方法など無いかもしれないのに。
だが先に言っておこう。これは、俺が転生するまでの物語だ。
3人の目的まとめ
ホスディア
・ギルドを設立する(済)
・転生について詳細を聞き出す(済)
・バーバラと添い遂げる方法を探す(済)
・ギルドを立て直す(済?)
・転生する
ミョンチー
・ギルドの中核メンバーになる(済)
・マオをダンジョンから脱出させる
・ケロンチョをなんとかする(new!)
・転生して料理人になる
ケロンチョ
・ミョンチーを排除する(失敗)
・ギルドを乗っ取る
・転生する




