第104話 婚約システム
説明会の翌晩、ギルドで幹部会議が行われた。
ホスディアは最初に、幹部1人1人に転生するかどうか確認していった。
「この世界でまだやりたい事があってさ。それが終わったら転生するよ。まだしばらく先になると思う」
俺はそう自分の考えを伝えた。
「では次、ケムシンさんはどうするっスか?」
「俺はこの世界に残るわ。そんで、残る人らの居場所作りを出来ればって思っとる。案としては仕事の斡旋とかやな。今でもクエストで労働しとるし」
「なるほどっス。ゲッチーさんはどうするっスか?」
当然ながら、答えは人それぞれだ。
鉄球使いのゲッチーさんは判断を保留。以前リーダーを務めていたパーティーの仲間達と相談してから決めるそうだ。
火葬研のリーダーだったメイラさんは女性転生者を今後も助けるためこの世界に残るそうだ。
ネオ元祖転生前夜のリーダーだったタッセルさんも残ると表明した。ギルドの運営に携わり続けるつもりだそうだ。
そして肝心のホスディア達はというと、
「俺は転生するつもりだ。この世界は小さすぎる。出来る事はすぐにやりつくしてしまうだろう。それがこの世界での限界だ。その後は停滞しか残らん。だから転生する」
「社長が転生するなら私も転生するっス。社長が作る会社で働きたいっスから」
「ワシも転生するのじゃ。この世界では出来ない事があるからのう。すなわちセックs」
ピシャーン、ゴロゴロ。
バーバラさんは神罰を受け退場となった。ホスディアのため息がそれに続いた。
「バーバラにはもう伝えてあるからこのまま進めるが、ギルドに居残り支援部門を作ろうと思っている」
そのままホスディアは方針を説明した。
「ケムシンの案とほとんど同じだ。居残り組にはクエストやボス討伐の戦力を担ってもらう。役割を与える事で社会的欲求を満たせる環境を作り、精神面のケアとして機能させる」
だがそれに反論する者が居た。タッセルさんである。
「でもよ、ギルマス。今日様子見て回ったけど、あいつらやる気無くしちまってるぜ? 今日ギルドの活動に参加したの半分も居なかったじゃねーか。それもほとんどが護衛に持ってかれたしよ。どうすんだよ」
もっともな指摘だと思う。俺もそこは心配だった。それを予想していたのか、ホスディアは即座に対応策を語った。
「皆を奮い立たせるためのパフォーマンスが必要だろう。転生を目指すモチベーションを復活させる。残る者も今一度ギルドで拾い上げ、ギルドの活動を最盛期の状態に戻す」
「パフォーマンスって、ギルマス、何する気だよ」
「今後も転生を目指す者が居る事をアピールし、迷っている者が追従するきっかけを作る。クソ神父が言っていただろう。俺達が来世のために出来る事を。その2つ目をやる。バーバラも俺の申し出を受けてくれた」
「2つ目って、まさかやっちまうのか!? ギルマスと姉御で? あれを!?」
マジかよ、というのが俺の感想だ。
俺は思わずシリルさんの方を見た。その顔に驚きは無かった。事前に聞いていたのだろう。
良いのか? シリルさんはそれで。
「鉄は熱い内に打つに限る。明日準備して明後日決行だ。クソ神父にもそう申し込んである」
手際が良いな。それだけホスディアも本気という事か。まさかバーバラさんととは思わなかったが。
「正直に言おう。半分は私情だ。だが来世への希望を示すこれ以上ない方法だ。お前達も手伝ってほしい」
ホスディアは珍しく頭を下げたのだった。
クソ神父は言っていた。来世をどうこうするための2つ目の方法を。だがそれはごく限られた奴らのための仕組みだった。
確かにこの仕組みが無い事で転生を拒否する奴らは居るかもしれない。これを用意した神はロマンチストに違いない。
その仕組みを使った2人は、来世で結ばれる運命となる。
その仕組みの名は、婚約システム。
ホスディアとバーバラさんで、それを使うのだ。
2日後、教会にて。
ギルドから通達を行うという名目で、俺達は転生者を集める事に成功していた。
「改めて言おう。ギルドは転生者の互助会だ! 転生を目指す者も残る者もどちらも受け入れる!」
中ではホスディアが演説していた。俺は出口に設置された受付席からそれを聞いていた。例によって多彩な奏者での拡声も担当している。
「判断はそれぞれだ。俺は、ギルドはそれを否定しない! 迷っている者も否定しない! 判断を保留する事も立派な選択肢だ!」
ホスディアって何かと演説するよなと思ってたが、なるほど、迷ってる奴を自分の陣営に引き込むためか。
心なしか転生者達の顔色が良くなった気がする。結論を出せずに居た奴も多いのだろう。その事を肯定されたのだ。そりゃ気が軽くなるだろう。
「ギルドの活動自体は大きくは変わらない。だがその目的は見直す。ギルドは転生者の居場所であるという理念の元にこれからは運営される! 1人1人が充実感を持って暮らせる環境を作り、心身ともに豊かに過ごせるようにしたい!」
演説は続く。感情に寄り添い、仲間意識を芽生えさせ、方針を共有し、何をすれば良いかを理解させていく。
サクラは用意していない。だがホスディアへの同意の声が上がり始めた。
「とはいえ不安が解消されない者も居るだろう。迷っている者も居るだろう。転生したら今の自分が無くなると知り、転生する意味はあるのか分からなくなった者も居るだろう。
あえて断言しよう。転生には希望がある! やりたい事も出来ずにこの世界で過ごすくらいならと転生を目指す事は、決して間違いではない! それも道の1つだ!」
そろそろだな、と思ってたら離席していたシリルさんが戻ってきた。バーバラさんの着付けが終わったようだ。
「なんとか間に合ったっス。いやー、ドレスって着るのも着せるのも初めてだったんで手こずっちゃったっス」
あっけらかんとそう言うシリルさん。明るく振る舞ってはいるが、どこか無理しているように感じた。
「シリルさんは、これで良かったんですか?」
「……良いんス。バーバラ先輩なら納得できるっス。お似合いっスもん」
シリルさんは少し腫れた目で、それでも笑顔でそう言ったのだった。
「俺は転生する! 来世に希望を持って転生する! その事をこれから証明する! クソ神父、司会任せた!」
舞台裏に引っ込むホスディア。急いで着替えだ。その間にケムシン達が教会内の飾りつけを急行。通り道に白いカーペットが敷かれ、花が並べられていく。
何が始まるのか知らされておらずザワつく転生者達。
準備を終えたケムシン達と入れ替わるように、いつもより豪華な礼装を身に着けたクソ神父が前に立った。
「ではこれより、ホスディア殿とバーバラ殿の婚約式を始めまする。皆様、どうか温かい気持ちで祝って差し上げるようお願いしますぞ」
そうして教会内が驚きで包まれる中、婚約式はスタートしたのだった。




