後押しの言葉
宗馬は知りたくなった、これまで仕事に打ち込みプライベートも幼い時の記憶も後回しにして生きてきた人生に変化が訪れているこの最近
黒一をきっかけに紫音さんとの交流、離れて長くなる親との久しいやり取り、目の前の仕事から距離を取れるようになり見えてきた日常
今更かもしれないが今だから動き知るべきだろう
宗馬は静かに決意していた
三度目の追憶を辿り後一歩の気はしている
ただそこからが更に覚悟を要しそうな予感がするのである
(大事な出来事だけど思い出せない…思い出したくない事?)
いくら考えても答えは出せず気分は沈んでいく
そんな時横に置いてあったスマホの画面が点りメッセージを受信している
「宗馬さん近々にご飯に行きませんか?こないだ来てくれたお礼もしたいですし」
紫音さんからだった
(思い切って相談してみるか…)
クリスマスの空気を纏い街の色が赤と緑を基調にしたライトが出始めた十二月
宗馬と紫音は駅前で待ち合わせあらかじめ予約しておいた個室居酒屋に来ていた
「あの紫音さん、こんな所で良かったんですか?」
「うふふ、私結構好きですよ居酒屋さんのメニュー」
フレンチの店を切り盛りする紫音さんが希望したのが居酒屋なのは意外であったが、洒落た店に経験少ない宗馬にとってはありがたい話だ
とりあえずの一杯を頼み乾杯をする
「悟さんのご様子はどうですか?こないだ元気そうで何よりでしたが」
「おかげさまで父は元気に、お酒も減らして調子良いですよ!」
「それは良かった!母とお邪魔した時はありがとうございました、母もすっかり気に入ったようで」
「あら、嬉しいです!お母様も来ると聞いた時は驚きましたが選んで頂いてありがたい限りです」
二人で談笑し、お酒を追加したところで宗馬は悩んでる事をポツポツ言い始めた
「紫音さんなら、忘れていたい過去を思い出すとしたらどんな気分ですか?」
「忘れていたい過去ですか…蘇ってしまっても過去は変わらないと割り切って前を向くかなぁ…」
「そうですよね、前向くしか出来ないですもんね…」
「宗馬さん何か思い出した過去があるんですか?」
「そうですね、思い出しそうといったところか蓋してた物が開く手前と言うか、怖い物みたさもあるかもです」
「怖い物見たさ…確かにわからなくはないですね、でも囚われすぎたらダメですよ?心壊れたら悲しいです」
「そうですよね…縛られちゃうのもダメですもんね」
「それでも受け入れるのは有りかなとは思います、受け入れてそれも自分の一つだ!ってカッコつけず前向くのは素敵な事だと思います」
受け入れて前を向いていく、確かにシンプルだけど最終的に行き着く姿勢だろう
「…そうですよね、すいません変な事聞いて」
「大丈夫ですよ!宗馬さんは優しいが強くて背負う性格だと思います、だから少し力を抜くのが良いんじゃないでしょうか」
明るくはっきり言ってくれる紫音さんに相談して心が晴れる
やはり良かった話してみて
「紫音さんのお店は繁忙期になるんじゃ?」
「そうですね来週くらいから年末までノンストップになるでしょうね〜」
「今日は本格的に忙しくなる前に息抜きですか」
「ええ!毎年父に相手して貰いましたが今年は身体が流石に…でも宗馬さんがお付き合いしてくれて元気出ましたよ!」
「それは良かった、僕でよければいつでもお相手になりますので!繁忙期過ぎたら会いに行きますよ」
「あら嬉しい!乗り切りますよ〜!」
結構お酒が入っている紫音さんは輪をかけて明るくなるんだな
そんな元気に溢れた彼女の光を少し分けて貰えた気分になった
紫音さんとの飲み会翌日、宗馬は昨夜の話を思い出す
「受け入れて前を向く」
それだけだ…宗馬は黒一から貰った追憶の飴を口にした
すぐに多幸感が押し寄せて来て睡魔が現れる
四度目ともなれば、この後は宙に浮いた自分が過去を見ていくのはわかっていた
宗馬は抗う事なく夢に落ちていった




