至福の料理
良いお店のランチメニューは少し迷う
どれを選んだとしても当たりだろうから余計に迷う
どうやら母親も同じようで相談してくる
「どれがオススメなの?」
「いや、俺も前回はコースだったから迷ってる」
「あんたそんな良い物食べたの?」
責められて困りそうな事になろうかと言う時、紫音さんがオススメを説明してくれた
「今日のメニューですと、お肉でしたらこちらのパイ包みフィレステーキが、お魚でしたらこちらの金目鯛の姿蒸しが仕入れ立てでオススメですしシェアもできますのでご参考に」
サラッと説明してくれて助かり、せっかくなのでそれを注文する
「楽しみね」
「ああ、味は間違いないよ」
「ねえ宗馬」
「何?」
「あんた紫音さんと良い感じなの?」
危うく水を溢しそうになり堪える、いきなり何を言うんだ
「何驚いてんのよ、何年も女性の縁が無かったのに突然あんなしっかりしてる綺麗な方出て来たら勘繰るわよ」
「そりゃ縁あってお知り合いだけどそう言う縁じゃなきてな…」
「ふーん、まあ良いわ後で紫音さんに聞いて見ましょ」
「勘弁してくれよ…」
結局、根掘り葉掘り聞かれる前に出会いの経緯とこれまでに至る流れを話した
紫音さんのお父さん、悟さんを助けた事
日が経ちお礼の為にこの店に招待された事
快気祝いの贈り物選び中、偶然紫音さんと会い二人で選んだ事
これらを話しそれ以外は無いと口を閉じた
「は〜あんた近くに居て良かったわね、軽いとは言え脳梗塞は怖いわよ」
「だと思うよ、でもあれからリハビリして復帰されてるの凄い頑張られたと思う」
「いえいえ、私がまた料理出来てるのは間違いなく桐生さんのおかげですよ」
背後から声がして振り向くと、料理のお皿を持った店のオーナー悟さんの姿があった
「こちら牛フィレ肉のパイ包みでございます、こちらは金目鯛の姿蒸しでございます」
「ありがとうございます月島さん自ら」
「紫音から桐生さんがお母様と来られたと聞いてね、ご挨拶をと」
「宗馬の母でございます、以前に息子が大変良い物をご馳走になったようで」
「オーナーシェフの月島でございます、息子さんの宗馬さんには命を助けて頂き感謝の言葉がありません」
二人揃って深々お辞儀してる中で、宗馬はどうするのが正解かわからずオロオロしていた
それを紫音さんに見られ笑われる
「ささ、冷めない内にお召し上がり下さい、腕を振いましたので!一度失礼します」
挨拶もそこそこに頂く事にした
フレンチの技術と言うか料理の技術と言うものを深くは理解していない
だが確かに分かるのは「美味いと思わせる作品を安定して出せる」と言う事だろうか
宗馬は前回もてなしを受けたフレンチのコースに感銘を受けた程だからこそ、母親を連れて来たのだ
そして今回も感銘を受けている、親子揃って
「うっま…柔らかいし香りが凄い」
「本当に美味しいわね…お魚ふっくらで馴染みない味付けのはずなのに止まらないわ」
コースと違ってランチメニューとして一皿メニューになる分前回よりボリューミーに感じる
やはりコースの一皿は種類がある分少なめなんだろうか、ランチメニューは全然違う
若者がとにかく量を詰めるのとは違い、ゆったり味を楽しめる時間がある
「大人になった風に見えるかな?」
「息子ながら見えちゃうわね、お昼だけどワイン頂いても良い?」
我慢できないとばかりに紫音さんにオススメワインを聞いている
結局グラスで赤白一つずつ、名前は聞いてもわからないが今の料理に合わせたワインを持って来て貰った
それがまた料理と調和して満足度を引き上げている
母の顔を見れば息を吐いて幸せモードだ
「同窓会は立食パーティだったんだけど昔話がメインだから食べた気してなかったのよ、美味しかったけどね」
母は笑いながら今回は自身の小中学校合同で人数もいたし、やはり皆変わってるから話メインになってしまうもんだと語る
「あんたももう少ししたら案内来るんじゃない?」
「同窓会ねぇ…」
特に深く友誼を結んだ友はおらず、ふんわりと皆で遊んでいた記憶くらいしかない
自身の進学上京も珍しい目でみられていたのだから覚えてる名前や顔も怪しい
「まああんたは状況的に実家側帰って来て都会の話する事になるんでしょうけどね」
実家は田舎だ、皆家業を継いだり都合としたりで近場で会うのが多いだろう
自分もそんな同窓会あれば実家に戻るんだろうな
宗馬はそう考えていた
しばらく団欒しながら素晴らしい料理に舌鼓を打って、気付けば食べ終えてしまった
「完食して頂き嬉しいですわ!もう少しお待ち下さいね」
紫音さんが空の皿を下げまた戻ってきた
「こちらは自家製ティラミスとコーヒーです、お二人様にサービスとの事でシェフから」
何から何まで申し訳ない事だ、帰り際に挨拶しなければ
お礼を言い軽く雑談して紫音さんが離れた後だった
「やっぱあんた紫音さんと良い感じよ」
コーヒーを吹きそうになる
ニコニコと良いもん見たわと言わんばかりの笑顔に、反応が困る
「ちゃんと年相応の男になっててお母さんは嬉しいわよ」
顔が赤くなってるのはワインのせいじゃないのはわかっている
「ありがとうね、連れて来てくれて安心したわ」
母親も数年に一度、下手したら数十年ぶりなので息子を心配しといたのだろう
約半年前までは疲れ果ててたが、今この姿を見せれたのは心身が癒されて活力があるからだろう
(黒一にも感謝だな…)
宗馬は劇的に変わり動き出した黒一との出会いから今までを思い返していた




