おもてなし
二人で贈り物を買い、宗馬は着替えに月島さんも店の準備ということで一旦解散をした
自宅に戻る道のり、ぼんやりと宗馬は考えていた
あんな買い物で楽しんだのはいつぶりだろう
聞こえた鈴の音はなんだったんだろう
帰ったら着替えて駅前で月島さんと再会
そのままお店でもてなされる
「濃い一日だな」
フッと笑い預かった贈り物を見て両親を思い出す
(母さんは今月末来るし父さんには年末年始実家かな、いや…その前に次の満月か)
満月の夜、黒一は来る
前回はこれまでに無い癒しであったし、黒一の感情が少し溢れ出したような夜だった
それに夢の遡りから遠く忘れてたあの小雨の中で抱えた子猫と幼き自分
本当に色々起きて人生の密度が濃くなった半年
四十代になってこんな体験するとは思わなかった
でも悪いモノではないと感じている
宗馬にもたらしている現象は非現実的だが現実に関わっている
このままで良いのか、それとも突き止めるべきなのか
宗馬には胸の奥にチクリと刺す棘がある事を自覚していた
帰宅した宗馬はスーツに袖を通し全身をチェックしていた
(うーむ…そう言えば服装について聞き忘れたな)
以前に月島さんからは父の個人店なので気にせずにと言われたが、さすがに四十代になって下手な事も出来ないだろう
スーツ自体はフォーマル、カジュアルと数着あるがどちらに寄せるかで悩む
店の価格帯を聞くのも失礼な気がするし、だがフレンチと聞けば格式みたいなものがあるのだろうか
宗馬はプレゼント選び同様ここでも自身の経験の少なさを憂いた
(まあ、フォーマルにしとくか、言ってもそこまで高いスーツでも無いし)
足掻くのをやめてスーツを取り出した
待ち合わせの時間まではまだ三十分あるが駅に着いて忘れ物が無いか確認していれば声が掛かった
「桐生さん」
顔を上げると月島さんが目の前だった
「あれ?月島さんこんな早くに?」
「桐生さんもですよ!お互い早く来ちゃいましたね」
二人で笑いながら折角だし移動することにした
「父もソワソワしてましたので丁度良かったですね」
上品にでも可愛らしく笑う月島さんを見て宗馬は少し肩の力が抜ける
「なんだか少し緊張してましたね」
どうやら緊張感も見透かされていたようで恥ずかしい
たわいない話をしながら電車で二駅、お店は地域では大きな部類に入る駅前のビルテナントに入っているらしい
「あちらに見えるビルの中です」
指されたビルは新しいめのビルで最近まで全体改装してたらしく綺麗に見えるが実際は歴史あるビルだとか
宗馬は緊張が高まりだす
様々な店が入るビルの中だが、どこも大人向けな雰囲気を醸し出している
「こちらです」
緊張はピークに達した
辿り着いた店の雰囲気はなかなかの名店でないだろうかと感じ、扉が重厚感ある木で出来ているのもまた趣と存在感を示している
間違いなく一人でふらっと寄る飲み場所じゃないなと笑ってしまう
「さあどうぞリラックスして、貸切ですので」
「えぇ!?」
まさかの貸切にまでしてくれてるとは思わず変な声が出る
そんな宗馬に月島さんは笑顔のまま扉を開けて中に声を掛ける
「お父さん、お連れしたよ」
店からコックコートを着た年配の男性が現れ深々とお辞儀された
「桐生さん、お越し頂き誠に有難うございます、そして私を救って頂き本当に感謝しております!」
「私からも改めて、ありがとうございます」
親子二人に感謝を述べられ宗馬はアワアワとしてしまいながら必死に返した
「ご退院おめでとうございます、そしてお招き頂きありがとうございます」
人生で一番丁寧にお辞儀をしたかもしれない時だった




