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黒一の恩返し  作者: かずや


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母の予定

 十月に入り母親から連絡があった

「今度お母さん宗馬の家見に行くから」

 いきなりの訪問宣言である

 上京時の家からは数年前に引っ越して現在の家に居るが親は来た事が無い

 そもそも何故こんな突然に?

「母さんどうしたのいきなり?父さんは?」

「中学時代の同窓会がそっちであるのよ、お父さんはお留守番」

「中学時代?母さん出身こっちだっけ?」

「違うわよ、でも今は皆結構全国に散らばっててね、折角なら都会で集まりましょうかってなったら宗馬の住む近くだったのよ」

 なるほど、歳がいくと集まるのも大掛かりなんだな

 どこか他人事のように考えていたが、ふと疑問が出てくる

「母さん、日帰り?」

「そんなわけないでしょ泊まるわよ」

「どこに」

「あんたの家…とは言えないからホテル取るわよ」

 一瞬血の気が引きそうになるが笑いながら計画されてる事を告げられ肩を撫で下ろす

 もし黒一が訪ねてきたりしたら説明出来ない

 月一の訪問とは言え黒一は突然現れるからブッキングは無いと言いきれないのだ

「家来るのはいつ?」

「えっと〜今月の二十八日のお昼ぐらいになりそうね、帰りの新幹線あるから夜までは居れないけど」

 (月島さんの店お呼ばれは今月中盤だし仕事調整すれば迎えれるか)

 宗馬はサッとスケジュール確認して母に返す

「じゃあ二十八日調整して迎えに行くよ」

「助かるわ、また向かう時連絡入れるわね」


 急遽入った予定ではあるが許容内だろう、母親が家にお泊まりなんて事にならずに良かった

 散らかしてる訳じゃないが黒一の事もあるし、何より気恥ずかしいのが強いのだ

 宗馬は自室を眺めながら「掃除もう少ししとくか」と呟いた


 ある日宗馬は仕事の納期に追われて残業をしていた

 宗馬自身これまでは目の前に来た仕事をこなしていくスタイルで自分の事は後に回すスタイルであった

 黒一に出会い体力精神力が安定した今は無茶をしないように、また何かしらのトラブルはモヤが掛かる事で先処理出来ていた

 今回の残業は決まった日時に流す仕事なので致し方無い事であったが以前は何も感じずやっていたのだろう

 今は違う、人生を振り返った夢を見てから目の前の事が処理されればその先に余裕が生まれプライベートを考える事が出来ている

「ここを抜けたら月島さんからのお呼ばれ会だな、頑張るか」

 宗馬は先にある楽しみの為に今を詰めていた

 しばらくパソコンに集中していたが少し疲れを感じる、後少しで区切りだが休憩を挟む為カバンを探った

 (あ、そういえばあれっきりだったな)

 薄紫の巾着を手に考え込む

 黒一から貰った巾着袋には様々な色の飴が入ってる

 口寂しい今糖分も取れるが……

「これ食べたら眠ってしまう可能性あるよな…」

 前回始めて食べた時に広がった甘さ、安心感、幸福感

 これらが宗馬の意識を沈めて人生を遡る夢まで見たのだ

 今の残業中はまずいか?と葛藤していた時、同じく残業中であった同僚がやってきた

「桐生〜おわんねーよー、何だそのお婆ちゃんの袋みたいなの?」

「ん?ああ…飴だ」

「凄いのに入れてるな、一個頂戴よ〜甘味が欲しい」

 宗馬は迷った、この飴が毒って事は無いだろうが不思議体験してこの場で同僚は眠ってしまうかもしれない

 返事に困りどうするか悩んでいると

「貰い!……おーなんかお上品で良いとこの飴か?美味いじゃん」

 止める間もなく一つ食べてしまった、大丈夫だろうか?

「んじゃラストスパート頑張ろうぜ〜」

 そう言って自席へもどってしまった

 まあもう食べたならどうしようもない、ただ宗馬は念の為に帰ってから食べる事にした


 なんとか目処が付き時間もまだまだ終電まである

「今回は早く片付いて助かったか」

 ノビをしながら宗馬は先程の飴を食べた同僚を覗く

「ん?どうした?終わったのか?」

「ああ、帰るぞ…お前はその…なんか変な事起こってないか?」

 聞き方に迷いながら状態を探る、どうやら今は何も起きてない様子だが

「俺は終わりきらないし明日に回すわ、まああと少しだけどな帰ろう帰ろう」

 問題は無さそうで帰り支度をして社内の施錠を済ます

 同僚と駅で別れ自宅に向かう道を空に浮かぶ満月眺めながら帰宅して行った

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