満月の甘えと癒し
時刻は二十三時になっていた、夜を食べ損ねていたので軽く食べるかと思った時だった
ピンポン
こんな時間、以前は九月の中秋の名月だったか
もう一ヶ月経つのか
宗馬は冷静であり色々な事を考えながらモニターを見た
「恩返しに参りました」
黒一がいつものように微笑み立っている
そう、いつものように姿は何も変わらず彼女は時が動いていないのではと思う程に…
宗馬は玄関を開け黒一を迎え入れた
そういえば家に来るのは久しぶりだな前回、前々回と外で会った為三ヶ月ぶりとなるのか
この黒一が初めて恩返しに来て出会いもう半年近いが、人生の密度が濃くなった気はする
彼女は変わらず微笑んでいるが、月に一度僅かな時間しか会ってないのに心から離す事が出来ない怪しくも美しい魅力すら感じている
今日も吸い込まれるのだろう綺麗な宝石のような瞳に見つめられて
「宗馬様、いかがなされましたか?」
対面に座る宗馬の顔に笑みが溢れていたのだ、不思議に思われるのも仕方ない
「いや、なんだかんだ黒一が現れるのも慣れてきたなと」
「あら、そうですか嬉しゅうございます」
軽いやり取りにお互い笑ってしまった
人ではない存在だと言った黒一だが害を与えられる事は無いし、むしろ癒しをくれたり生活に役立つ能力を開花させてくれたり
考えればメリットだらけではある
初めから美人だと思ってはいたし少し不思議で静かなだけでなんら問題は無いとさえ思えてる
「黒一は前に人でないと言った、じゃあ何者なんだ?」
宗馬はふと聞いてみた
黒一は少し考える素振りを見せたが、すぐに向き直し笑みを浮かべながら答えた
「人の形をしていますが人に成らざる者、ただ私は私でございます」
「答えになってるようなならないような言い方だな」
「良いのです、私は宗馬様への恩返しに来ているだけの存在でありそれ以外に意味はもうありません」
黒一は引っ掛かる言い方をした
それ以外に意味はない
どういう意味なのか答えが見えず黒一を見つめていると黒一は立ち上がり動き出す
静かに横に寄ってきて少し見つめられた後…
「ふふっありがとうございます」
お礼を言われたと思ったら静かにゆっくりと黒一の頭が下がり宗馬の腿に頭を乗せて膝枕の形になった
「なっ!黒一!?」
さすがに人じゃないと言われながらも外見はとんでもない美少女だ、女性を膝枕するなんて夢にも思ってなかった
「うふふ、宗馬様が私を知ろうとして下さった事が嬉しいのです」
すりすりと頭を擦り付けながら黒一は小さな声で言う
宗馬は固まりから徐々に解けて嬉しいと言った黒一を見ながら若干の寂しさがあるのか?と感じていた
「黒一は何で一ヶ月に一回満月の夜に来るんだ」
宗馬自身確証は無かった、しかし殆ど一ヶ月スパンで一回しか来ない
そして九月にもしやと思ったのが中秋の名月の時、満月であったあの日からほぼ一ヶ月の今日も満月だった
「少し驚きました、満月に気付いていたのですね」
「もしかしたらってな、あくまで推測だったがそうなんだな」
黒一の顔は腿に乗せられたまま向こう側を向いているので表情が読みにくい
ただなんとなく嬉しそうだ
「ふふ、少し欲が湧いて参りました」
「欲?」
「頭を撫でてくださいませ」
宗馬はピシッと体を固めた
何がそうさせようと思ったのか黒一はそう言って撫でられ待ちになってる
少し葛藤したが小さな頭に漂う甘い香り、一本一本が艶々な髪に抗えず静かに黒一の頭を撫でた
「…」
「…」
互いに無言のまま髪を撫でさせる女、撫でる男
(なんか猫みたいだな…)
優しく優しく愛でるように撫でていた
長い事撫でたと思ったが実際には五分も経ってなかったようだ
「次は私が」
「んん?」
真意を聞かぬまま反応できぬまま…
黒一は起き上がり宗馬の膝を跨ぐように乗りしっかり頭を胸元へ寄せられて頭を撫でられる
(これは…落ち着くが…甘い香りが…柔らかい…)
黒一に頭を撫でられながらもふんわりと上半身が包まれ至福だが良くない気もする
「今日は特に知ろうとしてありがとうございます、恩返し致します」
宗馬は少しずつ意識が遠くなり眠気が押し寄せてきた
完全に眠りに落ちるまで時間はかからなかった
最後の最後で何か柔らかなものが頬に押し付けられたような気がした
「…朝」
宗馬は目覚めと共に悶えそうになるのを堪えた
(なんか凄い体験してしまった)
昨夜の黒一との時間はこれまでとは違った踏み込んだものであった
さすがに夢とは思えないリアリティ、なんならソファに座ったままで起きたのだから
(跨がれて抱き寄せられ頭撫でられ)
癒しの時間だった
でもあんな風にされるとは思ってもおらず、手玉に取られた感がありちょっと負けた気がしてる
(黒一の頭も撫でるとはな…)
サラサラの漆黒の何より手触りが良かった髪と小さな可愛らしい頭を思い出してしまう
「いかん、シャワー浴びよう」
誰に言うでなく宗馬は脱衣所へ向かった




