人と呼ばれないモノ
「…今日は外なんだな」
「ええ月が綺麗でしたので」
ふっと柔らかく黒一が笑う
なんて顔をするんだろう、あまりにも綺麗すぎて言葉を無くして見惚れてしまう
「……家、来るか?」
こんな道端で意識を飛ばされるのはシャレにならない
しかし黒一の返答は意外なものだった
「いいえ、今宵はお話させていただきます」
これまではぐらかし続け核心に迫れない状態だったのに何故いきなり?
宗馬は少し困惑したが話をするつもりなら何かわかるかもしれない
だが……
「ここで良いのか?人通り少ないとは言えその…目立つ格好で大丈夫なのか?店とかでも良いぞ」
「明るすぎる騒がしい所は苦手なので、この月明かりの下が落ち着きますゆえ」
どうやらどこにも行く気は無いらしい
それなら仕方ない
「話をするって俺が聞いた事に答えてくれるのか?」
黒一は微笑み言った
「それは宗馬様次第でございますよ」
どこかはっきりしないが逃げる気は無いらしい
「そうか…黒一、君は人なのか?」
色々考え込んではいたが一番の根っこはこの質問だった
現実離れした出来事が続いて不思議な能力もある
オカルト的な事だとしても真剣に聞いておきたかった
黒一は宗馬の言葉を受け僅かに悲しげな表情をしたが、すぐに微笑みを戻しはっきりと答えた
「いいえ、私は人と呼べる者ではございません」
……人では無い
確かに黒一は答えた、信じる信じないはあれど宗馬は予想していた事に驚きはしなかった
「…まあ…そうだろうな、あまりにも不可思議な事が多すぎた」
宗馬はこれまでを思い返しつつ聞いた
「黒一は恩返しと言っていたが…俺の生まれ故郷で会ったのか?」
「ええ、宗馬様が幼少期の頃、私は貴方様に救われております」
幼少期に何があったか、これが思い出せない
救う行為をした事に心当たりが無くて特に霊的な体験も無かったのだ
必死に思い出そうとしていると黒一が寄ってきた
「私はこのままで良いのです、でも宗馬様がそれで苦しむのは本意ではございません」
そう言って胸元に寄りかかって頭を軽く擦り付けてきた
小さく柔らかく甘い香りを漂わせ、あまりにもゆっくりと自然に
そのまま黒一は宗馬の顔を見上げにこりと笑った
「思い出そうとしてくれるだけで私は幸せでございます」
一瞬いつものどこか触れ難い黒一の雰囲気が柔らかくなり少女のような動物のような可愛らしいものとなり、宗馬の心臓は跳ねたのを感じた
「残念ですが月が隠れそうでございます、暗くなりますのでお帰りはお気をつけて…」
黒一はふっと離れ宗馬に小さな巾着を手渡した
「お土産でございます」
そう言うと横をすり抜け暗がりへと溶けるように消えていった
しばらく動けず黒一が消えた暗い道を眺めるしか出来なかった
フリーズが解けた宗馬は歩き出して自宅へと向かう
与えられた情報と行動を何度も反芻しながら…




