満月の下で
――九月に入り夜空をなんとなく眺めて宗馬は呟いた
「明日が中秋の満月だっけか」
上京してから月は見えにくいものだと感じていたが今日はよく見える
どうしても田舎育ちの為か夜空に慣れてないな
そんな事を考えながら帰宅して改めて満月を迎えようとする月をベランダから眺めまた呟く
「そろそろ来るのかもな」
思う事は黒一の事であった
病院で会った時から約一月は経つ
今までのスパン的に一ヶ月おきに訪問があるので近く現れるのだろう
聞きたい事はあれど言葉がまとまらない
何を言ってもはぐらかされそうな気がしていた
(それでも聞かないとな)
宗馬はこの数日考え込んではまとまらずまた考える
ずっと繰り返して放心状態である
「黒一、お前は何者なんだ」
出会った頃から投げ掛けてるものの答えはくれない、しかし癒しを施す存在
「俺が楽天的な漫画の主人公ならラッキーで受け入れるんだろうな」
少し自分の性格で無いなと自虐し部屋に戻る
「ん…?なんだ?」
スマホが震えメッセージを受信していた
(月島さんだ…ほう)
送られてきた文面にはお父さんが退院しリハビリしながらになるが自宅に戻った事と感謝を伝える内容であった
良かった良かったと宗馬は嬉しく思い近々またお会いする事になるかと退院祝いの品を検索する
(社会人になってから本当にプライベートが薄い大人時代だな)
笑ってしまいながら仕事以外で人に会う事を楽しみにしている自分が居た
翌日、いつも通りの朝から仕事をこなし退勤をすれば綺麗な満月が浮かんでいた
なんだか普通の平穏な日を実感するのは久しぶりな気がする
大きなトラブルの可能性を示すモヤも無く、夏に続いた不思議体験も無く
(普通でいい)
そんな事を思いのんびり出来る時間に身を委ねながらいつもの道を歩いて帰っていく
自宅近くの細道で宗馬は止まった
満月の月明かりが淡く照らす先に一人の人が経つ
辺りには甘い香り
艶やかな黒髪に端正な顔立ち、そして珍しい和装
「恩返しに参りました」
黒一が笑みを浮かべ宗馬を見つめていた




