ありがとうの笑顔
仕事も始まり数日はまた忙しくする日々が続いていた
相変わらずトラブルありそうな箇所や人にはモヤが視える事もある、だが視えてしまえば先回りが出来て処理してしまえる事はありがたかった
そんな数日を過ごして九月になろうとする頃
自宅近くにある昔ながらの喫茶店で宗馬は待ち合わせをしていた
盆前に助けた方の娘さん、月島紫音さんとの待ち合わせだった
お礼の手紙を貰ってスマホのメッセージでやり取りはしていたが実際に会うのは病院以来だ
(そういえば病院に黒一が来れたのは何でだろうな)
忘れていた事を疑問に思いながら店のドアがカランと鳴る
目線を送れば月島さんが到着したようである
軽く手を挙げ席場所を促す
「桐生さんありがとうございます、すみませんお待たせしてしまって」
「いえいえ僕も来たばかりです、お座り下さいな」
互いに頭を下げながら席に着いて注文を済ませる
「改めて父を救って頂き本当にありがとうございます」
月島さんは丁寧に頭を下げ感謝を示す
「僕はたまたま近くに居て救急車呼んだだけですからお気になさらず」
「それでも付き添いまでしてくださって父も感謝しておりました」
「お父様はまだ入院中ですか?」
「はい、軽いとは言え脳梗塞でしたので少し痺れがあるようで…でも意識ははっきりとしましたし来週には退院の予定になります」
心配はあるだろうが先は見えているのだろうと宗馬も力が抜ける
「桐生さんには是非とも父が退院してからお食事でもと、父も希望してまして是非」
「そんなそこまでして頂かなくても充分お気持ち頂いてますよ」
「そんな事仰らず是非!しがない個人店ですがうちの父は頑固なフレンチシェフでして父は必ず自分でお礼をすると意気込んでますから」
笑いながら月島さんは言う、おそらく娘さんが止めても曲げないのだろうなと宗馬も笑ってしまう
「うーんではお言葉に甘えて、まずは退院されてからですね」
「はい是非!…私も本当に感謝してるんです、母は早くに亡くなっていて父と二人で生活する時間が長かったものですから今回の事で頭が真っ白になっちゃいました」
ここまで深い感謝の背景には月島さんが独りになってしまうかもという不安があったからかと宗馬は悟った
それからしばらく月島さんが三十過ぎての独り身である事や宗馬自身も同じようなものだとか、実家や今の仕事の話なんかでささやかに盛り上がり良いところで今日は解散となった
食事会のタイミングはまた連絡し合う事を約束し、宗馬は帰宅した
お礼と言う形ながらプライベートで女性と過ごしたのは久しぶりだったなと、らしくない事を考えていた




