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【懺悔室のシスターさん】に悩み相談すると決まって聖女な『義姉』が全肯定で甘々に甘やかしてくるけど、俺はその理由をまだ知らない~スクールカースト最底辺からのやり直し~  作者: 水瓶シロン
第五章~筒抜け恋愛相談編~

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第55話 チクリと刺さるはクラゲの触手か、それとも運命の赤い糸か

 電車でおよそ二十分。

 そこから五分ちょっと歩いたところにある水族館。


 到着すると、入口付近に入場券を買うための販売機が二つ設置されており、蛇行するように列が出来ていた。


 どうやら、俺が思っていた以上にクリスマスイブのデート先として選ぶ人が多いらしい。


 列の最後尾に並んだ俺と陽葵の前に立っている男女は恋人繋ぎをしているためカップルだろうし、同じような雰囲気のペアが列に並ぶ客層の過半数を占めている。


 陽葵もそのことに気付いたようだ。

 チラチラと他の客の様子を窺ってみては気恥ずかしそうに俯いて視線を彷徨わせている。


 モジモジしていてちょっと可愛い。いや、かなり可愛い。


「な、何だか恋人っぽいお客さんが多いね……!」


 やや上擦り気味な陽葵の声。

 じわりと朱の差した頬を隠すようにマフラーを持ち上げながら、遠慮がちに視線を向けてくる。


「その……周りからは、私と司くんもそう……見えちゃってたりするのかな……?」


 な、何だその質問は……!?

 一体陽葵はどういうつもりでそれを俺に聞いてきてるんだ!?


 そう見えていても良いということなのか、それとも勘違いされてたら嫌だなということなのか……もし後者なら、このあと俺は悲惨な結末を迎えることになるので、是非とも前者であることを祈るばかり。


 だが、どうだろう。

 俺が無意識のうちに都合の良いように物事を解釈してしまっている状態でなければ、少なくとも陽葵が何か嫌がっているようには見えない。


 単純に恥ずかしそうな、照れているような…………


 俺はバクバクと今にも破裂しそうな勢いで心臓を拍動させながら、陽葵の顔を覗き込む。


「そ、そう見えてたとしたら……嫌か……?」

「へぇっ……!?」


 赤面するのは避けられない。

 それでも何とか動揺を押さえながら質問で返すと、陽葵は数回琥珀色の瞳を瞬かせたあと、気恥ずかしそうに半目を作って小声で答えた。


「そ、そんなことないよ……?」

「……本当は義姉弟なのに?」

「だって……私の中で、司くんは……司くんだから……」


 その答えがどういう意味を持つのかは陽葵のみぞ知ると言ったところだろうが、少なくとも周りから俺と恋人関係だと見られることが嫌ということはないようで、ひとまずはホッとした。


 本当はもっと直接的に俺のことをどう思っているか判断出来るような答えが聞けるまで詰めてみたかったが、券売機への列がスムーズに動いていることもあって、そうする前に順番が回ってきた。


 財布を取り出しながら、ふと以前似たようなことがあったなと思い出す。


 一日お兄ちゃんをしたときのことだ。

 期間限定のスイーツの代金を払う際に、俺がまとめて負担しようとしたら陽葵が『楽しい時間は与えられたものじゃなくて、一緒に過ごしたものだからね』と言って自分の分を支払った。


 俺から与えられたものではなく、一緒に共有したものとしてその時間に価値をもとめたからだろう。


 だが、今回はちょっと格好をつけさせてもらいたい。


「えっ、司くん。私も払うよ?」

「んにゃ、大丈夫。これは俺からのクリスマスプレゼント……になるのかどうかはわからないけど、俺が払いたいんだよ」


 そう言って陽葵が取り出していた財布を押し止め、手早く券売機のタッチパネルを操作して学生二人分の入場チケットを購入した。その一枚を陽葵に手渡す。


「……ふふ、そうなんだ。じゃあ、私も司くんにプレゼント用意しなきゃね」


 陽葵が受け取ったチケットを口元に当てながら、どこかくすぐったそうに目を細めた。望は気恥ずかしくなってふいと視線を逸らしながら頬を掻く。


「べ、別に良いって……」


 二人で受付の人に購入したチケットを提示してから入場。空の茜色が届かなくなり、館内の薄暗さに包まれる。


「えぇ~。欲しいモノがあったら遠慮なく言ってくれて良いんだよ? お義姉ちゃんが用意してあげるから」

「…………」


 最小限に絞られた光量の中に浮かぶ陽葵の悪戯っぽい笑み。望はジッと半目で見つめ返しながら隣を歩く。


 じゃあ陽葵が欲しいって言えば本当にくれるのかよ、と聞きたくてたまらなかったが、ふとそうじゃないなと思い止まる。


 もらってどうするんだ、と。


「欲しいモノは自分で手に入れるよ」

「……っ!?」


 俺は陽葵の手を握り、正面で出迎えてくれた大人二人分ほどの高さの水槽に揺蕩う大きなクラゲの前に誘う。


 パチリ、と丸く見開かれた琥珀色の瞳。

 水槽の照明が水の揺らめきを通して陽葵の横顔を薄明るく照らす。


 クラゲから長く伸びる繊細な赤い触手の束はその一本だって水槽のガラスの向こう側へと伸ばすことは出来ないけれど、目には見えない運命の赤い糸とやらが俺から伸びているのだとしたら、どうか今こうして手を握っている君との間に不可視の壁があってくれるな。


 この熱は、酔いは、想いは、見て見られるだけでは満足出来ないのだから。


 もし、俺が溺れた君の隣というこの場所がアクアリウムであったなら、それがどれだけ美しく清浄であろうとも、息が出来ずに沈んでしまうに違いない――――

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